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大森林へ向けて

 一夜明けて早速大森林へ向かって出発をした。前夜はギルドで紹介された宿に泊まり、早めに就寝して今日からの移動に備えた。なにせ、整備された街道と違い普通に魔物が出るとの事なので緊張感を持っていないと不意打ちを喰らう事になりかねないそうだ


「とは言っても、流石にこの辺りは大丈夫だけどね~」

「さっきと言ってる事が違うじゃないですか!」


 御者台でポンタさんと警戒している俺にタンドさんが御者窓の小さな扉を開けて話しかけてくる。本当にこの人は・・・昨日の真面目な雰囲気は何処に行ったのやら


 大森林までは、基本的に平原が続くだけで馬車でも走りやすい状態になっている。流石に速度は出せないが振動などはそれほどでもないので、この分だと移動でヘトヘトになる事は無さそうだ。途中に在る小さな林などでは魔物が潜伏している事が有るので迂回して移動するのが良いという。遠回りにはなるのだが却って安全に魔境まで移動できるらしい


 馬車の中ではハルカさんと伶が何事かを相談しており、タンドさんは此方に顔を出して話しかけている。ローラさんは揺れる馬車の屋根の上で器用に昼寝をしている。今回の主役の一人であるスラちゃんは定位置の膝の上で丸くなっている


 皆の様子からはA級魔境と言う、この大陸で一番危険な部類に入る場所に赴く緊張感はあまり見られない。どうにも俺一人が緊張している様で、違和感を感じるのだが・・・


「ポンタさんは緊張とかしないんですか?」

「ははは、そんな訳が無かろう。ただ緊張しすぎても良いことは無いからの。適度に気を抜かねば持たないぞ」


 旅慣れている人から見れば、普段の俺達の移動の方がスムーズ過ぎておかしいのだそうだ。確かに人目の無い所ではゴーレムに任せて自動運転で移動したりしていたので、今までが楽をし過ぎていた様だ


「この移動速度で進むなら今日の野営場所位までなら、それ程警戒しなくても大丈夫だよ」

「判りました。少し意識し過ぎていたのかもしれません」


 平原を進む馬車、此処が大森林の魔境へ向かう道のりでなければ非常に長閑な場所だ。天気もいいし遮る物も無く、気持ちのいい風だけが過ぎていく。元の世界で車での移動に比べれば速度としては遅いのだが風情があっていいものかもしれない


 もう少し先に進めば調査団用の野営地が有るらしい。南部の都市連合が定期的に行う魔境の調査に使用するために整備したものだそうだ。簡易的ではあるが柵もあり、ただ野営をするよりは危険度が減るらしい。(もっと)も本来は複数の冒険者パーティで護衛した上での話なので。少数の俺達ではどれ位、柵が役に立ちかは判らない所だ


「野営中の警戒はゴーレムと精霊たちに任せておいた方が無難じゃぞ」

「そうなんですか?ふつう夜番とか決めて交代で警戒するんじゃないんですか?」

「この辺りの魔物は火を恐れないからの。灯りを目当てに却って襲われる危険が高くなるのじゃ」


 普通の森や街道で現れる程度の獣や魔物ならばある程度、火を恐れて近付いては来ない。しかし、この辺りでは却って目立ってしまって魔物を呼び寄せてしまうというのだ。しかし火が無ければ暗くて警戒も出来ないので、探知用のゴーレムか精霊を使役して警戒に当たるのだと、目を覚ましたローラさんが屋根の上から教えてくれる。


 俺達のパーティはタンドさんとハルカさんというハイエルフも居るし、ブルーベルにルビーゴーレム達という優秀な守番が居るのだから、態々(わざわざ)夜目の効かない俺達が警戒に当たる事はないみたいだ


 そんな話をしていると、遠くに野営地が見えてくる。前回の調査から日が浅いとの事なので、それ程有れていることは無いだろう。大森林までの日程は余裕を見て組んであるので野営するには早すぎる時間なのだが、無理をして何も備えの無い所よりは此処で野営してしまった方が安全だ


