表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/48

1 わたしが死ななければならない理由


 どうして、わたしは死ななければならなかったのか。

 それを、わたし自らが語るには、思い出したくない出来事が、あまりにも多過ぎた。


 だから、できるだけ淡々と語ってみようと思う。

 途中で泣いてしまわないように、心臓の上を、力いっぱい握りながら。



 ――わたしはプフプ村という、総人口200人ほどしかいない、小さな村で生まれた。

 村の周囲は大きな森に囲まれ、更にその外側は、大山脈と海に囲まれている。

 端的に言うなら、世界から切り離された場所に位置する村だった。

 

 そんなプフプ村も、この世界にある国の1つ、〈アークボルト帝国〉の一部であり、プフプ村を飲み込む大森林を含む一帯も、領地の1つとして一応の認知されていた。


 どうして、孤立無援状態のプフプ村にいながら、〈アークボルト帝国〉に認知されていることを知っていたか。

 それは、プフプ村に、〈アークボルト帝国〉からの遠征が、2年に一度行われていたから。

 

〈アークボルト帝国〉においての軍は、いくつかの〈団〉や〈隊〉によって構成されている。

 その中で、プフプ村に派兵されてくるのは〈帝国騎士師団〉・〈帝国医療師団〉、そして〈帝国魔導師団〉という3つの師団。

 それぞれの師団は、所属人数こそ大きく違えど、この村に来る人数は毎回100人ずつに決まっている。つまり、計300人になる。

 それは軍団としては有り得ないほど少人数に思えるけど、それでも3つ合わせれば、わたしたちの村の総人口より遥かに多い人数。

 なので、2年に一度、プフプ村は、お祭り騒ぎの様相を見せる。

 かくいうわたしもその遠征を楽しみにしていた口で、その最大の理由が――。


 ……間違えた。 ここら辺の話は〝わたしの夢〟に繋がる話ではあれど、わたしが〝死ななければならない理由〟からは少しずれている。


 えーと。……そうそう。どうして、こんな僻地に遠征が行われるか、その理由が大切だ。


 このプフプ村に代々受け継がれている〝役割〟がある。

 それは、この地に封印された〈厄災〉を監視することだ。


 その役割があったからこそ、この村は〈アークボルト帝国〉――当時は国の名前が違ったらしいけど――に吸収され、1つの領地として認められ、2年に一度ではあるけど、外部からの物品や交流、そして、何より大切な、情報が手に入るようになった。

 

 わたし、トリアは、そんなプフプ村の中での、最高責任者の立場にある村長むらおさの1人娘。 つまり、将来的な、村長の〝嫁〟となるべく育てられた。


 そんなわたしの幼馴染であり許嫁、つまり将来的な村長になる予定の男が、プフプ村にある唯一の商店、その一人息子、ユーステス。

 

 偶然にも、わたしとユーステスは同じ年……と言いたいところだけど、実は、わたしたちの関係は子種が作られる以前から決まっていた。

 つまり、狙って同年齢になるように調整されていた。


 ちなみに、当初の計画では、村長側が男、商店側が女パターン以外認めず、それが揃うまで子を成す予定だったらしいけど、母が、わたしを産んだ直後病死してしまったこと。結果的に性別が被らなかったこと。そして、わたしが生まれながら能力スキルを持つ、『神からの贈り物ギフト』持ちだった為、この形で上手く収まった。


 ……ふぅ。ようやくここまで話が進めれた。 わたしは――うん、まだ、大丈夫。


 わたしの死に関わってくる3つの〝鍵〟が、これですべて揃ったことになる。

〈厄災〉。幼馴染、兼、許嫁のユーステス。そして、『神からの贈り物ギフト』。


 でも、もう少しだけ遠回りをしようと思う。 

 そもそも〈厄災〉はどういうものなのか。そして、どうして倒されず、封印されてしまったのか。それを語る上で外せないワードがある。


〈七英雄〉。

 世界の危機が訪れる度に、この世界を見守る神々が、『神からの贈り物ギフト』を持つ人間たちの中から〝無作為に〟7人選び、その7人に更なる『神からの贈り物ギフト』を与え、世界の危機を救わせる。

 これが、古くからこの世界に語り継がれていた真実だ。


 前回〈厄災〉が出現したのは300年も昔。

 出現原因は不明。当時のことが記された資料は、〝わたし〟が持っていたけど、その資料にさえ、原因は一切記されてなかった。

 ただ、〈厄災〉の力が強大であったことは事細かく記されていて、当時この地に存在していた都市1つを完膚なきまで破壊し尽くし、残されたのは都市の残骸と、巨大な1本の木だけだったと記されている。


 そして、その前後、神々によって〈七英雄〉が召喚、結成され、〈厄災〉に立ち向かった。

 生まれながら、『神からの贈り物ギフト』を所持し、更にもう1つ『神からの贈り物ギフト』を得た〈七英雄〉たち。ただ、そんな7人の力を結集しても〈厄災〉は倒し切れなかった。

 

