一話 囲炉裏端
目はもう閉じていた。すぐにやってくるだろうそれに、抗う術はない。
直後
やってきた感覚は、おおよそ思っていたそれとはかけ離れたものだった。何か柔らかいものに深く沈むようなそんな感覚。
自分があの世界で死んだのは確実だろう。だが、自分はその時感じるであろう痛みを感じてはいない。痛みを理解する前に死んだのだろうか?
「まだ寒いでしょう、こっちに来て暖まりなさい。」
そんな声が聞こえてきた。この意味の分からない状況で、暖をとれと言う。確かに服はなぜか乾いているようだがまだ寒さを感じる、ストーブかヒーターでもあるのだろうか?立ち上がろうとして気付いた。体に痛みがない、服が濡れていない。そして、自分は畳の上にいた。寝ぼけたようにあたりを見渡して、声の主を見つけた。ここはどうやらかなり和風の家の中のようで、畳と板の間と土間がある。彼女は、その板の間の真ん中にある囲炉裏に座っていた。
囲炉裏の反対側に座ると、早速こう言われた。
「初めまして私はヨルフェン・クゥー。いろいろ質問はあると思うのだけれど、とりあえず私の説明を聞いてもらえるかしら?」
今は情報が欲しい、質問攻めにはしないでおこう。
「分かりました、お願いします。」
「まずあなたが気になっていそうなのは、ここがどこかでしょうね。ここは地球のある世界とは別の世界、その中の『試験惑星百七十九番モフィシア』という場所、そこに関わる神域よ。」
「つまり」
「私は神の一端、といってもまだ卵なのだけれど。」
「卵?」
「神の世界では、そのメンバーを不定期に増やしたり、入れ替えたりしているの。神は多くの生き物を生み出そうと新たな世界を作り出し続けるの、よほどのことがないと世界を消すことはないわ。]
いきなり物騒な話だ。
「一人前の神様になるための試験を受けるために作られたのがえっと?」
「モフィシアよ。試験の内容は、人々が欲や力によって争うようになってしまった世界にいくらかの者を送り込むの。送り込まれた者に少し力を与えて、その者がどれだけ世界に役立つか試すといったところね。」
「いくらか?」
「他にも神の卵はいるからね、今回はあなたを含めて五人が転移するわ。無作為に選ばれた世界の同じ区域、ここでは同じ言葉が使われる場所を意味するから今回の場合は日本ね。そこで一定期間内に死亡してしまう人をその直前に呼ぶ。この時私たちの心の澄み具合に応じた人が選ばれるから、悪い神の卵には悪人が、善い神には善人が来ることになるわね。どう?これで今の状況は大体分かってくれた?質問があればどうぞ。」
「状況は一応把握したよ。で、質問だ何でここへ来た時体の痛みがなくなってたんだ?」
「それはこの世界に来る際に強すぎる苦痛をもとから除去する力がかかるからね。」
「服が乾いていたのもそのせいか?」
「いいえ、それはこの部屋にかかっている魔法のおかげよ。ここには、部屋を汚しかねないものを自動で外に転移させたり、靴で板の間や畳に上がろうとすると靴を玄関に転移させる魔法がかけてあるから。あなたの靴も今は玄関にあるわ。」
靴のことには気付かなかった。だが、
「魔法があるのか⁉」
「え、ええ魔法もスキルもあるわよ。」
つい先程まで落ち着いて話していた女神様(卵)が初めて驚いた。
「すんません。ところで、モフィシアで日本語は通じますか?」
「ええ、モフィシアには住人が日本語の読み書きや会話をするように魔法がかかっているわ。だからこそ同一区域から転移するようになっているんですもの。」
「助かります。これが最後質問ですが、モフィシアに行った後でも気になったことを聞くことはできますかね?」
「常時は無理ね、でも私と会話できるような仕組みもあるから、その時はそれを探して。」
「はい」
「じゃあ、あなたに与える力が決まり次第モフィシアに転移するわ。」