5 僕のネーミングセンスが皆無な件について
「これでこの件の処理は終わり。今後は生かせておく手間がなくなりましたよ」
人間の姿に戻った僕は、ダイナモスにそう言った。
そういえばまだ言ってなかったかも知れないけど
僕は今では自由に姿を変えることが出来る。
魔王様に心よりの忠誠を誓った後、いつも魔王様のお手を煩わせるのもなんなので、必死に練習した。
今となればこの人間の姿に執着はないんだけど、こっちじゃないと言葉がうまく喋れないし細かい作業には向かない。
やはり普段は人間の姿でいることにしている。
さすが僕と言うべきか、姿を変える技能も素晴らしい上達を遂げ、今ではクイなんて比べるレベルじゃない。
人間の姿以外にも変わることが出来るし、かなり応用も利く。
以前、魔王様が僕の姿を変えて下さった経験から、形を変える技能は自分以外の他者に及ぼすことも可能であること、重要なのは強く具体的にイメージすること。
そういった方法論も僕が確立したので、魔物世界におけるこの手の技能は格段に向上した。
この点も魔物達に僕が一目置かれている理由のひとつになっている。
やっぱり僕はなんでも出来るんだよな。
最近は、八足の姿もあまり抵抗がない。
一旦受け入れてしまえば、それはそれでメリットも多いんだ。
まずでかいから移動が速い。
ちなみに、ダイナモスのコミュニティに来る際にも八足の姿になった。
でかいだけでなく走ればスピードがすごいんだ。
人間の姿だったら何日かかっていたことか。
ただ、でかいだけあって目立つという難点もある。
闇夜の中の移動とはいえ、万が一にでも人間に見られたら困る。
あの政治家のバカ息子に背後関係がないと分かっても、人間が近くに生息している可能性はゼロではないのだから。
もうちょっと目立たない移動方法を確立したいところだけど、それは後で考えるとして。
あとは、あれで物を食べると何でも美味い。
基本生きた動物が美味しいと思うけど、岩や金属など鉱物、それに木や草などの植物も、口に入るものは大抵食べられる。
そして完全に消化するから無駄がない。
それに、回復力がすごい。
だから事務作業で疲れたときに、ちょっと八足になって休めば、休憩時間をかなり短縮できるんだ。
ほとんど眠る必要がなかったのはそのせいだったんだな。
以前『裏技がある』って話をしたと思うけど、こういうこと。
今は自由に人間の姿になることが出来るけど
もう人間社会に戻りたいなんて思わない。
愛する魔王様のお傍にいられるのが何よりの幸せだから、それを手放すことなんてするもんか。
そういえば、さっき、人間を食べてしまったな…。
ボロボロで汚かったから、正直あんまり食べたくなかったけど…
一番処理が楽だったし。
それに、やっぱり結構美味しかった。
ダイナモスも食いたかったかも知れないけど、ここは個人的な恨みもあったことだし僕が食べたことは許して欲しい。
「ほ……ほんとにおまえの知性は素晴らしいのう」
そのダイナモスはなんか引いている。
僕のこの天才的な変身能力は知性のたまものと言えるから、知性で生き抜いていることに違いはない。と、説明してある。
くれぐれも言うけど、僕は粗暴なことは嫌いなのです。
やっぱり大事なのは知性ですよ。
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その後は、ダイナモスといくつかの細かい点について打ち合わせをした。
今後は定期報告に魔王城まで行くことを約束させ、途中の中継ポイントも確認した。
ダイナモスの移動はあまり早くないため、魔王城まで何日かかかるので昼間を過ごせる場所が必要なんだ。
途中に茶店でもあれば旅も楽しいだろうな。
茶店はともかく、中継ポイントを居心地良く過ごせる場所にすることは提案しておいた。
あとは……
「ダイナモスさん、この辺の地域って地名はないんですか?」
「地名か……。考えたこともなかったわ」
「じゃあ何かつけましょう。この地域の特徴ってなんですか?」
「そうだな。火山が近く溶岩石が多いことかのう」
そもそも僕はあまり固有名詞に興味がないので、ネーミングセンスもほとんどない。
とりあえず適当に提案してみるか。
「『ラヴァダイナス』なんてどうです?」
Lava(溶岩)にダイナモスを混ぜただけだが
「おお!カッコいいな!ワシの名前を入れてくれたのか!」
管理者の名前が入ってると覚えやすいかなと思っただけなんだけど
「ヤツカド殿のことをワシは誤解しておったよ!無理やり知性とやらで言うことを聞かせる乱暴なヤツかと思っておったがどうして……ワシに対してこんなありがたい配慮をしてくれるとは!」
少々引っかかるものの、評価が爆上がりしたようだ。
まあ信頼を得られたのは良かった。
「じゃあ地名は『ラヴァダイナス』ということで。
魔王様にも報告しますね。
あともうひとつ。ダイナモスさん、なんかカッコいい二つ名ってないですか?」
ついでにコレも決めちゃおう。
「なんじゃいそれ……。地名はともかくそれは必要なものか?」
「肩書みたいなもんですよ。例えば僕なら魔王様の『顧問弁護士』ですけど」
「おお!確かにそういうのがあるのはカッコいいな!」
ダイナモスは乗り気だ。
「ワシも何かカッコいい二つ名というのが欲しい。
考えてくれんか?」
僕のセンスは……いや、ラヴァダイナスは気に入られてみたいだし、実は僕はセンスの塊では? 我ながら才能がありすぎて怖いな!
……しかし、しかし……何かカッコいい二つ名……うーん、うーん……四天王っぽいの……
「次にダイナモスさんが魔王城に定期報告にいらしたときまでに素晴らしい二つ名を考えておきますよ!」
「そうか!それは楽しみだ!」
結局思い浮かばなくて胡麻化した!
バレてない!
我ながら誤魔化すのは得意だ!
ついでにダイナモスが魔王城に報告に来るインセンティブにもなったし!
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というわけでダイナモスの好感度を爆上げした僕は、ダイナモスの夕食の誘いを断りラヴァダイナスを後にした。
……うん、やっぱりコミュニティの名前があると便利だな。
ともかく夜のうちに移動しなくてはならないので、タイミングを逃すと帰るのが一日遅れてしまうから夕飯なんて付き合っていられない。
用事を済ませた以上は早々に戻って魔王様に素晴らしい報告をし、お喜びいただきたい。
僕は移動速度を高めるために、今回も八足の姿に変わった。
ザクザクと木々をなぎ倒し移動していく。
あまり派手にやると僕の移動跡から魔王城やラヴァダイナスの位置を知られないとも限らないから、出来るだけ木々を避けているんだけどね。
移動しながら、道のあちこちで少々ゴハンをつまみ食いしつつ、先を急いだ。
そういえば、魔王様って基本的には何を召し上がるんだろう。
僕も食べられたことだし、多分生き物は管轄内だと思うんだよな。
魔王様に僕を食べていただくのはハードルが高そうなので、何かお喜びいただけるようなものを贈れればいいんだけどな。
ダイナモスさんの二つ名、結局著者にネーミングセンスがなくてどうしても思い浮かびませんでした。ゴメンよ…ヤツカドさん…