閑話 厄災の自我
くやしい くやしい くやしい
まだほんのすこししかこわしてない
まだだれもころせてない
それなのにたおされた
こわしたい ころしたい こわしたい ころしたい
たりない たりない たり……ない?
なにかきた にんげんだ
うれしい たおそう とかそう ころそう はかいしよう
――――――あれ?
たおれてるけどとけない
とけないけどころせない
ころせないけどはかいできない
とけろ こわれろ しね しね しね しね
▽
だめ。 ずっと待っても死なない。
よろいや服はすぐに溶けたのに、からだだけがすぐに再生する。
わたしはこんなところで油をうってる場合じゃない。
はやくちちと母とおとうとをたすけにいかないと。
はやく殺してしまわないと。
▽
止めて! 殴らないで! 斬らないで! お願い! お願い! どうして!? どうしてそんな酷いことが出来るの!? もう嫌だ! 殺して! わたしを殺して!
……またこの子の記憶が勝手に。
こんなのもう耐えられない……。 早く……この子を殺さないと……。
帝国は……大丈夫、だよね? わたしがいなくなったなら元通りになったよね……?
貴方の記憶だと帝国の名前が変わっているのは何かの間違いだよね……?
……お願い、誰か教えて……。
▽
……大分〝体積〟が減ってきた。 恐らくあと数十日かでスライムの身体がトリア、貴方の『能力』で消滅する。
身体が小さくなり厄災の影響力が落ちたことでわたしは自我を取り戻すことができた。
どうして貴方が再生し続けているのか。 どうしてわたしの身体が削れていっているのか。 どうすれば貴方を殺すことができたのかはすべて理解した。
――――そしてわたしが厄災だったことも。 ――――300年も封印され世界のすべてが変わってしまったことも。
だからこそ即死レベルの猛毒を持つこのスライムを貴方に触れさせ続ける。 貴方が積み重なる死を回避できる状況になるまでは。
――わたしは何も果たせず消える。 すべては深い絶望の中に。
だから状況や環境は違えど、同じ絶望を抱える貴方だけでも救ってみせる。 そして――――――。
……あはは。 ダメだなわたし。
そんな叶わない未来なんて描いたって、ね。
▽
わたしの『能力』を使えばもしかしてと思って何度も発動を試した。
結局ギリギリまで頑張ってみたけどこの姿のままじゃ『能力』は使えなかった。
わたしの身体が消えれば、溺死は回避できても両腕からの出血による死は回避できない。
だから貴方の持つあの『能力』に頼るしかない。
――お願い神様。 どうかまだ手遅れじゃあれませんように。
わたしの呼び声で目覚めてくれますように。
もう鼻先が身体から出てきた。 もうすぐ。 口が見えた瞬間に大声で起こそう……っ!?
――こんな身体でどうやって?
声……出ない! マズイ! このままじゃ起こせない! 助けられない!!
神様、追加でお願いします!! どうかわたしに声帯を……!!
ああ、もう口が出ちゃった!! 毒が保てない!! まだ!! 最後まで諦められない!!
起きてトリア!! 神様お願い!! 起きて!! 起きて!!
「起きてーーーーーーーえ!!??」