おかしな生物部
今日は入学式。
前まで中学生だった学生が高校生になる儀式的なものである。
残念ながら空は雲があり、淀んでしまっていて快晴とは言えないが文字を読んでいる入学生、学校の校長先生は春の日和などという言葉を連呼してしまっている。
あぁ、退屈だ。
暇ではないが、退屈。
言い直せば窮屈なのだ。
普通。
高校生と言ったって子供なのだから保護者とともにくるものだと思っている大人は多いだろうが、僕にはいないし気にしないし
はっきりいってどうでもいい。
ゆっくりと入学式が進んでいく間に考えたのは好きな本の内容を思い出す事だった
あの主人公だったらこの場合どうするのか
とそういう事を考えて時間を潰す
そうして、退屈な。
そして、不安な入学式を終えた。
最後は教室で、お決まりのセリフ『さようなら』と40人で復唱して帰っていった。
僕は帰る気が無かったというか
やる事もないので早めに学校の中でも見てこようと思った。
中学生とは違うリュックを背負い、ゆっくりと教室を出た
何処から回ろうか。
どこに行くにも退屈しのぎにしかならないのだが、早めにまわってて悪い事の方がないだろうし。
1階。1階。
見て回っていた時に
2階の生物室から話し声が聞こえてきた。
その声は「ーーーだと思うけど?」「いやいやーーーでしょう」という喧嘩に近い感じがした。
勿論、漫画や小説の主人公なら入ってみるのだろうがここは現実だ
関わらないのが一番良い対処法だろう
と思っていると
ガラガラといきなりその生物室が開いた
「もう知らないから、勝手にやってれば」
と教室の中の人を見る先輩(?)らしき人がいた
驚いた僕は咄嗟に
うおっと情けない声をあげてしまった
その声に気づいたらしい人物は
僕に勿論気がついた
その人物は、多分先輩だろうと考えしまうほど、童顔と言うべきだろう。眠そうな目をしているが真顔だとそれなりに怖い
肌が真っ白で髪の黒が際立って見える。俗に言う美形だろう。
てんてんてん。
小説で書くのならこんな感じだろう
無言で相手を見たまま止まっている
僕の場合はどうしようかと頭を悩ませ、このとてつもなく気まずい状況から逃げ出す方法を探し中だ。
さっき生物室の中の人と喧嘩していた。
僕の声に気づいた方の先輩と思われる人物は
僕の方をじっとみながら
考えているようだ。
考えている内容は全く分からないが…
と考えていると
生物室の中からまた声が聞こえた。
どうかしました、と僕の方をじっと見ている先輩(?)に話しかけているようだ
その声に反応したじっと見ている先輩は
一瞬、ニヤリと笑い
「いや、入学式から入部希望者が来たよ」
と平然と答えた。
また、真顔に戻りながらそう答えた
え。
ええ、ええええ。
ちょっと待ってください…何でそうなったのかを聞きたいんですけど…。
言ってないし、見つめられたから動かなかっただけなんだけど。
第二のパニックを起こしている僕の事をそんなに気にしないのか見ていた先輩の方が僕の後ろに回ると、背中を押して無理矢理生物室に押し込んだ。
中にいた方と対面する形となった。
健康な高校生とはいえず、目の下にある隈や真っ白な肌には生気が感じられない。
それよりも、本当の年齢よりもちょっと大人に見えそうな先輩だった。
そして何より、頭の上にあるアホ毛がトレードマークだろう。
美形とはちょっと違う。
「なんか、失礼な事考えてません?」
と聞かれた。
いや、なんにもないっす
と即答した後に
あっと声を出して、
背中を押している先輩(?)に
「入部希望者じゃないですけど…?」
と言った
真顔で知ってるけどと言いながら
椅子に座らされた
前にアホ毛の先輩。
右に無理矢理部室に入れた先輩が座った。
知ってる…?
知ってるのになんで
と思って抗議のまざなしで見ていると
「そんなに怒んないでよ。どうせ暇なんだから部活動ぐらい見ていけばいいんじゃナイ?」
どうせ…どうせって
まぁ、暇なのは正直正解だけども
こんな乱暴に部室に入れなくてもいいんじゃないか
ここは嘘をついて、さっさとと何処か違う所に行ったほうが良さそうだ
「いや、僕は暇じゃあないんで。帰りますね」
僕は席を立って歩こうとすると、
いやと言って手首を掴まれた
「暇だよね。」
それは絶対の肯定の言葉だった。
僕に聞いたわけででもなく、何を見てそう思ったのかさっぱり分からないが嘘を見破られているのは、はっきりと分かった。
真顔のせいでめっちゃ怖っ。
イケメンに睨まれると怖いってこういう事なのかな
とか、今の状況から客観的に見ている僕すらいた。
そして、臆病な僕はゆっくりと座った。
「正しい反応ですね」
ともう一人のアホ毛の先輩が言った
え、と思っていると
ニヤニヤしながらアホ毛の先輩は続けた
「あの人、小さい頃から心理学を学んでいるらしくて嘘とか絶対バレるんですよ。」
そして、それでと続けた
「嘘つきが嫌いな人なのでね。あのまま通そうとしたら一発は殴られるか胸ぐらを掴まれてましたよ」
ほ、本当か…
いきなり連れてきて嘘ついたぐらいで殴られるとか。
何処のヤンキーなんだ
見た目のわりに凶暴なんだな
てか、心理学って小さい頃から学べるもんなのか。
アホ毛の方がいきなり
「では、改めてようこそ生物部へ」
と言った。
ようこそ…?
