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19 顧問弁護士のウワサ

「楽にしていい。それより、話を続けてくれ」


 四天王の会合の場。

 魔王様のお許しが出たので、僕は話を促す。


「オルゴイさんが法律のことで質問があるとのことでしたね」


「あ、ああ。そうそう。

 あのさ、法律に『魔物を殺さないこと』ってあるだろ?

 ってことは、殺せなかったら死刑にならないってことなんだよな?

 捕まえなくていいんだよな?」


「そうですね」


 オルゴイが質問したいことが分かったぞ。

でも最後まで言わせよう。

 質問するために言葉を組み立てることは大事なことだから先回りしてはいけない。


「例えば、殺そうとしたけど殺せなかったとするだろ?

 そいつは捕まえなくていいのか?」


 さて。どうやって説明しようかな。


 日本もそうだけど、近代刑法の原則として『罪刑法定主義』というものがある。これは、犯罪として処罰するためにはあらかじめ法令で犯罪とされる行為の内容や刑罰を明確に規定しておかなければならないという原則だ。


 なぜこの原則があるかというと、予め法令で予定されていない行為を処罰されるのでは、何が刑罰に引っかかるか分かったものではないので人々の行動が阻害されるからだ。

人々は刑罰を恐れて行動を委縮させてしまうので、社会の発展が鈍くなる。

 社会をのびのびと発展させるために罪刑法定主義は有益だ。


 もし、この『罪刑法定主義』を今の魔物社会において採用するとなると、先ほどオルゴイの言うような『殺そうと思って殺すに至らなかった事例』つまり『殺人未遂』は法に規定がない以上は『処罰してはならない』ということになる。


 でも、僕はまだ『罪刑法定主義』はこの魔物社会には使えないと思っている。


 だって考えてもみてくれよ。

 罪刑法定主義は刑を科す行為をあらかじめ全部規定しておかないといけないんだぞ?

 この原始的な社会で、そこまで緻密な法律を設定したら、社会が混乱してしまう。

 まだ魔物は法律に全く慣れていないんだ。


 罪刑法定主義は、人権がある程度浸透した近代社会だからこそ採りうる制度とも言える。

 魔物社会にはまだ人権なんて概念すら導入していない。


 だから今は焦ってはいけない。


「まだ法律に規定がなくても、慣習として処罰していることがあるならそれを尊重すべきでしょう。

 オルゴイさん。この法律が施行されるまではオルガリッドではどうしていました?

 魔物殺しやその未遂をどう扱っていましたか?」


『オルガリッド』というのはオルゴイのコミュニティにつけた名前だ。

 ラヴァダイナスと同じように『オルゴイ』に『arid(荒れた)』を適当に合わせたんだけどね。

 すいませんねぇ安直で。


「え? ああ。うちでは別にもともと魔物殺しがあっても特に何もしてなかったな。

 弱いヤツが死ぬのは仕方ないことだし。

 殺し損なっても同じだ」


「そうですか。

 じゃあ他の四天王の方のところではいかがですか?

 今まで魔物殺しを処罰していたところはありますか?」


 ダイナモス、ドリュアキナ、リヴァルド。

 三者とも違うようだ。


 そっか。いや別に構わないんだけどね。

 今までは同胞殺し放題だったんだね。


 うーん、少し意外だったな。

 魔王様の命令で安易な同族殺しは禁じているという話だったから、ひとつくらい魔物殺しを明確に禁じてるコミュニティもあるかと思ってたんだけどさ。

多分今までは魔王様にバレたときだけ問題になっていたんだろうなぁ。


 つまり、慣習としても魔物殺しやその未遂を処罰する習慣はなかったということか。


「分かりました。

 では、殺し損なった場合には捕まえてはいけません。

 今まで処罰していなかったのに、法律もなくいきなり未遂を処罰する理由はありませんからね」


 今後、未遂を処罰することになるとしても、それは未遂を処罰する法律を作ってからだ。


「わかったよ。じゃあさ…」


 オルゴイは更に質問を続けようとしている。

 勉強熱心で先生嬉しいよ……。


 とはいえ、こう質問が多いならこんな場所ではなくしっかりとレクチャーのときに説明した方がいい。

 そう言って打ち切った。

 あんまり魔王様をお付き合いさせても申し訳ないしね。


 そういうことで、しばらくは四天王のコミュニティに通ってレクチャーの日々が続きそうだ。

 出張が増えると魔王様のお傍を離れる時間が増えるのが切ないところだけど、最初は仕方ない。

 魔王様の望む『社会』を構築するためには僕が耐えなければ。


「ところで、最近うちの…そうそう。アルパドリューって名前つけてもらったわね。ふふっ」


 ドリュアキナのコミュニティ。

 毎回名前の付け方が安直過ぎて説明したくない……。

 もういいよな。いっそネーミング職人を雇いたい……。


「ヤツカドくんのことがすっごく噂になってるの。

 うちって外界から遮断されてるじゃない?

 ウワサくらいしか楽しみないのよね~」


 また僕の変な噂が出てるんですかね……。


「外界から遮断されてるのに噂が入って行くのはなぜですか……」


「そりゃあ、郵便の子達が来るたびに引き留めてウワサを片っ端から喋らせてるからに決まってるじゃないの」


 ああ、そうでした。

 飛行能力のある魔物を郵便事業に使ってるんだった。

 うん、クイの発案で僕が組織しました。


「今度はなんですか?

 知性で殴って無理やり言うことをきかせるとか鳥と愛を交わす性癖とか……。

 言っておきますけど全部違いますからね」


「ラヴァダイナスでは知性で殴って無理やり言うことをきかせてたではないか」


 ダイナモスは誤解している。


「ねえ、言っちゃってもいい?

 魔王様も怒ったりなさらないかしら? ふふっ」


「言っておきますけど、魔王様の名誉を侵害するような話ならこの度施行した法律の魔王様への服従義務違反として死刑ですからね……。

 四天王であっても例外はありませんよ……?」


 魔王様がお怒りになるような話題なら当然。


「魔王様、ワタクシ、そんなつもりないんです~。

 あくまでも聞いたウワサなのですわ」


「分かった分かった。言ってみろ」


 ああもう魔王様は甘いな……。

 ここはもうちょっと厳しくしましょうよ。


「じゃあ言っちゃう。

 あのね。魔王様とヤツカドくん、夜な夜な誰にも言えない濃密なイチャイチャしてるって話なの~」



………。


濃密なイチャイチャ……?



「そんなことはしていない」


 と魔王様。


「そうですよ。僕が魔王様に不埒な真似なんてするわけありません。

 法教育をさせていただいているだけです」


 僕も当然そう答える。


「え~? そうなの~?

 やっぱりデマなの? つまらない~」


 デマです。


 僕が夜な夜な魔王様としているのは、法教育と軽い1秒のキスだけです。

 毎回腰が砕けるほどの衝撃で足腰が立たなくなってますけどね。



 というか。


 魔王城のセキュリティはどうなってる!!

 責任者誰だ出てこい。






ブクマも評価も嬉しいです…むっちゃ励みになっています。

どうぞあなたに幸運がありますように!

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