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16 これからは愛に生きます

「ヤツカドが……壊れタ……」

「マジかよ……」


 マルテルとクイがそんなこと言っているが、放っておいて欲しい。

 僕は愛する魔王様のために生きると決めたんだから。


「魔王様……」


 僕は図々しいかなとは思いつつ、魔王様のお手を取る。

 麗しき魔王様はお言葉を失っているようだ。


「僕、美味おいしかったですか?」


「あ……ああ……。かなり美味うまかったので簡単に止められなくなってしまった……」


「それは良かった。また食べたくなったらいつでも食べて下さい」


 僕は幸福感に満ちた満面の笑みで魔王様に微笑みかけた。

 魔王様に美味しく召し上がっていただけたなんて、そんな名誉なことがあるだろうか。



「おまえ、本当に大丈夫か!?」


 魔王様が僕をご心配下さっている。魔王様にご心配いただけるなど、そんな勿体ない。


「完全に壊れてる」


 クイはうるさい。


 君には分からないんだよ。

 僕は、この感情の虜になってしまった。

 魔王様を愛するこの感情に。


 今まで持ったことのない感情だったから、自分の中に見つけるのにきっかけが必要だったんだろう。

 それを僕は鬼眼きがんにより発見してしまった。


 自分がおかしくなってしまったのは自覚している。

 だからと言ってどうにもならない。

 どうするつもりもない。

 こんなにも幸福感でいっぱいなのだし、これを排除する気にはなれない。


 自分以外の者のために自分を捧げるなんて『損』なことでしかないし、今までの僕もそう考えていた。


 しかし、この何物にも代えがたい満ち足りた感情を味わう代償と考えるなら、決して『損』なものではない。

 今はそう思っている。


「ヤツカド、だから危険だと言ったのに……。確かに私が悪かったんだが……」


 僕が全てを捧げた美しい方は、気の毒なものを見るような目で僕を見ている。


でも気の毒なんかじゃありませんよ?

 幸せいっぱいです。


 あなたの色々な表情を見るのは嬉しい。

 どんな表情でも貴女は美しいが、その瞳に憂いが宿るなら僕はあなたの憂いをすべて排除して差し上げたい。


「御心配には及びません。約束通りあなたに忠誠を誓います」


「ああ?そうだな。約束は守ってもらおう」


『忠誠を誓う』なんてさっきはその場限りのでまかせで約束したけれど、今となれば貴方に従える良い理由にもなる。


 僕は、この世界でセックス以上の快楽を見つけてしまった。


 今思えば、全てが運命だったのかも知れない。

 非現実的なことは信じていない僕だったけど。


 僕の苗字。八角やつかど

 個性的なので覚えやすくて良いとクライアントからも言われていた。

 僕はこの苗字を気に入っていた。


 だけどこの世界に来て、この苗字が皮肉にさえ思えた。

 まるで八本足の化け物になることがあらかじめ定められていたようじゃないかと。


 だけど、それは皮肉ではなく、僕の運命だった。


 僕に欠落した感情である『愛』。

 これをまさかここで見つけてしまうなんて思ってもみなかった。


 振り返ってみれば、昔の僕は確かに何でも出来た。

 欲しいものは全て手に入った。


 けれど、満たされていなかった。


 欲しいものは全部代用品だった。

 本当に欲しいものが分からず、分かりやすい代用品を次々に手に入れて満たされない心を胡麻化していただけ。


 そして本当に望むものを見つけてしまえば、今まで手に入れた代用品なんてどうでも良くなる。


 最高の快楽は、この方に捧げたいというこの感情にあるんだ。



 だから僕は自分の知識や経験を含め、全てをかけて全身全霊で魔王様のために尽くす。

 あなたが望むなら、戦争に投入されても構わない。

 敵を殲滅せよとおっしゃるなら、化け物になってでもいい。

 どんな相手も殺してみせる。


 だけど、僕が一番役に立てるなら、やっぱりそれは僕の知恵だと思う。

 


「敬意も尊重も何も要りません。どうか僕をあなたのためだけの顧問弁護士にして下さい」


 僕は心を込めてそう伝えた。






第一章はこれで終わりです。


第二章は、壊れちゃったヤツカド君が魔王のために『社会』造りをするお話ですが

第一章同様一人称で繰り広げるため、魔王がいるとベタベタに魔王を褒めないと気が済まない地の文章になってしまうんですが…。


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