世界デビューしてみた
第一章 ドラゴン放浪記編
※ 世界デビューしてみた
人の形をした暗闇を纏った化け物。それが夜王の外見であり、それこそ夜の闇に紛れれば目視で発見するのは難しいであろう。そして夜王は死者を操り、死者を増やす。死者たちは動くゾンビといって良い者から骸骨の状態で動いている者もいる。その中には人間以外の動く死体もある。
彼らの弱点は、火と光の魔法である。
キュクーが率いる教皇親衛隊と対魔物専用部隊は広範囲魔法でどんどん死者たちを葬っている。俺はそれを眺めているだけではあるが、なかなか質の良い魔法を使うなぁと動画撮影していた。撮影の許可は出ているし、他にも動画撮影している者もいる。今後に残すためだろう。
俺の考えとしては魔法は火の魔法だけに絞ってもいいとは思うが、光の魔法はどちらかというと、強めの死者に有効なので短期的に大量に始末するのであれば、有効性はあるとも思える。というのを伝えなくても気付き初めて、実際に火の魔法を多めに使い、なかなか倒れない者には光の魔法を使うという感じに切り替えていた。
死者たちの多くは武器などを持っていて元戦士なのか、魔法を使って応戦してくる死者は殆どおらず、一方的な遠距離からの広範囲魔法攻撃に対して突撃しかしてこない。夜王の死者の軍勢は数だけは多いので、交代しながら継続的に遠距離からの魔法攻撃をしているが、魔力消費以外の被害を出さずに5時間ほどで半分ほどまで減らしていた。とはいえ、朝から攻撃を開始してもこれだけ時間を消費しており、このまま行くと強い死者や幹部、そして夜王と戦うのは夜になってしまうわけだが、キュクーは無理をさせないし、しない。このままのペースで安全を確保しつつ相手を消耗させていくという戦術を取るだろう。
「……」
美女のジト目というのはなかなかくるものがある。転生前の男だった頃の感覚で言えば、それはご褒美にしかならない。ジト目されている理由ははじめは戦闘している様を動画撮影していたが、徐々に飽きてきて途中からキュクー固定カメラと化していたのだ。
夕暮れ時、俺は飽きてきた。
「うむ。飽きた。パスタ食べたい」
隣のキュクーがぎょっとした顔をしたが、既に俺は隣にはおらず、魔法を使い上空に瞬間移動していた。エンシェント・ドラゴン・レペンは人間の事情に積極的に加担しないというのは勝手に俺以外が感じていることであり、神殺しの際に人間に加担するという伝説は事実だが、それ以外でも力添えをすることもあった。
人化魔法を解除し、本来のドラゴンの姿に戻る。千里眼を使い、夜王や幹部たちを補足した。そして被害を出さないように、敵味方問わず停止させるために咆哮をした。
普通のドラゴンの咆哮でも音以外にも魔法を含むこともできるので、咆哮だけでも相手を無力化はできる。間近で咆哮をすれば弱い生物なら死に至ることもある。俺の咆哮の場合は俺の意思を乗せればある程度の相手ならば意思を含めた咆哮だけで相手に効果を与えることができる。今回は動きを停止させようという意思を込めたので夜王たちも人間も身動きが取れないという状態に陥っている。
そして、狙いを定めて炎を吐いた。ドラゴンブレスと言われるものではないが、まあ客観的に見ればドラゴンブレスに見えるだろう。夜王含め死者たちを消滅させた。
キュクーたちはそれを見た。キュクーはその正体を知っているが、その他の人間たちはそれを知らない。彼らからしてみれば、突如として現れたドラゴンであり、その咆哮で動けなくなり、ドラゴンブレスで敵を消滅させてドラゴンは飛び去っていったという状態であり、その目の前で起きた光景に対して唖然とするしかなかった。
とはいえ、一部の軍人はその実力の一端を感じ取ってその正体にも薄っすらと気付き始めていたが、キュクーはこのあたりの守護ドラゴンなのであろうという発言をして収集させていた。あれだけの光景をみて発言の事実を確かめようと考える者はいないわけではなかったが、確かめるにも今回は夜王討伐という目的で進軍しており、正体不明のドラゴンを探すというのは今回の目的とは異なる。しかし、人類の驚異となる夜王の軍勢を少なくなっていたとはいえ簡単に滅ぼす力を持つドラゴンの存在は周辺各国に知らせなければならないだろう。少なくとも勇者かそれ以上の力を持つであろうドラゴンの存在となればそれは驚異なのだ。
後日、突如として現れたドラゴンとその力はしっかりとキュクーの撮影部隊が撮影しており、それを各国に提供するかどうかの判断をキュクーはそのドラゴンであるレペンに委ねことにしたが、普通に提供して良いという返答を得た。しかも、エンシェント・ドラゴン・レペンであるということもバラして良いとのことだ。人類史にレペンの伝説や神話は確かに残っているが、実際の映像という記録媒体で残っているというのは人類史上初の快挙とも言える。
また、エンシェント・ドラゴン・レペンであるということを教皇のキュクー・レインが保証してしまえば、各国もその事実に納得はするだろう。少なくとも歴史ある国やレペンの伝説や神話が残っている国ならば、レペンに対して敵対行為をすることはないと思いたいのが、キュクーの正直な心情であった。
――そして、世界は知ることになる。
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