3 四天王とか作っときたいよね
タイトル少し付け足しました。
ヤツカドさんの言う「優しく説得」や「知性を尽くした説得」は、あくまで本人による主観であって、客観的にどう見えるかは保証しておりません。
弁護士の仕事はクライアントの代わりに裁判所に出頭することと一般には知られているが、他にも色々な仕事がある。
『本人の代理として法律事務その他交渉等を行う』というのもその一つだ。
よく民事実務を行う弁護士のことを『代理人』と呼ぶが、それはこのためだ。
弁護士が代理として交渉することにより、多忙なクライアントの手間が省ける他、本人が陥りがちな『感情的になって法的に不利な契約を締結する』といったミスが避けられる。
なお、この代理交渉といった法律事務は日本では『弁護士資格』を持つ者以外には認められていない。
資格のない者が行うと弁護士法により非弁行為として処罰される。
これば別に弁護士の利益団体が政界にかけあい独占営業を保証させたからというわけではない。
法律代理により締結される『契約』が非常に重要であることに鑑み、例えば反社会的組織が本人を犠牲にして利益を得るような犯罪行為が蔓延しないよう配慮されたからだ。
実際、ヤクザによる非合法な代理行為は日本でも陰で散々行われている。
借金の取り立てとかね。
つまり法律の規制が必要となるほど重要で責任が重い仕事ということ。
僕は魔王様の顧問弁護士として、魔王様の代理交渉を全権的に委任していただいている。
愛する魔王様にこれだけの厚い信頼をいただけた栄誉に打ち震えずにはいられない。
全力でその信頼に応えたい。
というわけで、数日後。
僕は魔王様の代理として一人ダイナモスの派遣されているコミュニティに向かった。
……いい加減エリアごとに名前も決めておきたい。
つい多忙で後回しになってしまっている。
移動は夜のうちにしか出来ないが、なんとか一晩で到着できる距離だ。
コミュニティの作りは魔王様のいる場所とそんなに変わりない。
密林に隠された洞窟。
ただ、ここは活火山の側なので溶岩石が洞窟の周囲を覆っている。
一見したら入り口は分かりづらい場所にある。
外敵から隠れるためにどこもそう変わらない。
ここには以前一度視察に来たことがあるから道には迷わなかった。
迷路のような洞窟の中を進む。
方向音痴でないのは幸いだ。
毎度のことながら暗さを感じない。
「ダレダ」
岩陰から声を掛けられた。
「魔王様の顧問弁護士のヤツカドです。
ダイナモスさんに会いに来ました」
声の主はゆっくり姿を現した。
丸るい目、細くて長い尻尾。
等身大のトカゲのような姿の魔物だった。
「ウソダメ。ニンゲン」
ふう。またこのやり取りか。
気長にやるしかないな。
いろいろあって、無事僕はダイナモスに会うことが出来た。
ダイナモスは洞窟の中でも比較的広いドーム状になったホールのような場所で、他の十数匹ほどの魔物達と一緒にいた。
ダイナモスは、全長5メートルくらい。
僕から見ればでかい。
魔王様の居城でこれだけの大きさの魔物を見たことはない。
爬虫類を思わせる姿で、大きさを考えると恐竜っぽい。動物のなめし革を加工して作った鎧を身に着けている。
どうやら、他の魔物を集めて格闘訓練をしていたようだ。
組織的な行動は良い傾向だと思う。
「お久しぶりです。ダイナモスさん」
訓練が休憩に入ったのを見計らって僕は声を掛けた。
「ああ、あんたは魔王様の顧問弁護士のヤツカドだったな」
一応面識はある。
「魔王様はお変わりないか?」
「ええ。お元気ですよ。相変わらず麗しくその美しさは寸分も失われておりません」
折角なので魔王様の御美しさについてここでしばらく話し続けたいところだけど、僕は我慢する。
仕事優先だ。
早く終わらせて魔王様のところに戻りたいし。
「そうか」
「ご自身でお会いして下さいよ。定期的に連絡と報告を入れるために魔王様の元に来るということで以前ご納得いただけたはずですが、いらしてないですよね」
「それなんだが、ワシの移動力では着くまでに数日かかってしまうため、途中日光に当たる羽目になるからあまり気が進まないのだ」
確かに僕らは日の光があまり得意ではないから、その気持ちは分からないでもない。
僕も出来るなら出たくない。けれど
「途中、中継ポイントを入れれば問題ありませんが」
「そういう、計画を立ててその通りに行くってヤツがニガテでな……」
「これから中継ポイントの確認を一緒にやりましょう。魔王様もあなたにお会いしたいと思ってらっしゃいますよ」
特に根拠はないが。
「そうかね」
ダイナモスの表情が険しくなったように思えた。
「以前は、魔王様は自らワシにも会いに来て下さった。だがおまえがのさばるようになってから魔王様は来られなくなったぞ。おまえが魔王様を留めているんじゃないのか……?」
そこかぁ。
別に間違ってはいない。
ダイナモスはもともとこのコミュニティに住んでいた魔物で、それを四天王に任命した際、慣れた場所の監督を任せた。
僕が来る以前は魔王様は地方のコミュニティの様子を見にあちこち飛び回っていたようだが、それをやめさせたのは僕だ。
「今後もときどきはいらっしゃると思いますよ。お忙しいのでなかなか来られないだけで。ですからダイナモスさんからいらして下さい」
魔王様に視察に行くなとは言わないけれど、以前のようなやり方では魔王様の身が持たない。
「前から思っていたんだがねぇ」
ダイナモスが僕を睨みつける。
「おまえが来てから何かが変わってしまった。おまえが魔王様を唆しているんじゃないのか」
人聞きが悪いな。そんなことあるもんか。
僕は身も心も全て魔王様に尽くしてしまって自分のために何かしようなんて一ミリも思っちゃいないんだ。
「ワシらが魔王様から離れた地で動いているというのに、おまえだけ魔王様の側で側近ヅラしているのも納得いかないな」
だって顧問弁護士だし。
基本的に側にいて魔王様の代理として働くのが仕事だし。
それに麗しき魔王様のお傍にいたいなんてのは当然の望みであって……これは私欲か。
そこは悪いけど、僕の方がお傍にいて魔王様のお役に立てるから仕方ない。実力の差。
「そこまで言うなら実力のほどを見せてみろ」
あれ?口に出して言ってた?
