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7 報告案件

 二日後、何とか動けるところまで回復した。

 八足の怪物になって休んだので、これでもかなり早く回復した方だ。


 そろそろ魔王様の元に報告に行かなくては、と思い人間の姿に化けたところ、魔王様の方が僕の部屋に足を運んで下さった。


 それはとてもありがたいことだけど、あまり簡単に配下の見舞いに来ちゃうのもどうかと思うな。

 威厳を保つためにも少し腰は重いくらいでいいのに。


 でもまあ、僕のところならいいか。

 顧問弁護士と連絡を密にすることは大事だ。


 魔王様は僕の顔を見るなり一瞬安堵の表情を見せたのも束の間、急に怒りだした。


「おまえは!何を考えてるんだ!あんなことされたからうっかり食ってしまっただろう!命が惜しくないのか!?私の食欲は底なしなんだぞ!もう二度と断りなく私の口に己を差し出すな!」


 うわぁ、こんな剣幕で怒りを表す魔王様なんて初めて見た。


 お怒りの表情もまた麗しいが、それどころじゃないな。

 これは謝っておいた方がいい。



「申し訳ございません」


「今回も何とか生きていたから良かったものの……。もしヤツカドを殺してしまっていたら私は……」


 なんだか想像以上に心配を掛けてしまったようだ。

 それは多分僕が今はこの国に必要な存在になっているからなんだろうけど。


 どうにも魔王様の目にはもっと遠いものが映っているような気がする。




 このときの僕はまだ知らなかった。

魔王様の抱えているものを。



 しかしこれだけは言える。


 魔王様の不安を払拭するために僕は説得力を持って魔王様を安心させなければならない。

 魔王様の憂いを取り除く、これは僕の使命だ。


 僕は自信を持って言い放った。


「大丈夫です。

 僕は死にませんから!」


「なぜそう言える」


 魔王様は怪訝そうに聞く。


「魔王様も僕を二度食べてご存じかと思いますが、僕、かなり生命力あるみたいなんです」


「そうだな。今までの経験から言えば既に二度死んでいる。だがそれも私が途中で止めたからだ」


「つまり二度の経験で分かることは、僕は魔王様が正気に戻るまでは持つということです。積極的に魔王様が僕を食べ尽くそうと思わない限りは僕は死なないのです」


「しかし……」

「数日休めば回復しますしね」


「だが……」

「それどころか、なんか魔王様に食べられるたびに僕のキャパシティは増えてる気がするんですよ」


「そんなことが……」

「やっぱり適度な消耗は必要なんですね!」


 魔王様の反論を待たず、間髪入れずに畳み込んだ。

 魔王様は既に反論する言葉を失っている。


 ふふふ。チョロい。

 僕にかかればこの程度の説得。

 魔王様をお慰めするためなら僕はどんな雄弁も詭弁も使いこなしてみせる……。


「……困ったヤツだな、ヤツカドは」


 口では敵わないと悟ったのか、半ば魔王様は諦め気味でため息をついた。


「とにかく、二度と無断で私に口づけするなよ」


 その表情は真剣そのものだったので、ここは異論を挟むべきではない。


「分かりました。二度と無断でキスしません」


 そう言いつつも


 ちゃんと承諾を取ればいいんだな。


 そんなことを内心考えていた。


 ともかく魔王様のお怒りは収まったようだし、そろそろ仕事をしなくては。


 魔王様を応接用のソファに座るよう促し、僕はラヴァダイナスでの出来事をつぶさに魔王様に報告した。


「そうか。例の人間には背後関係はなかったか。それは良かった」


 この報告はやはり魔王様にとっては朗報らしく表情は明るい。


「ええ。ですから人間が魔物の存在に気付いて軍を組織しているという可能性はほぼ無いと考えて良いかと思いますが……」


「なにか気にかかることでもあるのか?」


「いえ……。逆に僕らは人間の生息場所を把握しているのですか?」


「いや。とにかく接触を避けているからな。こちら側から人間を探すこともしていない。だが探した方が良いだろうか」


「いいえ、このままで良いでしょうね。無駄に危険を増やすことはありません。人間が見つかってから住処を探す方が良いのでは」


「私もそう考えている」


 確かに人間の文明や技術力の程度も気になるといえば気になる。

 もしも発達した文明を持っているなら、それをいただいてしまえば魔物世界の文明も格段に上がるだろうし。


 しかし探索班や調査班を出すのはあまりに危険過ぎる。

 どこで正体がバレで魔物の存在を認識されるか分かったものではない。


 今はとにかく魔物の『社会化』を進めてしまわないと。


 ただ今後、人間の存在を覚知したのち、ただちに調査を出せるよう予め調査班を組織しておくことは有用だろう。


 そう魔王様にお伝えした。



 調査班の人材の抜擢、編成、教育訓練……。

 また僕の業務が増えていく。


 だが我が敬愛する至上の美を称える麗しき魔王様のためなら、どんな苦労も喜びでしかない。

 がんばるぞっと。


「明日からまた僕は通常業務に戻ります」

「そうか。では私は失礼する」


 あ。そうだ。


 ソファから立ち上がった魔王様に僕は声を掛けた。


「魔王様のお部屋のリフォームも進めますね」


 これも楽しい業務になりそう。


 ふっふっふ。

 敬愛する魔王様のお部屋を僕色に染め上げるのさ……。




評価・感想・ブクマ、いただけるととても嬉しいです。

読んでくれてる人いるんだなと思えるのありがたいです。 

いつもありがとうございます。

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