主人公の死
うーん…うまいこと行かない
両腕を振り子のように振りながら街中を駆ける。時折待ちゆく人が珍しそうに私に視線を向けるが私は気にせず走り続けた。濃くなる血のにおい、警備兵を呼べという叫び声や悲鳴
目的の場所へとたどり着き息を整えて視線を向けるとそこに倒れている人を見つけた。年の頃は同い年に見える14歳ほど、顔立ちの整ったいかにも主人公と言える少年だ。彼はうつぶせに倒れており背中にはおびただしい量の血が流れている。どうやら背後から刺されたようだ。
「おい!警備兵はまだか!」
「あいつを捕まえろ!」
視線を向けた先には十代後半の端正な顔立ちをした青年が剣を振り回していた。その表情はよだれを垂らし、恍惚とした表情で血の付いた剣を振り回している。どうやら彼が主人公を刺した人物のようだ。彼は酔っぱらったような動きで何かを叫んでいる。
「やった…やった…これで…俺は…主人公に…!」
その目は焦点が合ってなく、誰が見ても正気ではない。何人かの冒険者らしき人がとらえようと武器を持って応戦しているが素人目で見てもあの青年は強い、フラフラと危ない動きではあるがしっかりと相手の攻撃を防いでいる。
というよりも…主人公…?もしかして彼も…?
「くっそ、剣の振り方はめちゃくちゃなのに全然攻め切れねぇ!」
「ダインさんはまだか!」
た、確か相手を拘束する魔法が…
私は本をめくり対象の魔法を探す。あっ、あった!
光の鎖よ、敵へと絡め! 束縛!
光の鎖が現れ、青年へと絡みつく。青年は妖誰を辺りへとまき散らしながらも鎖をちぎろうともがいている。
「おぉっ!誰だか知らんが助かった!いまだ捕らえろ!」
動けなくなった青年に冒険者がとらえようと殺到した。
「離せぇ! 俺は主人公様だぞ! 全員俺の言うことをきけぇ!」
「なんて力だこいつ! すでに鎖がちぎれそうだ! ミスリルロープを持ってこい! 急げ!」
数分後、ミスリルロープと呼ばれた白いロープで青年は拘束された。拘束後遅れながら警備兵とダインさんが来たので警備兵さんとダインさんの会話を聞く。
「身分カードを確認したところ殺されたのはジーク・パーカー、14歳。最近この街に来たらしく冒険者らしく今日は捕らえられた男とクエストに向かったそうです」
「犯人の情報は?」
「はっ、名前はユート・カンザキ。こいつにいたってはほとんど情報がありません、突然現れて身分カードと冒険者登録をして高難易度の討伐クエストを一気に攻略しています。はっきり言って異常です」
「確かにこの数は異常だな、さっき使っていた剣も安い粗悪品だ。いったいどんな戦い方をしていたのやら」
話を聞いていると本当によく読む感じの転生者って感じがする。突然現れて強敵をバッタバッタと倒す。先ほど見ると顔立ちもだいぶ良かった。かっこよく女性でも助ければきっとモテていただろう。
再度少年へと視線を戻す。少年の表情はあっけに取られており何が起こったかもわかってないような表情だ。主人公、ジーク・パーカー。彼がこれからどんな物語を歩むのかは知らない。だが、ここで死ぬ運命ではなかったのだろう。
そう考えているとさっきまで吹いていた風が止まり血のにおいが辺りに充満してきた。
また熱に浮かされたように視界がぶれ、牙がうずく。まずい…喉が…
その瞬間、顔の前に手が現れ視界が手でふさがれる。
「子供が見るもんじゃない」
『ダインさん』
上を見るとダインさんがいた。ダインさんはジーク君に向けて悲しげな目を向け、再度私に目を向ける。
「知り合いかい?」
『いえ…』
警備兵の人がジークさんに布をかぶせ、どこかへと運んでいく。地面に残った血の跡が生々しい。
主人公が殺されてしまった…殺した高校生ぐらいのあの青年は恐らく転生者だろう、ちょっと聞いてみようかな…
『あの…先ほどのユート・カンザキという方なのですが…』
「ん?あぁ、聞いていたのか。どうかしたのか?」
『だいぶ錯乱していたようでしたが何かあったのでしょうか?』
「いや…実は今朝に会ったんだがその時は普通だったんだが…いったい何があったんだろうな…まぁ、とにかく君もあまり一人で出歩かないほうが良い。少女の一人旅は危険だからな」
そういうとダインさんは警備兵に呼ばれてそちらへと向かっていった。
今朝までは普通だった…何かあったのかな、というよりも主人公が殺されたってことは主人公の相棒でもあるキルク君も危ないんじゃないか? 主人公殺しの犯人は捕まったけど何か外的要因がかかわってそうだし。これで終わりとも思えない、何かできるとは思えないけどついて行ったほうが良いかな…
…私もああなるとかないよね?
怖いけど知ってる以上見殺しにするわけにもいかないし…
とりあえず…キルク君を探そう