 戦いの最中、〈七英雄〉の1人が命を落とし、6人となってしまった〈七英雄〉。

 最早、絶体絶命かと思われた時、残された6人の1が、他の誰もが、その存在すら認知していなかった封印魔法を、自らの命を犠牲にして、行使した。


 結果、その戦いで2人の犠牲者を出し、最終的に〈七英雄〉は5人残った。

 そして、その5人はこの世界に、様々な影響を及ぼしたのだけど、まぁ、そこら辺の話は今回の話に関係ないので脇に置くことにする。


 もうお分かりだろう。『神からの贈り物ギフト』を持って生まれたわたしは、〈七英雄〉の候補であり、それが、わたしの弟が生み出されなかった理由だ。


〈厄災〉の復活は、本当に突然のことだった。

 15歳だったわたしとユーステスは、日課である〈厄災〉が封じられていると言われている封印の祠に赴く。

 その道すがら、いきなり封印の祠の方向から、禍々しい光の柱が空に立ち昇り、空が、黒と紫を混ぜたような色合いに変化した。

 危機感からか、ユーステスはわたしの足の速さを一切考慮しない速さで、わたしの腕を引き、来た道を引き返す。


 村に戻ったわたしたちは、すぐに離れ離れになる。

 ユーステスは、そのまま会議に。わたしは、父から自室に閉じ込められた。

 そんな会議も数分で終わり、扉がバンと開けられる。

 父から告げられたのは、ユーステスと共に〈アークボルト帝国〉に〈厄災〉復活の報告に行って欲しいという内容。


 村にはまともに人を乗せて走れる馬など1頭しかいない。

 即ち、わたしたちは村の人を見殺しにして、逃げろと言われたことに違いなかった。


 この村にはわたしより小さな子もたくさんいる。

 そもそも父を含む皆を置いて行ける訳がない。


 そう、父に食ってかかったところで、一旦わたしの記憶は途切れる。

 目覚めた時には、既にどうすることもできない状況と立場に追いやられた後だった。


 ……心臓が……うるさい……。


 結論から話すと、わたしは『神からの贈り物ギフト』も持たず〈七英雄〉候補でも何でもなかったユーステスに裏切られた。


 ここからは推測も含む話だけど、気絶したわたしはユーステスたちによって馬に乗せられ、大森林を疾走していた。

 その時、神々から〈七英雄〉召喚が行われ、わたしが、その1人として選ばれた。

 その際、気絶していたわたしを抱きかかえていたユーステスが〈七英雄〉召喚に巻き込まれた。

 そして、わたしが気絶しているのをいいことに、神々相手に、「俺こそが〈七英雄〉の1人だ」と言い張ったのだ。


 わたしが意識を取り戻したのは、小さな世界の中。

 そこは、外の世界とは隔離された空間で、時間の流れも現実より遥かに遅い。

 それこそ、外でのたった3日間が、ここでは1年になるように。


 だけど、そんなことすら霞む事実が、意識を取り戻したわたしを待っていた。

 わたしは、自分が〈転生者〉だったことを思い出した。

 そして、ユーステス以外の6人も、わたしと同じ〈転生者〉だったということも、すぐにわかった。


 そこから導き出されるのは『神からの贈り物ギフト』持ちが〈転生者〉である可能性。そして、〈七英雄〉として召喚されたタイミングで前世の記憶を思い出す、ということ。


 ちなみに、その筋道が立てられたことで、「ああ、だからか」と納得できた事柄が1つあったんだけど、それを話すべきは今じゃない。

 

 神々からの話を唯一聞いてなかったので、又聞きになっちゃうけど、神々は〈厄災〉討伐の準備期間として、この小さな世界にわたしたちを送り込んだ。

 期間は外の世界で3日。つまり、この世界での1年。

 つまり〈七英雄〉になれなかったわたしにとって、全く無意味な1年間を過ごすことに他ならならない――そう思っていた。


 神々は、わたしにも2つ目となる『神からの贈り物ギフト』を与えていた。

 わたしにとって〝呪い〟と言わざるを得ない『神からの贈り物ギフト』を。


 能力スキル、『即死無効』。

 即死と判定された攻撃のみ、なかったことにされるという、世界の理、森羅万象を無視したような力。

 一見、人を襲う魔物などもいるこの世界において、有用そうな能力スキルだけど、これのせいで、絶望と呼ぶのも生温い、壮絶な日々を過ごすことになる。


 この世界には、レベルという概念がある。

 レベルが高ければ高いほど強いとされ、それは様々な方法で上げることができるけど、中でも、生物を殺傷する事で、レベルが上げやすい、とされていた。


 そして、この作られた小さな世界の中には、動物や魔物は一切存在していない。

 レベルを上げる最効率は、生物の殺傷。

 わたしに贈られた『神からの贈り物ギフト』は、『即死無効』。


 初めに〝それ〟を言い出したのは、誰だっただろうか。

 ……もう、これ以上は何も思い出したくない。


 薄い茶色の髪は、ほんの何日かで白髪に変わり、何度も心を折られ、何度も廃人になり、何度も即死と判定されないような自殺を試みた。

 だけどいつも成功しなかった。 

 いつ、どこにいても、死んでしまう前に傷を〝直〟され、心が壊れても、すぐに〝直〟された。

 あの小さな世界は、わたしにとって、どこにも逃げ場のない監獄だった。


 そして、そんな悪夢のような準備期間を経て、彼らは〈厄災〉を討ち滅ぼした。

 恐らく、現時点で世界最強である彼らを待つのは、万来の祝福と約束された未来。

 

 そんな彼らに、わたしの生存、存在が邪魔だということなんて、子供でも解る。


 ……そういう訳で、裏切られ、傷つけられ続け、最終的に処分されてしまった、わたし、トリアの物語でした。 また、次回作をご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