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17 法律家たるもの幅広い知識が必要だ

「マルテルさん、今日もお願いします」

「ヤツカド……うン……わかってルよ。好きにシテ……」


 これは僕の最近の習慣だった。


 マルテルの藁の巣に入り込み、マルテルの身体をすみずみまで見て、触り、揉み解し続ける。


「ああン……。そんなとこまで……ヤツカド……」

「すみませんね。

 でも遠慮はしませんから」


 マルテルは身をよじって避けようとするが僕は構わず触り続ける。


「ダメ、ダメ……そこは……ううン……」


 通常誰にも触らせない、見せない身体のプライベートな部分。

 だが、それこそが僕の欲しいところ。


「ああアアぁ、イヤァーーーー」


 マルテルが声を上げた。

 おい、あんまり大きな声を出すな。

 誰か来るじゃないか。



「ヤツカド……マルテルと何してるんだよ」


 来ちゃった。


 マルテルの巣の下に立っていたのはクイだった。


「クイ、なんでここに……」


「ヤツカドに急ぎでチェックして欲しい書面があったから探したんだけど、オレなんつーとこに来ちまったんだろ」


 まあな。いいところだったのに。


「はいはい。分かったよ。

 書類チェックするから。

 マルテルさん今日もありがとうございました。

 また頼みます」


「お、お手柔らかニ……」


 僕は立ち上がってマルテルの巣から出て下に降りた。

 何か言いたげなクイから書類を奪うと内容を確認する。


「ああ、四天王全員集まったんだな。

 部屋の使用許可書ねオッケー。ご苦労さん。

 確かにこれは急ぎの書類だったな。

 四天王も久しぶりだしみんなでおしゃべりくらいしたいだろうから、全員集まれるホールにも案内しておいてくれ」


 次の指示をしたのにクイはその場から去ろうとしない。


「まだ何かあるのか?」

「マルテルと何してたんだよ」


 それか。


「大したことじゃないよ」

「まさか……ヤツカド……マルテルと愛を確かめ合っていたとか……」


 ぶほ

 なんか変なとこに空気入った。


 愛を確かめ合うとか、なんつー言葉を覚えてきたんだクイ……


「何考えてんだおまえ」

「だってだって、マルテルの恥ずかしいとこ触ってたんだろ!?

 そういうのって愛する相手とやることなんだろ!?

 オレ最近そういうのもしっかり勉強してるから知ってるんだぞ!」


 法律にたずさわる者である以上、幅広い知識は必要……というか。

 どっからそういう知識持ってきたんだ?


 いや言わなくても分かってる。

 歳を経た魔物の連中から片っ端からリサーチしてるのは知ってるんだ。

 そしてそのリサーチを頼んだのは僕だ。

 魔物特有の生態について調べておきたかったから。


 でもそうかぁ。

 性別のない魔物でも愛を確かめ合う行為はあるものなんだな。

 毛繕いみたいなもんかな。勉強になったわ。


「オレ、確かにヤツカドに『魔王様以外に愛してくれる相手を探したら』って言ったさ!

 でも、なんでマルテルなんだよ!

 別にマルテルが悪いわけじゃないけど、普通ならもっと自分と似たタイプの……ああでもヤツカドみたいにでかい相手はいないから似てる相手を探すのは無理か…。でも手近なところで済ますならさ、マルテルじゃなくても……」


 この混乱状態は見覚えがある。

 下手に知識が多いと知識を暴走させて混乱することがあるんだよな。

 勉強の過程ではよくあること。


 とはいえこの誤解はちゃんと解いておかないと。


 うちのパラリーガルに僕が鳥に手を出す性癖に目覚めたとか思われたら大変なことになる。


 ただでさえ僕の変な噂が流れているようだから、自分の情報はしっかりコントロールしなくては。

 自己情報コントロール権といって……いやこんな話は後だ。


「これはリサーチなんだ。

 ああもう分かったよ。

 ちゃんと説明してやるから。

 クイ、ちょっと離れてくれ。

 もっと遠くに」


「?」


 クイは言われたとおりに僕から距離を取った。

 僕の方からも離れ、十分距離が取れたので僕は八足の姿にこの身を変えた。


 そしてこれからが大事なところ。

 今しっかりと見たマルテルの姿……あの翼。

 あれをイメージして……。


 次に僕が姿を変えたのは、マルテルにそっくりな鳥の姿だった。


 姿を変えるためには、一旦全部リセットしなくちゃいけないから八足の姿にならないといけないのが少々厄介なんだよな。


「おお!」


 クイが歓声を上げる。


「どうかな。移動の際に飛べると便利だと思ってさ。

 マルテルを参考にさせてもらった」


 僕が姿を変える技能は目覚ましい上達を遂げ、最近では人間以外の姿も色々試している。


「す、すげえな!

 ヤツカド本当にすげえや!」


 うんうん。大いに尊敬していいんだぞ。


「ただ、機能までトレース出来ているかと言うと……」


 僕は翼を羽ばたかせて飛ぼうとしてみたが、翼はくうを切るものの飛翔に至らない。


「まだ形だけなんだよな」


 あああ、とクイのガッカリする表情が見て取れた。


「形だけならともかく機能まで真似ようと思うと難しいんだよ。

 鳥の翼の仕組みや骨格、それに羽1枚ずつの構造。そういったところまでしっかり形をイメージしなくちゃ完璧に化けることは出来ないんだ。

 これがなかなか難しくて、何度かマルテルさんにあちこち見せて触らせてもらってたんだよ」


「そ、そういうことか…。

 良かった……ヤツカドがてっきり」


 誤解が解けたようだ。

 もう変な噂を立てられたくないもんな。


「飛べるのいいよな。オレも練習しようかな」

「そうだな。いいんじゃないか?」


「元々飛べるマルテルや魔王様が羨ましいぜ」


 と


「魔王様って飛べるのか?」

「あれ? ヤツカド知らないのか?

 そりゃ魔王様は一瞬でどこにでも移動出来るから滅多に飛行形態を取らねぇけど、ちゃんと飛べるぞ」


「飛行形態…」


 そういえば以前『三形態ある』って言っていたような。

 魔王様の飛行形態か……どんなだろう。



 以前、夢で見たようなお姿だったら……。

 

 まあ、あれは夢でしかないけど。






読んで下さってありがとうございます。

むっちゃ嬉しい…


次回、法律公布です。四天王やっと全員出てきます。



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