十話 温厚一時
「そんで、魔穴は見つかったのか?」
歩きながら男が聞いてくる。魔穴という、聞き慣れない言葉にわずかに逡巡した後、見つからなかったと答えておく。下手に答えて何か怪しまれても厄介だ。現時点では、転移者であることは明かさない方がいいだろうし。
「やっぱり当たりかー。となると、あんたのお仲間は先に見つけて潜ってるってこともあるわけだ。」
「そんなに冷たい奴らだったとは思いたくないんですけどねぇ。」
彼らはこの道の反対にある村からやってきたらしい。女性二人は親子で母親が飯屋をやっていたそうだが、いろいろあって村を出てきたとのこと。どこか暗い表情を浮かべている、何かつらいことでもあったのだろうか?そして、今話しかけてきた男は冒険者なんだそう。もともとその店の常連で、今は護衛としてここにいるんだとか。因みに、彼は少し太っている。
「それにしてもドドスザと友達になるとはねぇ、あんた面白れえな。」
「偶然ですよ、本当に。貴方たちに会えたことも含めてね。」
「あ、そういやまだ名乗ってなかったよな。」
「そういやそうでしたね。」
「俺は――ってもんだ。」
え?
「んで、こっちが―。」
「――といいます。こっちは娘の――です。」
あ、いや、でもそうなるのか。
「うぬぅ、どうかしたのか?」
「いえ、えっと、僕は木原 研士といいます。で、こいつはワグです。」
「ドウゾヨロシク、オネガイシマス。」
「これはご丁寧に、どうも。」
・・・一番丁寧に挨拶したのがワグだった。
「あの、貴方は道に迷ったんですよね。宿をとっていないのではないですか?むこうには知り合いの宿屋があります。良かったら紹介しますよ。」
フルタ氏(母)が言う。
「お願いします、それは凄く助かります。・・・ってああ、僕一文無しでした。」
「この時期ですし、むこうにもきっと直ぐに稼げる仕事はありますよ。」
「そうですか。」
後ろから誰かが僕の服を引っ張った。
今までずっと母親の後ろで黙っていた女の子だ。
「ねぇ、お兄ちゃん、その本なぁに?」
ずっと脇に抱えている例の本が気になる様だ。初めに会った時からだからね、傍から見ると変な人だろう。
「勉強の本だよ。君にはまだ難しいかな。」
「ふぅん。」
嘘だ。実際は、こんな幼い子供でも常識的なことを学んでいるとかだったら、恥ずかし過ぎるからだ。
望む答えではなかったろうが、フルタ氏(娘)は好奇心を満たしたのか、トテトテと母親の後ろに戻っていった。
けれど、疲れているみたいだったので、途中からワグが肩車していた。最初は怖がっていたけど、今は楽しそうだ。角に掴まって脚をパタパタさせている。
そうこうするうちに町の近くまで来た。
だが、そこは――。
「これは・・・無理だろ。」
草原ではちらほらいるだけだった黒犬、茶犬が町の周りにうようよいる。
「ワグ、なにか知っているか?」
「イエ、ワレモナニモ。」
僕の目には、戦いの音が響く町が映った。




