12 牢屋とロイヤー(弁護士)って似てるな(ヤケ)
ヤツカドさんは今日も元気です。
さて。前回に引き続き。
僕は密林の中で、ちょっと暴れてしまいました。
でも本当に大丈夫。
別に暴走したわけじゃないんだ。
エナジードリンク的なものを飲み過ぎたような、そんなテンションなだけだから。
それに原因には思い当たるところがある。
簡単に言えば、魔王様不足。
以前は、2日に一度くらいの頻度で魔王様に生命を捧げていたんだけど、ここのところ忙しすぎてもう何日も魔王様とお会いしていなかった。
で、2日に一度のペースで生命を抜かれるのに体が慣れてしまっていたんだな。
猛烈な勢いで回復していったのに、魔王様に生命を抜かれてなかったものだからエネルギーが過剰になって僕の体内からあふれてしまってたんだ。
この八足の姿でも、パンクしそうでパンパンになっていたものだから化けることすら出来ない。
だから魔王様に生命を捧げればすぐにでも元の状態に戻るはず。
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少し落ち着いたので、八足の姿のまま僕は城に戻った。
図体がでかいけど、幸い僕の執務室にはこのままの姿で出入りできる大きな出入口がある。
「クイ、悪いけど魔王様をお呼びしてくれないか?」
魔王様を呼び出すなんて恐れ多いことだけど、このままの姿では城内を移動出来ないから仕方ない……。
すみません魔王様……。
「あ、ああ。わかった。
しかし久しぶりに見たけど、ヤツカドまたでかくなってねぇか?」
「そうかな?」
出入口や部屋を拡張しないといけないかな。
職人を呼んでやってもらうか……。
おや、ケルルが部屋のすみで怯えている。
このカッコ見せたの初めてだったっけ。
前もってちゃんと説明しておくべきだったな。
そこに魔王様がいらして下さった。
あああああああああああああああ……!!
お目にかかるの何日ぶりだろう。
美しい……!麗しい……!眩しい……!素晴らしい……!
なんという至上の存在……!
世界の至宝と言っても過言じゃない。
魔王様魔王様魔王様魔王様…!!!
「どうしたヤツカド」
魔王様のお声ーーーー!!
肉声!! やっぱり生の声は最高です……。
魔王様ナシで何日も過ごしたとか、ちょっとあり得ないだろ。
真に尊いものを目にすると僕のようなボキャブラリー豊かな弁護士であっても語彙が失われるものだ。
この失われた語彙で魔王様を全面的に称えたいけど、この八足の姿は発声が得意ではない。
あまりペラペラ喋れないんだよ。
もどかしい。
とにかく今は用件をお伝えして、早いとこキスしていただかないと。
僕が端的に事情を話すと魔王様は少しだけ考えたご様子で
「わかった」
そう一言おっしゃると……
僕は魔王様に、牢屋に入れられてしまったわけです。
なんで?
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魔王様は牢の扉の向こうに立っておられる。
「あの、魔王様?
キスして生命食べて下されば何の問題もないんですよ?」
「バカもの」
またバカにされてしまった……。
僕、これでも知的で売ってるキャラクターなんですけどね……。
でも魔王様には何を言われても構わないです。
罵って下さっても僕はご褒美と受け取りますから。
「私もついつい乗せられておまえを食べ続けてしまったのが悪いんだが……。
おまえは確かに私が食うたびに成長している」
「ですよね。
加圧式トレーニングの要領なんですよ」
加圧式トレーニングというのは、比較的新しい筋トレの方法だ。
簡単に言うと血流に負荷をかけることで筋トレの効率を上げるやり方で、これにより短期間で目覚ましい効果を上げることが出来る。
加減が難しいので専門のトレーナーに指導をしてもらって行わないといけない。僕も昔は加圧式トレーニングルームに通っていたんだ。
今はどうでもいいか。
「笑いごとではない。
成長のペースが速すぎるんだ。
身体が生命の増量に追いついていない。
このまま続けると、それこそ私が生命を食わなければいつかおまえは暴走を起こすぞ」
「だから召し上がって下されば……」
言っていて自分でも気が付いていた。
これが危険だということに。
魔王様がいつもお傍にいるわけじゃない。
それにこのままでは本気で魔王様から離れて行動できなくなってしまうじゃないか。
それでも僕はいいんだけど……でもマズいよな。
行動が制限されてしまえば、仕事の範囲も制限されてしまう。
その結果、魔王様のために十分に働けないという事態も生じ得る。
大体、今の状態はほとんど依存症に近いじゃないか。
どんどんエスカレートするぞコレ。
「だから少しペースを落とそうな?
おまえを食べるのは少し落ち着いてからだ。
今のヤツカドは危険だから暫くここで大人しくしていなさい」
「しかし仕事が……」
「どうせその恰好では仕事どころではないだろ。
自力で姿を変えられるくらい落ち着いたら出してやるから。
餌も運んでやるから心配するな」
僕はもう心底、がっくりきてしまった。
そうか……。
僕が落ち着くまでキスもなしか……。
久しぶりにお会い出来たのに、魔王様に召し上がっていただくことも出来ないのか……。
「まったく、ヤツカドほど厄介な魔物は初めてだ」
今度は厄介者扱いされてるし……。
こんなに落胆した気分になったのは何年ぶりだろう。
生まれて初めてかも。
「そんなに落ち込むな。
私だっておまえを食べたいんだぞ」
「え?本当ですか?」
「本当だとも。
おまえは本当に美味い。
3秒で止めるのはなかなか自制心が要るんだ。
だからこそ良い訓練になっているんだが」
「魔王様……」
僕も現金だな。
落ち込んでいた気分がむちゃくちゃ爆上がりしたよ。
そっか。
僕のこと、魔王様は食べたいと思って下さっているのか。
かなり自制心をもってガマンして下さっているんだ。
うわあ、嬉しい。ふふふ。
「分かりました!
僕はここでしばらく大人しくしています。
もし法的アドバイスが必要でしたらいつでもお声掛け下さい。
書類は作れませんけどアドバイスなら出来ますから。クイにも分からないことがあればここに来るようにお伝え下さい」
そんなわけで僕はまたしばらくこの見慣れた牢屋で過ごすことになった。
……でもすぐに出るから!
ヤツカドさんが牢屋に入るのは二度目です。二度あることは三度ある…。
読んで下さってありがとうございます。
評価もブクマも感想もむっちゃ嬉しいです…。ありがとうっ、ありがとうっ!