プロローグ
よろしくお願いします。
父の――あの人たちの最期が目に焼き付いて離れない。
結局のところ。
わたしは、何も救えず。
約束も、守れず。
願いも、叶わなかった。
300年振りに蘇った、銀色に輝く巨大なスライム状の生命体、〈厄災〉。
〈厄災〉が常時噴出していた毒霧によって、身体の自由どころか、最早呼吸すらままならない。
――あーあ。このまま死なせてさえくれればいいのに。
二筋の風が吹き抜けるのと同時に、わたしの両腕が斬り飛ぶ。
――痛。
本来なら、泣き叫ぶほどの苦痛がわたしを襲うところ。
だけど、『苦痛耐性』能力のお陰で〝麻酔抜きの抜歯〟程度の痛みしか感じない。
それでも、呻き声くらいはあげてしまいそうなものだけど、この程度の痛みは散々経験していたせいか、痛みに対して鈍感になってきた感がある。
「ごめんねトリア君。やっぱり〈七英雄〉に8人目はいらないって話になってね」
〈厄災〉は倒された。わたしの目の前にいる7人、〈七英雄〉の手によって。
そして、その内の1人であるクルズが、優し気な笑みを浮かべながら、神速の如く振るった剣を鞘に納める。
わたしと同様に、厄災の毒を浴びていたはずの彼が普通に喋っていられるのは、彼の横に並び立つ、優しい微笑みを浮かべたフレアラーベによる『治癒魔法』によるもの。
なお、クルズに限らず、わたし以外の7人は既に解毒済らしく、誰も毒に苦しむ素振りを見せていない。
「――『鎧精製、トリア』
うわ、重……。
クルズに代わって、わたしに接してきたのは〈七英雄〉兼〝幼馴染〟兼〝元婚約者〟のユーステス。
とてつもない重い鎧を、いきなり纏わされされ、受け身も取れずに地に倒れ込んでしまう。
「……最後に……一つだけ……いいかな……」
「……ああ」
生き残るなんてバカな希望はとっくにない。むしろ〝彼ら〟全員が死んでしまったのに、わたしだけが生き残る意味も必要性も感じない。
だけど、このままじゃ、終われなかった。
「ユーステス……。わたしは、貴方を、認めない」
息も切れ切れながら必死に紡いだその言葉に、ユーステスの口元が僅かに歪んだのがわかった。
直後、彼は、何かを口にした気もするけど、毒による呼吸困難に加え、血を失い過ぎたせいか、まともに意識も保てない。
――すごい……真っ暗だ。 ……そっか。 これで終わり、か。
みんなの期待に応えること、できなかったな。
わたしの役割果たすこと、できなかったな。
みんなを助けてあげること、できなかったな。
友だちとの約束を守ること、できなかったな。
――ああ、本当に、後悔ばかりだ。
――もし、また次に生まれ変わることがあったら……その時は―――きっと―――――――――