10 法律事務所の新人教育
ヤツカド式新人教育です。
「オレはクイ!
八角法律事務所のパラリーガルなんだぜ!
よろしくな!」
蛇を紹介すると、クイは何の抵抗もなく挨拶をしている。
ペットみたいなものだと思った僕がおかしいのか……?
これも普通の魔物なのか……?
「オマエ、名前なんて言うんだ?」
「きゅー」
「そうか、しゃべれないんだな?
ヤツカド、こいつなんて名前だ?」
「えっと『ケルル』だったっけ」
「きゅー」
一応意思の疎通は出来ているようだ。
魔王様も知能が備わっていると言っていたしな。
「しかしどうしたもんかな……。
こいつ蛇っぽいし手もないから書類なんて扱えそうにないぞ」
法律事務所のスタッフとしては最低限、手くらいは欲しかったな。
「ヤツカドだって書類持てないじゃないか」
「え? ああ、本体な」
「ケルルだってこれから色んなこと出来るようになるんじゃねぇかな。
化ければ書類だって持てるようになるし」
「なるほど……。まあいいや。
さっきも言ったけど新人教育はクイの仕事だ。
後輩の指導頑張ってくれ」
「あ、そっか。分かったぜ!
オレに任せろ!」
うーん、本当にクイはよく育ったな。
よしよし。
というわけで僕は新人教育をクイに丸投げして、自分の仕事に打ち込むことにした。
クイがケルルの教育に時間を取られるから、その分クイには仕事を流せない。
自分でやらないと。
ふう、本当に災難だ……。
ケルルの件で今日もまた魔王様との甘いひとときは過ごせなかったし……。
うう……、魔王様……魔王様……。
魔王様が足りない……。
本気で暴れそうだよ。
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それから数日、輪をかけて忙しい日々が続いた。
この間、ドリュアキナから法廷を自慢されたオルゴイが、自分も法廷作ると言い出して、法廷の構造について指導するためにオルガリッドまで出張に行ってきた。
クイに仕事を振れない分、その間の仕事もたまっている。
仕事をためるのは好きではないので、とにかくやっつけてしまわないと。
そういえば事務所内にクイの姿を見ない。
最近お茶を入れてもらってないな。
いいんだけどね別に。
今の僕は数日水分を取らなくても脱水症状起こすこともないし。
むしろ禁断症状を起こしてるのは魔王様不足なんだってば……。
何日魔王様にお会いしてないんだろう。
気のせいか身体が火照ってきたような……。
「ヤツカド、見てくれよ!」
クイだ。声が弾んでいる。
こういうときは大抵僕を喜ばせるようなネタがあるんだよな。
今度は何かな。
クイに続いて執務室に入ってきたのは、ひとりの魔物だった。
下半身が蛇で羽のある少女のような姿の魔物。
魔物には性別がないから少女ではないんだろうけど。
「どなたかな?」
「ケルルだぞ」
ケルル?
「おいクイ、コレがケルルなのか?
キミ、ほんとにケルル?」
「はいです」
喋った。
「喋れるのか?」
「練習したです」
横にいるクイは得意満面な表情だ。
「どうだヤツカド。
手が欲しいっていうから、上半身だけでもなんとか書類持てる形態に化ける練習させたんだぜ!
足とか要らねえだろ?」
「そうだな」
「あと、蛇のままだと喋れないみてぇだから、ちゃんと声帯ある形状にさせたんだ。
まだ喋るのニガテみたいだけど、喋ってりゃ慣れると思うぜ」
本当の本当に驚いた。
ものの数日でここまで教育してしまうなんて。
『魔物、三日会わざれば刮目して見よ』ってことか。
なるほど、ケルルが少女の姿なのはクイがモデルになってるからなんだな。
よくよく見ればクイに似ている。
深涛王リヴァルドは僕をモデルにしてるから僕そっくりだし。
「……クイ、僕はどうしたらいいんだろう。
おまえが有能過ぎてビックリだ!
抱きしめちゃっていいか?」
とにかく忙しい上に人手が足りなくて困っていた反動で、いやもう本当にありがたくてありがたくて。
それでも一応承諾を取る。
承諾なく抱きしめて、魔王様のときみたいに変な反撃器官が動いてもイヤだし。
「え」
クイが固まっている。
感謝のハグとはいえ、セクハラっぽかったかな。
「あ、いいんだ。別に。
ちょっと感動しただけだから。
本当にご苦労様。おまえはつくづく有能なパラリーガルだよ。
この形状ならケルルが使えるようになる日も遠くなさそうだ」
「や、ヤツカド。オレもちょっと驚いただけ。
別に抱きしめてくれちゃっていいぜ!?」
「そうかそうか」
僕はクイを盛大にハグした。
「本当に頑張ってくれて、嬉しいよ、クイ。
おまえは絶対手放せないな」
クイのミカン色の髪の毛を撫でた。
モコモコしててなかなか触り心地いいな。
「へへ……。ヤツカドが喜んでくれてオレも嬉しい……」
クイは大人しく僕の腕の中にいる。
よしよし、いいこいいこ。
するとそれを見ていたケルルがこっちに両腕を伸ばしてきた。
「ぼくも」
「なんだ、ケルルも撫でて欲しいのか。おいで」
僕はケルルも一緒に腕の中に入れて、頭を散々なでておいた。
「ふたりとも、よく頑張ったな!」
なんだか法律事務所の新人教育という感じではないけど、別にいいか。
こうやって大いに褒めて感謝して見せれば、どんどん勝手に成長してくれるんだから楽なもんだ。
僕の新人教育のレベル高すぎないか。
これなら新人教育コンサルタントやっても一財産作れそう。
なでなでなで……
もっともっと育って使える人材になってくれよー。
魔王様のお役に立てるようにな!
読んで下さって本当にありがとうございます。
ブクマ、評価むちゃくちゃ嬉しいです。毎日拝んでいます。
感想、跳ね回るくらい嬉しいです…。