 少し小高くなった丘の上、そこに一本だけ生えている大きな樹を囲むように簡易の柵が設けられた野営地は死角も少なく、警戒するには適した場所だと言える。備え付けられている門を開け中に入ると炊事場の様な者も残されており、思ったよりも立派な造りになっていた


「結構立派な野営地なんですね」

「そりゃあね。最低でも一年に一回。多い時は三か月に一回くらいの割合で調査するからね」


 定期的な調査で魔物の数が増えてたり異常が見つかると、更に追跡調査を行うので利用頻度は高いらしい。その度に護衛依頼が出るので冒険者としても結構な稼ぎになるようだ。但し、実力が伴わないと即命の危険に繋がるので人選は厳しくしている為、同じ顔ぶれになる事も多く中には護衛専属で食べている冒険者もいるそうだ。危険と引き換えに報酬も高いので可能な事らしい


 馬車を野営地に入れて荷物を下ろすと早速、野営の準備に入る。ハルカさんとタンドさんは精霊を呼び出し周りを警戒してもらう。風の精霊であるシルフが飛び回り、土の精霊ノームがチョコチョコ歩きながら辺りに散らばっていった。伶もブルーベルを筆頭にゴーレム達を配置につかせた後、炊事場で夕食の準備を始めていた


 特にやる事の無い、俺とポンタさんは草地に腰を下ろすと近況なんかを話し始める。ローラさんは日当たりの良い所で昼寝の準備に入っていた。・・・ホントに良く寝るな


「そういえば、聖女様の様子はどうですか?」

「智大、そこから聞くのか?」


 若干、不満顔のポンタさん。戦士団の事や調査団の事を聞いて欲しかったらしいが、その辺りの情報は入ってくるので、俺としては熊さん大好きな聖女様の様子・・・と言うか彼女をあやすのに苦労している様子を聞いてみたかったのだ。


 俺の思惑に気付きながらも、それでもポンタさんは親切に教えてくれた。結局、月一で王都まで行くのは大変なのでポンタさん自体は王都の近辺に居を構え、そこで戦士団との訓練や調査団の報告を受けているそうで、充実はしてるらしい。ただ聖女様に近くに住んでいる事がバレてしまい、月一では無く週一位で呼び出しが有るそうだ


「儂はまだ未婚じゃからの。子供の扱いは如何(どう)にも苦手じゃ」


 最後にそう呟くと、そっぽを向いてしまった。ちょっと(いじ)り過ぎたので話題を変える


「獣人族の結婚適齢期って有るんですか?」

「う、うむ。それは・・・」

「にゃはは。少年それは地雷じゃぞ」


 昼寝をしていた筈のローラさんが嬉しそうに近づいてくる。ポンタさんを弄るのは昼寝よりも重要らしい


「ポンタはな真面目過ぎて、適齢期を過ぎても相手がおらんのじゃ。いまどき「月が綺麗ですね」とか言っても相手には伝わらんぞ」

「なっ!ローラ。何処でそれを・・・」

「にゃはは。進化するとそんな事も良く聞こえるのじゃ」


 顔を真っ赤にしたポンタさんがローラさんを追いかける。こっちの世界でも「月が綺麗ですね」の話が伝わっているのか・・・漱石さんも有名になった物だ


 ふと思う。ドライアドにしろ変な情報がこっちに漏れているのは何故なんだろう?物語なんかでは複数の異世界人が存在してたりするけど、この世界でも居るのかもしれないのかな?


 そんな話は聞いた事が無いけど、一度誰かに聞いてみないといけないな


 そんな事を思いながら、ローラさんとポンタさんの追いかけっこを見ていると、伶が鍋の蓋を叩きながら食事の用意が出来た事を知らせる。伶も案外古いネタを出してくるな・・・


読んでいただいて有難う御座います

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