三話 五十音表
目の前にあるリストには、確かに『木原研士就職可能職業表』と一番上に書いてある。
だがその下は、まぎれもなく平仮名の五十音表だ。表ではあるが、職業表とは思えない。
ヨルフェンを見ると、ばつが悪そうに視線をそらしながら
「とりあえず、どこか触ってみたら?」
と言った。
ヨルフェンが言う通り、何かしないと情報も得られないだろう。僕は『あ』を触ってみた。すると、
『職業 あ 決定しますか? はい・いいえ』
と文字が浮かび上がった。
なんと『あ』という職業。本当にこの五十音表は、職業表だったらしい。信じられない、けれど納得はしておこう。このリストを出した本人に目をやると、『やってみれば』って顔をされた。他も見てみたけれど、どんな職業なのかは分からなかった。結局僕は『あ』に就職することに決めた。はいに触れると、頭の中から音が聞こえた。
{あ に就職しました。}
{スキル『阿 レベル1』を獲得しました。}
ステータスを見てみると、『無職』のところが『あ レベル1』と変わって、取得スキルのところが『阿 レベル1』に変わっていた。就職した影響だろう、体力などの数値も3ずつ増えている。職業が意味不明なのに、獲得したスキルもよく分からない。
「無事に就職できたようね。」
果たしてこれを無事というのか?
「次はスキルだな。」
結局、職業がよく分からないものだったからヨルフェンからもらう力の参考にはならなかった。仕方ないので、一つずつ検討してみよう。
まず、1 自然対話 自然と対話できる聞き耳頭巾みたいな能力なのだろう。道に迷ったとき自分の居場所を把握したり、逆に人や物を探す際などに使えそうだ。
次に、2 心中推察と4 毒物検知 人の殺意や周囲の毒物を把握することで、自他を守るのに役立ちそうだ。心中推察は、人の気持ちを汲み取って行動するためにも使える。だがそれは、いらぬことを知るといったことにつながりかねない。
そして、3 測定(m,g,s) ヨルフェンによると、知りたい長さ・重さ・時間をメートル・グラム・秒で測れるらしい。ただ、モフィシアで使われている単位は残念ながらそれらと違うらしい。
最後に、5 日間天気予報 うーん、絶対当たる天気予報士・・・そこそこ儲かるだろう。何日も天気を当て続ける必要があるだろうが。
「よし、決めた。」
僕は測定を選択した。理由は二つ。一つは、ヨルフェン曰く『他のスキルは今後の努力次第で獲得できる可能性がある』とのことから。もう一つは、モフィシアの単位でものを言われてもピンとこないだろうと思ったからだ。
「これでやっておくべきことはもう終わったわ。これからモフィシアに転移させるけれど、転移先の希望はある?」
確か、モフィシアは人々が争いを始めた世界だったな。
「未来十年ぐらい大災害の起こらない物資の多い街、に近い安全な場所でお願いします。」
「分かったわ。それから、この本を渡しておくね。モフィシアや試験について書かれているから、私と連絡できない間はそれを使って。じゃ、楽しんできてね。」
本を受け取ると神々しい光が僕を覆って、次に見たのは草原だった。