まだ見に来たわけでも無ければ、入りたいとも言ってないんだが
気付いている感じがするが、無理矢理続けた
「僕は瑠璃院月彦と言います。一応ここの部長ですね」
といいながら、次はあの人ですねと続けた
「あの人は、右陰蛍です。
副部長という感じです。」
右陰 蛍…先輩と瑠璃院 月彦…先輩。
「あぁ、そういえばアダ名があるのでそれで呼んでもいいですよ。
僕はツッキー先輩で、あっちがケイ先輩ね」
ツッキー先輩というのは分かるがなぜケイ先輩なのか…
「それはね、僕の漢字は蛍とも読むけど蛍とも読むからだよ。
もしかして、漢字弱いの?」
と聞きながら、ふふっと笑った。
どちらかというと嘲笑った感じだな
訂正しておこう
それに、別に漢字が弱いわけではない。
赤点ギリギリとか。そんなんじゃなかった…と思いたい。
チクショー。
なんか色々このケイ先輩には負けている気がする。
それで?。
と聞かれた
ん?それで?ってなんだ
僕になんか質問してたっけ
「あぁ、名前だよ君の」
と言われた。
それで?って言われて通じるのは多分ケイ先輩ぐらいだと思う。
「え、えっと…日向佐屋です。」
いい名前だねといいながら一枚の紙を取り出し、何かを書き始めた
えーと…何やっていらっしゃるのか
そ、それって入部届けですよね?
「そうだよ。この部活人少ないからさ困ってたんダヨ」
ですよねー
うん、そんな気はしてた。
いやいや
「入らないですよ!!」
と思いきって言った。
というか自分で書かないと無効になるんじゃないのか
「えぇ、入らないんですかぁ。お試しだけでもどうです?」
そんなテレビショッピングみたいに言われても…
「嫌ですけど」
ケイ先輩は書き終わったようで
「うんじゃあ、出してくるネ」
と平然と部室を出ていこうとするケイ先輩の腕を掴み、止めて
「ちょ、ちょっとどんだけ自由なんですか!」
と少し声を上げた
出しちゃえば文句はないデショ
と言って迷惑そうな顔をした。
「いやいや、流石に強引過ぎますよ」
と、ツッキー先輩が口を出した
流石に助け船を出してくれるようだ
と、一言言ったツッキー先輩の言葉を聞いた瞬間に、は?とケイ先輩が威圧しだした。
え、と
待ってください…喧嘩に巻き込まれる予感
そういえば、さっきも言い争いしてなかったか…
これはやっぱり厄日のせいなのか
と今日が仏滅の日というカレンダーを思い出しながらとにあえず、ケイ先輩の腕を離した
「なんです?当たり前のことを言っただけですけど…?文句ありますか」
と、突っかかるように言葉を吐いた
あってる…あってますけどぉ
今は火に油を注いでいるようにしか思えないのは僕だけなのか
そもそも、とケイ先輩が続けた
「君のさ、哲学ってタダの嘘じゃないの?
それを建前に出来もしない事をぐちゃぐちゃと並べてさ…」
と嘲るようにハッと笑い、見下した
はぁ?と低音の声がまた一人増えた。
「貴方だって心理学で人の心を読もうなんて出来るわけないじゃないですか。
そんなの占いと同じで信憑性にかけるんじゃないんですかぁ」
と手を横にハァとため息をつくような動作をした。
嘲笑している。
どちらも笑っているが目が据わっていて怖い
なぜ学校の初日にこんな恐怖体験をしなければならないのか…
これは止めなければならないのか…
てか、なんでこんなに仲悪いのに同じ部活動しているのかが分からない
ねぇ、とまたケイ先輩から声がかかった
あ、は、はいっ
とびびっている返事をしてしまうのはしょうがない
「心理学と哲学ってどっちの方が役に立ってると思う?」
うっわ。
これは酷い。
どっちかを選んだら一回は攻撃を喰らう気がします。
さっき穏やかだったツッキー先輩も殴りかかりそうな勢いだし。
「い、いやぁどっちも世の中には大切な事だと思うんですが…」
と気を使った答えにたいして、
曖昧。理由が薄い。
とどっちからも批判を買ったので考え直しだ
「貴方がそんなんだから新部員が入らないんじゃないんですか」
とツッキー先輩はケイ先輩の方を睨みつけながら言った
「そうやって他人のせいにするのが君の悪い所じゃないの?他人の事をいう前に自分から直したら?」
とさっきと同じように上から見下した
身長的にケイ先輩の方が小さいがツッキー先輩が椅子に座っているからだろう
あぁ、もう
これってアレだよね。
この喧嘩って僕が解決する方法があるけどさ
えぇ、嫌なんだけど…この二人いきあわなすぎだしなぁ
どっちも子供みたいだ。
「どっちが悪いと思います?」
また、僕にまわってきた…
あぁ、もう!
「分かりましたよ!入りますから喧嘩しないでください。次喧嘩したら退部しますからね」
ピタッとピリピリしていた空気が止まり
入ってくれるんですかと聞かれ、入りますよ!しょうがないからと続けた
「早く言ってよ。うんじゃあ僕から入部届けは顧問にだしとくから」
酷い…
入ることになってしまった原因はあんたがたのせいだわ
僕の決定権返せ。
「もぅ…。僕疲れたんで帰りますね」
と、ため息と共に言った。
うん、お疲れ様とさっき喧嘩していたとは思えないぐらい穏やかにケイ先輩に言われて腹が立ったが歯向かうのは自殺行為だと思うので、頭だけペコリと下げた。
じゃあ、明日からよろしくおねがいしますね
とアホ毛先輩も言っているので、なんなんだこの人達。喧嘩してたんじゃないのかとおもいながらさようならと言って部室を出た。
今日から僕の高校計画の大半が変更されるなんて夢にも思わなかった。
おかしな二人の先輩のせいで…。