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魔境の夜

 予想通り何事も無く朝を迎える事が出来た。魔境で初になる夜営だったが女王の侵攻で空白地帯になった事が良かったのだろう。次もそうだとは限らないのだが戦闘続きで疲れた身体を休ませる事が出来たのは幸いだった。


 軽く朝食を済ませた後、早めに発つ事にした。今日も戦闘になる可能性もあるので、出来るだけ時間を稼がなければならないとの判断からだ


「ローラ、どちらに進めばいい?」

「こっちの方から強い魔力を感じる。昨日と同じじゃな」


 ポンタさんとローラさんが進む方角を打ち合わせている。昨日と同じ方角なので確認と言った意味合いが強いのだろう。荷物を点検してカイとクイに積み込めば準備は完了だ


「う~ん、女王も魔力の強い方向を目指してたんだよね。それだと僕たちの進む方向と違う様な気がするんだけど?」

「そういえばそうですね。私達がこっちから進んできて、横から蟻さん達が来たんですよね」


 ハイエルフの二人が疑問を呈している。確かにアラクネ達と蟻達が戦っていた場所に遭遇してから、女王は横合いから現れた。女王が真っ直ぐ魔力の強い所を目指していたとすれば俺達とは違う場所を目指していた事になる


「あの女王の様子なら、最短距離を進んでいたに違いないが・・・」

「確かに女王の向かっていた方角にも反応は感じるが、一番強い反応は別の場所じゃぞ」


 どうやら強い魔力の反応が複数あるようだ。しかし女王蟻ならば一番強い場所を目指しそうなのだが、ローラさんが感じる場所は違うようだ。ローラさんの感知能力を疑う訳では無いのだが、女王の本能も間違ってはいないだろうし・・・


「ひょっとして、姐さんの感知してるのは迷宮の魔力とちゃいまっか?」

「迷宮?ナティさんが言っていた古き迷宮の事ですか?」

「そや。迷宮の場合、奥から湧き出る魔力が内部に溜まってまうから、総量とすれば辺りに拡散する魔境中心部の魔力溜まりよりも強くなるかも知れへん」


 成程、理屈は通っている。湧き出る魔力は中心部の方が強いのだろう、しかし溜まっている量で見れば迷宮の方が強いって訳だ。しかも女王があの巨体で迷宮に入れる訳がないのだから中心部を目指すのは当たり前だろう。となると問題は・・・


「距離的にはどちらの方が近いのかしら?」

「儂が目指していたのが迷宮だとすれば近いのは迷宮じゃな。中心部と比べると半分くらいじゃ」

「だとすると、迷宮と中心部のどちらが危険性が少ないかによるわね」

「どっちもどっちや。中心部は強い魔物が群れで出てくるか伝説級の魔物かどっちかや。迷宮は数は少ないけど罠もあるし、門番なんかは桁外れの強さや」


 どっちも遠慮したいとシトールさんは肩を竦める。個人的には迷宮の方が良い気がするのだが・・・


「儂は迷宮じゃの。野営の危険性が変わってくるからの」

「僕も同じ意見だね。僕たちのパーティ構成だと蟻みたいな群れに襲われるよりは強い個体の方が戦い易いでしょ」


 俺が迷宮の方が良いと思ったのも同じ理由だ。安全地帯があったり、大部屋が有ったりと迷宮の方が守りを固めて休んだりする事が出来る。通路や部屋という限定された空間で戦えるので、無限の様に湧き出す敵と戦わなくていいというメリットもある。


「それじゃあ決まりだね。今まで通りの方角へ向かおう」


 宣言するようにタンドさんが言うと皆が頷く。迷宮の最深部まで向かわなくても適当な魔力の強さが有る場所で防御を固めて、スラちゃんの進化が終わるのを待つとしよう






 魔境に来て初めて出会った強敵が蟻達だったので、それが当たり前だと身構えていた俺達だったが、寧ろアラクネ達が通常で、蟻達の様な群れには遭遇しなかった。魔力と言うリソースが必要な為、群れの数が多くなると個体の強さはどうしても弱くなるみたいだ。中心部へ向かえば湧き出る魔力が豊富な為、強さを維持しつつ数も多くなるのだろう。


