十一話 状況考察
「壮観だなぁ。」
のんきな口調で冒険者さんが木にもたれる。
5mぐらいの外壁に囲まれた町からは、草の無い地面が広がる。左から右に緩やかに傾斜したそれの上には、黒や茶色の犬が牙をギラつかせる。町まで463mのここから見えるだけでも五十匹といったところか。森の端から窺うだけで気付かれることはないだろうが、恐怖がないわけではない。
「あの町は大丈夫なのでしょうか?」
後ろからフルタ氏(母)に問いかけられる。
「大丈夫、ではないでしょうね。」
「む、そうなのか?」
・・・のんきにしてますけど、結構大事だと思いますよ。
「敵が全て外壁を突破しています。」
「何故、そのようなことが分かるのです?」
そりゃぁ奥さん、分かるも何も町の周りには犬しかいないじゃないですか。と思い、僕が困惑していると――
「いいから、全部説明しろい!」
と、怒られた。僕としては、地球での考え方が必ずしも当てはまるわけではないだろうから、あまり意見を言いたくないのだが。
「えーじゃあ、敵が外壁を突破していたら何故危険かは分かりますか?」
「近接での戦いのほうが死にやすいからじゃないのか。」
「そうです、直接斬り合うよりも壁を使って上から弓やてっp・・・を射ったりする方が有利です。」
危ない危ない、戦いのさなかにも関わらず発砲音がここまで響いてこないということは、この世界にまだ銃火器が無い可能性が高い。迂闊に銃なんてものの知識を広めない方がいいだろう。
「だから壁を突破されているということは、その優位をもってしても防ぎ切れない相手であるということです。」
「防ぎ切れない相手とはどういうことです?町の周りにいる犬―陽地犬は確かに群れると強い魔物だと聞きますが、個々はかなり弱かったと覚えていますよ。」
成る程、あの犬は陽地犬というのか。でも。
「敵はその陽地犬ではないと思いますよ。町の壁をよく見て下さい、ところどころ崩れているところがあるでしょう。」
「確かに、何か所か崩れていますね。」
「その中に上のほうだけ崩れているのがあるでしょう。」
「はいはい、いくつかありますね。」
「それが証拠です。四足歩行の魔物が壁を越えようと思えば、壁を飛び越えるか体当たりしてぶち破るぐらいしかありません。体当たりしたら全体的に崩れるでしょう。壁が上半分だけ崩れるなんてことにはまずなりません。つまり、あの町を攻めているのは二足歩行の魔物である可能性が非常に高い。」
もっとも、こんな世界だから一足や三足で動くあるいは、足すらもたない動物がいても不思議じゃないのだが。
「魔物?人間同士の可能性はねぇのかい?」
「無いですね。外に陣地の跡がありません。」
「まあ兎に角、今町の中が危険であることは分かりました。それでこれからどうします、様子を窺い続けますか?」
「それだと勝敗が分からず、魔物が勝った場合に逃げ出したんじゃ遅くなってしまう。因みに町をあきらめる場合は、町の周りを突っ切るか今来た道を引き返すしかありませんね。」
「どうにかなりませんか?娘の為に早く町に入って暮らしたいのです。」
その言葉を聞いて、僕は今だ高みの見物をしようとする冒険者さんの肩にポンと手を置き――
「手は一応あります。彼と一緒にこっそり町に潜り込んで様子を見てきます。たった二人でも、敵を驚かせたり雑魚を減らしたり、色々出来ますから。」
と、笑顔で言った。
最近、キャラクターってものを表現するのが自分は苦手なんだなーとつくづく思った。




