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3 顧問弁護士とクライアントの絆

嵐荊王らんけいおうドリュアキナさんと魔王様とのご関係が気になるヤツカドさんです。


 魔王様は基本的に出張がお好きだ。


 今まで通りあちこちのコミュニティに出向いて自ら色々な仕事に手を出したいとお望みなんだろうなと思う。

 実際、現場で魔物達と直に接している魔王様は楽しそうだ。

 もともと現場主義の方だからな。


 王が軽率に出歩くと権威が保てないのであまり外出をしないよう頼んではいるけど、魔王様がお望みならお好きなようになさっていいと思っている。


 僕のアドバイスなんて、参考程度にしてくれていいんだ。


 だけど魔王様は僕のアドバイスに敬意を払い、積極的に反対する理由がなければ受け容れてくれている。

 顧問弁護士としてこれほど誇らしいことはない。

 僕は本当に恵まれている。



 顧問弁護士とクライアントの関係というのは、まあビジネスの関係なんだけど


 僕がまだ弁護士になったばかりの頃、指導担当の弁護士が話していたことをふと思い出した。


 まだ弁護士になり立てだった頃、近所の総菜屋の跡継ぎ息子と意気投合し、安い顧問料で顧問弁護士になった。


 小さな総菜屋で、普通なら顧問弁護士なんて入れる余裕のあるところじゃない。


 だけどその跡継ぎ息子は、顧問弁護士に経営全般相談しながら必死に事業を拡大し、今では日本有数のグローバルチェーンを経営するようになっている。


 そしてその弁護士は今は業界でも名うての一流弁護士だ。

 顧問料は当初の100倍程度になり、仕事も選ぶので、なかなか頼むことは困難な大物になった。


 だけど、それでもその総菜屋チェーンの社長の相談だけは真っ先に駆け付けるという話だ。


「ベタくさい話だな」と、当時は軽く聞き流していた。


 だけど、ビジネスを超えてともに高めあうパートナーシップのようなもの、そんな絆を魔王様と築いていけるならとても光栄なことだなと思う。


 そう、僕と魔王様との目指すべき関係はパートナーシップだ。

 それ以上なんて畏れ多いし想像も出来ない。

 それでいい。僕は節度をわきまえている。



 ともかく現場好きな魔王様のために、出張の機会を設けて差し上げたかった。


 まだ裁判所もろくにないこの魔物社会で、本来なら被告人は魔王城まで来させて裁判を行う方が良いとは思う。


 しかし、魔王様の移動能力があれば、魔王様が現地に赴いて裁判を行う方が断然低コストだ。

 確かに魔王様の個人的な能力をあてにしたシステム設計は魔物の社会化の観点からは望ましくない。

 郵便事業のときと同じ理屈だ。


 とはいえ今はやはり過渡期。


 これからシステムを整えるにあたり、一時的に魔王様の個人的な能力をあてにした運用をすることも少しは許されると思う。


 という理屈をつけて、魔王様のお好きな出張の機会を増やすことにした。



 ……うーん、僕はクライアントに甘いタイプじゃなかったんだけどなぁ……。


 どうしてこうなってるんだろ。

 魔王様が美しくて素晴らしすぎるからいけないんだ。



「では行こうか。

 おいでヤツカド」


 魔王様から差し出された御手。

 ここは甘えて魔王様に連れて行ってもらうことにする。


 僕が一人であそこに行くとなると、やっぱり一晩はかかってしまうから。


 必要な書類は鞄に詰めた。

 魔王様に着用してもらうべく仕立てたローブも持った。


 僕は魔王様の御手を取った。



_______________________



『アルパドリュー』


嵐荊王らんけいおうドリュアキナ』が担当するコミュニティ。


 断崖絶壁に囲まれた高山にある洞窟。


 外界からは隔絶された酸素の薄い地で、この地に適応している魔物以外はこの場所に住むのは難しい。

 基本、飛行能力のある者くらいしかここには出入り出来ない上、上空の風は激しく付近を飛行することすら困難な場所。

 だからこそ人の手が及びにくく魔物にとって安全な所とも言える。


 こんな地でも魔王様にとってはあまり関係ないらしく、問題なく到着した。


 僕はといえば…。

 酸素が薄いと理屈では考えているんだけど、どうも今の僕はあまり酸素を必要としていないようで、実感としては分からない。


 こんな秘境に魔王様と二人きりで出張とか、ちょっとアダルトなシチュエーション……なわけはないか。

 普通にアルパドリューには大勢の魔物がいるし。



「魔王様、いらっしゃい~っ。

 お待ちしておりました~」


 嵐荊王らんけいおうドリュアキナの顔は蔦に覆われているために表情は分からないが声が弾んでいる。

 魔王様にお会いするときはいつもこんな調子なので、魔王様のことを慕っている様子が分かる。


「ああ。連絡ありがとうな」


 魔王様もなんとなく表情が柔らかいような。


「お仕事の用事がないとお会い出来ないから、ワタクシ寂しいのです~」


 そう言ってドリュアキナは魔王様の手を取った。


 ちょっと待て、馴れ馴れしすぎないか?

 僕を差し置いて用事もなく魔王様のお手を取るとか。

 僕だって節度をわきまえて用事がないと触らないんだぞ!?

 さっきは無断で魔王様に抱き着いて胸に穴が空いたんだからな!


「ドリュアキナさん、まずは連絡いただいた件についてお話しましょう」


 僕はちょっと強引に割り込んでしまった。


「あ、そうねっ。

 魔王様とヤツカドくんに喜んでもらえるものも用意してるの~うふふ」


 なんだろう。


「じゃーーーん♪

 『裁判所』を作りました~!」


 マジ?


 魔物の棲む峰とは別の峰にある洞窟を丸まるひとつ使って裁判所が作られていた。

 大したもんだ。

 法廷の他、裁判官室、当事者控室もあるし監置所もあるぞ。


「すごいな」


 魔王様も感心しておられる。


「でしょ~!ヤツカドくんから聞いていた『裁判所』ってこんな感じでしょ~!?」


「正直驚きました」


 ドリュアキナへの法教育の際に、やたら裁判所の内装について質問を受けていたけど、これを作ろうとしていたのか。


「もともとここには牢屋があったんだけど、折角だから併設しちゃいました~」


 魔物の世界には重機こそないものの、力が強い者も多いので土木建築作業は比較的得意な傾向があるようだ。

 僕も爪や消化液を使ってその手の作業をするから分かる。


 詳しい話は『裁判官室』で行うということで、そこに移動した。


 裁判所内をざっと見たが、まだ形だけで、特に魔物が利用している様子もない。

 職員を配置しているということもないようだ。

 まあそりゃそうだね。


 ドリュアキナは形から入るタイプなのかな。

 そういうタイプいるよな。





次回、初めての裁判です。

法廷は出来たものの、まだなんにもない。

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