 アラクネ達の様に無理に中心部に向かわず現状で満足している者達も多いようで、シトールさんの説明とは違う部分が有るようだ・・・まぁシトールさんの言う事だからな


「なんや兄さん。言いたい事ありそやな?」

「イイエ、大丈夫デスヨ」


 自分でも思い当たる節が有ったのか、気配を察知したのかシトールさんが不審そうに聞いてくる。


「少年。聞いてる話と実際とは違う事が多々ある物だ。そう責めるでない」

「責めてませんて、ただシトールさんの言う事だからなと思っただけです」

「酷くなっとるやないかい!」


 ひょっとしたら、もっと中心部へ向かっていたらシトールさんの言う通りに勢力争いが激しくなっていたのかもしれないが、今は、外周から中心部へと向かう道を直角に逸れる様に横へ移動する進路を取っているので勢力争いに参加している様な群れには出くわして無いだけなのかも知れない


「実際、魔物達にとっては迷宮なんて興味も無いからしょうがないかも知れないよ?」

「どちらにせよ、魔物に合わないのであれば文句は無いのだがな」


 ポンタさんとタンドさんの社会人グループが取り成すようにフォローしてくれる。社会人と言うのも変なのだが、役職の付いてる人と言うのはやっぱりしっかりしている気がするのだ。俺もそこまで責めている訳でもないし、安全に移動出来るならそれに越した事はないのだから


 警戒網に反応は有りつつも此方を襲ってくる様な魔物には出会う事無く二度目の野営を迎える事となった。流石に油断する訳では無いが、何と無く大丈夫な様な気がする。移動中の感じからすると自分たちのテリトリーに入ってきた物には、一応の警戒をするが積極的に襲ってまで撃退しようとはしないという感じだったのだ。寝込みを襲う位なら、もう襲って来てるだろうと思う


 ちょうど大きな木の下にある開けた場所が出てきたので、ここを今夜の寝床にするべくゴーレム達を配置して精霊達に周りの監視をお願いする。カイとクイから荷物を下ろしてテントなどの準備を終えた位に日も傾き森が暗くなってくる


 流石に下拵えをした食料などは無いが、昨日よりは余裕が有るので簡単な料理を作る事にしたようだ。鍋に味噌を溶いて乾燥した具材を入れれば味噌汁の良い匂いが漂ってくる。本格的な出汁を取っている訳では無いが、それでも移動で疲れた身体には塩気が嬉しいスープになる。干し肉や堅パンと味噌汁と言う変わった組み合わせだが、掛ける手間と時間を考えれば上出来だろう


 漢女(おとめ)の弟子を自認するハルカさんが、周りから食べられる野草を取ってきて丁寧に灰汁を取り、野草の温サラダを作ってくれる・・・が、マヨネーズもドレッシングも無しの野草のサラダは非常に趣のある物になっていて、それには誰も手を付けてくれないので、一人で涙目になりながらも口にするハルカさん。まだまだ修行が足りない様だ


 のんびりしつつ、魔境の夜は更けていく。


 スラちゃんもリラックスしているかのように、ポヨポヨしながら(くつろ)いでいる。魔境に(おもむ)く前に想像していたよりも穏やかな時間を過ごす事が出来た。警戒の為の夜番を交代で配置するので、クジで順番を決める。この辺りは男女平等という事で特に優遇とかはない。実際に周りを見張るのはゴーレムやカイとクイ、それに精霊達なので緊急時に対応するために起きているだけなので、能力とかも関係無い訳だ


 クジで引いた夜番のパートナーは伶だ。


 二人の時間と言うのも久しぶりかも知れない。


 夜番という事で油断は出来ないが、久しぶりにゆっくり話しが出来るのは嬉しい


 暗闇の中に目立たない様、ボンヤリ(とも)した魔法の明りの中、二人の時間を楽しめた夜だった・・・


読んで頂いてありがとうございます

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