人との出会い
「…日差しがきつい」
廃墟から町に向かって歩いているわけだけど…遠い、ただひたすらに遠い。視界にうつる城壁だけだと近くに見えるのにいくら歩いても距離が縮まっている気がしない。街道沿いに出れたおかげか歩くには問題ないけど、もうすでに一時間ぐらい歩いてる気がする…車でもだいぶかかりそうだなぁ…
この体のおかげか体力的には全く問題ないが精神的にきついし日差しに当たらないようにフードや袖をいちいち直すのがきつい、これ日が暮れるまでに着くかなぁ…
と独り言ちていると後方から何かを転がすような音と馬が歩くような音が聞こえた。後ろを見てみると大分後方に二匹の馬が見える、どうやら馬車のようだ。しばらく立ち止まって見ているとその馬車を引いている恰幅のいい優しそうなおじさんは私の姿を見つけると慌てて馬車を止める。
「お嬢ちゃんどうしたんだいこんなところで、親御さんはどこだい?」
と言われたので喋ろうとしたが声が男のままだったため慌てて板に魔力で文字を書く、板を向けると怪訝な顔をするが返答をしてくれた。
『親はいません、あの町に向かって移動しています』
「イーグントにかい?歩いて行こうとするなんて無茶だね。よかったら乗っていかないかい?」
『いいんですか?』
「ここで放っておいて後で魔物に襲われましたでは目覚めが悪いからね。馬車は空いているし構わないよ」
魔物…?そういう生物もいるんだ。道中に出会わなかったのは幸運だった。そんなことを思っているとおじさんは馬車の側面に小さな階段みたいなのを取り付けてそしてそのまま「乗れるかい?」と手を差し伸べてくれる。子供の姿のおかげかとても優しくしてくれる。いや元々この人は優しいのかな、というか馬車の階段とか馬の蹄とか服とか見ると大分文明レベルが高そう。
おじさんに手を引っ張りあげられ馬車に乗ると小柄な私にはそこそこ大きなものだということが分かる。
荷台の方に目を向けるといくつかの木箱と二人の男女が長椅子に座っておりこちらを確認すると挨拶をしてくれた。軽装鎧とでもいうのだろうか、プロテクターのような鎧を身に付けており男性の方は剣。女性の方には小型の弓と矢筒がそばにおかれている。冒険者みたいで少し感動する。
「ふむ、これでよしっと。ライル君、少しお嬢さんと話をしたい。御者を頼んでもいいだろうか?」
「構いません」
男の方はそう言って立ち上がると先ほどおじさんが座っていた所へと座り、私達が座ったことを確認するとゆっくりと馬車を進め始めた。
「自己紹介が遅れたね。私はトム、商人をしているよ。気軽にトムおじさんと呼んでくれてもいいよ」
「私はレインだよ、レイン・ウォーカー。君の名前は?」
名前…考えてなかった…そういえば名前がいる。なんで思いつかなかった。
えっと…吸血鬼だから…ヴァンパイアとかヴァンピールとか…?えっと…あっ
『シノン…シノンフェード・ヴァンヴィーラです。長いのでシノンやシノと呼んでください』
というか陰に入ったのにフード被ったままだった。挨拶しているのに失礼だった。
本に書いてあった名前を借りてそれを板に書きながらフードを外して収められていた白髪を頭を振ってほどく。それにしても本当に綺麗だなこの髪、櫛がいらないぐらいさらさらだし
そして再度前を向くとトムさんがほう…という顔をしており、レインさんは目をキラキラさせていた。
どうしたのかと首を傾げてみると辛抱たまらないといった感じで飛び込んできた。
「かーわーいいー!シノンちゃんすごくかわいいー!」
『!?』
あ、驚きとかだと板に出てくるんだ…と思いながらもレインさんに抱きしめられた。
私が小さいせいか胸がダイレクトに顔に…! これレインさんはいいかもしれないけど私の中身は男なんだけど…! というか弓使う女性って胸当てが必要とか聞いたのになんでしてないの…! レインさんはひとしきり私を撫でたり頬ずりすると満足したのがあふれる笑顔で向かいの椅子に戻る。トムさんが心配するなか私がちょっとぐったりしながら再度前向くと私のお腹がくぅ…と可愛らしく鳴った。トムさんとレインさんが微笑ましく私を見る…そういえば起きてから何も食べてなかった。確かトムさんって商人だっけ。
『そういえばトムさんは商人でしたっけ…よければ食べ物を売っていただけませんか?お金はこれしかありませんが』
と本に挟まっていた金貨を取り出すとトムさんはふむっとそれを受け取り顎に手を当てる。
「ほう…ゴーティア国記念金貨ですか、中々珍しいものをお持ちですね」
『ゴーティア国記念金貨…?珍しいものなんですか?』
「確かに珍しいけど数も多いしとっても希少ってほどでもないね…金貨20枚ほどかな」
両替してもらってと食べ物と魔力を流すと冷たい水が出る水筒をもらった。
その時に硬貨の説明もしてもらったのだが見た感じ
金貨 (約一万円)
三日月金貨(約五千円)
銀貨 (約千円)
半銀貨 (約五百円)
銅貨 (約百円)
ぐらいの価値だというのがわかった。つまりゴーティア国記念金貨は20万円ぐらいなのか
残りのお金は約18万ちょいぐらい、散財しなければ少しは過ごせるかな。お腹もすくしお金を稼ぐ手段を見つけないと…
と、もらったコッペパンのようなパンを食べながらこれからのことについて考える。このパン少し硬いけど想像よりずっと柔らかい、長旅で長期保存するはずのパンでこれとは食文化もかなり高いのかな。これからの食事にも楽しみ。
そういう感じである程度会話をしているとどうしても気になったのかレインさんが少し申し訳なさそうな感じで話かけてきた。
「ところで…聞いていいことかわからないけど…シノンはもしかして…話せないの? マジックボードを使ってるみたいだし…」
『少し事情がありまして…声を出すことが出来ないんです』
声が完全に男だしね。この姿で低音で喋り始めたら変に思われるし。この板で喋るのも変だけどこっちの方がましかなって
というかこれマジックボードって言うんだ。
「そう...なんだ、大丈夫...なの?」
『確かに不便ですが特段困るようなことにはなってないので大丈夫ですよ』
心配はいらないって言う意味を込めて笑顔で返すがレインさんは色々と想像を膨らませたのか漫画みたいに号泣してしまった。レインさんは感受性が高いのだろうかな。私のために泣いてくれるレインさんに暖かい気持ちになる。すると御者をしていたライルさんがこちらへと声をかけてきた。
「おい、そろそろ着くぞ」
「ふむ...シノン君、商人用の入り口は別の所になるのでここでお別れになるが何かあったら『エイブリー商会のトム』を訪ねて来るといい。きっと君の力になるよ」
『分かりました、乗せていただきありがとうございま』
「シノンちゃぁぁぁん!いつでも私達を頼ってねぇぇぇぇ!」
泣きながら再度レインさんに抱き付かれたあと、私は馬車を降りた。三人に手を振り返し、私は数人の警備兵のような人達がいる関所のような場所へと歩を進めた。
街に入ったら…知識を得るために図書館を探してみようかな
・魔力を流すと水が湧く水筒
形はマグボトル、蓋の部分に水の魔石が埋め込まれており。蓋をしたまま魔力を流すと綺麗な冷たい水がたまる。水筒自体が劣化しない限りいつまでも使えるので冒険者必須のアイテム。
・食料について
氷魔法があるので保存のために凍らせている。一瞬で怪盗することもできるので商人は高い魔力持ちが多い