五話 弱者同士
奴に出会う少し前。僕は町を探しながら歩くことにして、スキルの実験をしていた。
ステータスと同じように念じれば何か起こるかと、何度か『阿』と念じてみるが何も起こらない。ならばと、声に出してみる。
すると、青く晴れた空を轟音が満たした。周りにいた小鳥達が飛び立って、獣が後ずさった。いくつもの目に睨まれ、僕はその場を逃げ出した。
ただひたすらに走って、走って初めて振り返ると獣たちは追ってきていないようだった。距離がありすぎたのか、草食の獣だったからかとにかく助かった。疲れた僕は崩れるようにその場に座り込んだ。
ある程度落ち着いてきたので、いつまでも休んではいられないと僕は再び歩き出した。結局のところ、スキル『阿』は声をもの凄く大きくする力だった。多少レベルを上げたところで、危険生物を倒せるほどの力となるとは考え難い。戦闘向きの力であれば、金を得、食を得る上で大いに役立った。これでは今日明日に町にたどり着けなかったら、野垂れ死にもありえる。
考えてみたが、今すぐそれを解決する策は思い浮かない。そこで、今度は大丈夫だろうと測定の実験をすることにした。
道端に生えていた草を一本引き抜いて、その重さを量ることにする。今度は念じるだけでも大丈夫なようで、18gと頭に浮かんだ。小数点以下が分からないということは、何らかの法則があるのだろう。そこで草の長さを測ったところ、0mと浮かんだ。おそらく、切り捨てか四捨五入あたりだろう。
もう一度ステータスを確認すると、魔量が減っていなかった。魔量が所謂MPなのだとしたら、測定はそれを消費しないで済むということか。
そこから、何かあるわけでもなく歩き続けて、奴に出会った。
奴が斧を振り上げて突っ込んでくる。
「阿のー、阿ぶないことしないでもらえます?なんのつもりですか?」
突如として二回轟いた音に、奴は思わず耳を塞ごうとする。嬉しいことにその拍子に斧を落とし、僕はすかさずそれを拾う。驚きから立ち直った奴が、僕の腹を角で突こうとするもとっさに逃れ、斧を構える。
今度は、一直線に体当たりしようとしてきたが、避けると前のめりに崩れこむ。押さえつけてとどめを入れようとすると
「タスケ、テクダサイ」
と願ってきた。黙って考えていると、こいつは身の上話を始めた。
こいつは、ドドスザと呼ばれる種族で山の中に群れがあるらしい。その群れは、もともと木の実などを食べて暮らしていた。だが、その見た目を嫌った人間達が群れを攻撃し、争いが生じるようになった。それがきっかけで、群れが人を倒すべきだという攻撃派と、今まで通りの生活を送るべきだという温厚派に二分された。
こいつ(ワグ)は温厚派で、いつも木の実を黙々と集めていた。ある日、群れのボスが攻撃派に殺され、攻撃派が群れを支配するようになった。ワグも、近くの村を襲うためにかり出されるようになった。何かを覚えることの得意なこいつは、そこでヒト語を覚えたらしい。今日も攻撃派に人を襲うように言われ、僕を見つけたとのことだ。
なんだろう、黙々と作業しているところを邪魔されたというところに凄く共感する。読書中に騒がれるようなものか。それに、人が理不尽に攻撃したために人を襲うようになったのならば、殺しては悪い。それは、神の試験のことを考えても上策ではない。
僕は尋ねる。
「ワグは食べられる木の実やこの辺りの地理に詳しいのか?」
「ハイ」
「ならば僕の冒険に付き合ってくれないか?僕は神の事情でここにつかわされたのだけれど、この世界のことをまだ詳しく知らないし力もない。仲間がいるととても助かる。」
彼が嘘をついている可能性もあるが、ワグの知識は非常に役に立つ。ワグは短くうなって
「オトモシマス」
と、力強く言った。
僕は上げていた斧を下ろし
「よろしくね」
心強い仲間ができた。