「僕の特技は知性ですから、見せろとおっしゃられても」
「知性ってのは生き延びるための武器なんだろ? 前におまえ言ってたよな」
よく覚えてるじゃないか。
「では生き延びてみろ」
ゴ……
ダイナモスの巨大な拳が僕の前に振り下ろされた。
僕の目の前で地面が割れている。
何事かと気が付いた休憩中の他の魔物達が側によってきたが、遠巻きに見ているだけだった。
「生き延びるってのはそういう意味じゃありませんよ」
僕はため息をつく。
覚えていてもやっぱり理解はしてないんだなぁ。
「戦う訓練も大事ですけど、ちゃんと勉強もして下さいよ。以前お渡しした課題、やってます?」
こいつにはちゃんと法律を理解して実施させる手伝いをして欲しいんだから、読み書きくらいはまず出来るようになって欲しい。
それなりに知性は高いので、やれば出来ると思うんだよな。
「ヤツカドの知性とやらがワシをしのいだら勉強ぐらいしてやるわ」
そう言って再び腕を振り上げる。
今度は僕への直撃コースだったので、さすがに僕は後退って避けた。
「次は手加減しない」
「やめて下さい。僕は粗暴な行為は好きじゃないんですって。頭脳労働担当なんですから」
はあ、やだやだ。
野蛮な連中は嫌いだ……。
でも社会を構築するためには少しずつこいつらの知性を向上させていかないと。
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「はい。な・に・ぬ・ね・の!『ね』!
寝床の『ね』!」
「ね―――!」
僕は彼らに言語レッスンを施していた。
本来は魔王城に出向いたダイナモスだけにレッスンし、ある程度学習したダイナモスにコミュニティへの教育を任そうと考えているんだけど、折角僕がここまで来たからその辺にいる魔物全員に勉強をつける。
僕は、まずは統一言語を文字化しその言語で書くということをルールづけた。
もともと魔物世界にはまだ文字がなかったようなので、日本語を使うことにした。
もし今後日本からこの世界に来るヤツがいれば、ここで日本語が文字として使われてるから驚くかもな。
この怪物社会も、もともと言語自体はあるから、書き文字が出来ればそれでいい。
日本語は表音文字も表意文字もあるから使い勝手は悪くないはずだ。
とにかくひらがなだけでも読み書きできるようになって欲しい。
書き取り練習は、紙は貴重なので火山灰の上に砂文字として書く。
「これでいいか」
ダイナモスは自分なりに単語を考えて書いてみせた。
「エクセレント!」
褒めて伸ばす。
そりゃまあ文字はまだ解読困難なほどに下手だけど、大事なのはこれから続けさせることだから。
魔王様のために使える魔物材を育てることは必要なこと。
知性ある魔物として魔王様の信認の厚いダイナモスだけあって、なかなか学習能力が高い。
この調子でいけば文字での意思伝達が出来るようになる日も近いな。
ダイナモスは素直に勉強をしている。
今後はちゃんと魔王様のところに定時報告に来てくれることを期待しても良さそうだ。
先程は少々粗暴な展開もあったものの、知性を尽くして説得した結果
「あんたの知性は素晴らしいな。分かった言う通りにする」
僕はダイナモスにそう言わせることに成功した。
あとはここに来たもうひとつの任務を実行しなくては。
捕獲してある人間の件は機密事項らしく、ダイナモスの他はほんの数匹の信頼出来る魔物しか知らないらしい。
僕はその人間の拘禁されている地下深くの牢獄に向かった。
牢獄へ向かう通路は広く、一緒に来ているダイナモスも悠々と通ることが出来る。
どんな大きいヤツを拘禁するか分からないから基本的に牢屋は大きく作ることになっているらしい。
そういえば僕が最初に入った牢もえらく広かったしな。
「一応最低限、食料や水を与えて生かしてある」
ダイナモスはそう説明した。
「尋問と処遇を魔王様から頼まれているんです。場合によっては処分しますから」
僕は言う。
鉄格子の牢の前まで来た。
奥に何か丸まっている。
動いている様子がある。
あれが捕らえた人間か。
怯えているのか、奥から動かない。
とはいえ中がどんなに暗くても、僕の目ははっきり中の人物を見ることが出来る。
中年の男のようだ。
白髪が目立つ。
「こんにちは」
僕は声を掛ける。
僕たちが来ていることは足音で分かっていたことだろう。
中の人物が僕の方を盗み見たかと思うと、急に大きな声を上げた。
「お、おまえ……!!なんでこんなところに……!」
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