第二回報告会議~2
悪巧み中のタンドさんが作戦を説明する。
「大森林の周りには町も無いし、抑々人が移動してるだけで目立っちゃうからね。そこに噂の使徒様御一行が登場したら邪教徒達も警戒する筈さ」
ロダの魔境もそうだが、魔境は定期的に魔物の数を減らしてやらないと魔境から溢れて周囲に被害を齎す。しかし大森林に在るA級魔境の場合、その魔物の強さから数を減らしてやるには危険が多すぎる。幸い魔境の周りに広がる大森林の中で納まっているので大規模な侵攻が起きることは無いのだが、だからと言って態々危険な場所の近くに町を造ろうという者もいない
それ故に、大森林に近づくだけで嫌でも目立つのだろう。ドライアドに頼んで大森林に直接繋いでもらえば目立つことも無いのだが、今回は態と目立とうって訳だ。
「邪教徒体は何らかの手段で森の中に安全な拠点を作っているんだと思う。そこでA級魔境の魔物達を捕えて召喚術の契約をしてるのかもしれないね」
確かに、ミドルジャイアントなんて魔物はそこらにいる訳じゃない。あれが召喚術なのか転送に依るものなのかは不明だが、少なくても何処かで彼を捕まえたのは事実なのだ。
「その情報は何処から齎されたのですか?」
「うん、まず一つ目は不自然さからだったんだ。」
「不自然さ?」
「ああ、邪教徒達の仕業と思える事件が南部では一切起こっていないんだ。確かに南部は大森林の影響で人口が少ないんだけど、むしろ隠れて悪巧みするには向いてる筈なんだ。しかし一切事件が起こってないというのは意図的に注目されない様にしている節がある。」
「そういう見方もあるじゃろうが、単純に南部まで手が回らないだけではないのか?」
ローラさんの言う通りだと思える。邪教徒達の目的は民衆の不安を煽り、それを邪神の力にする事だ。それならば費用対効果の面からも南部を襲うメリットを見いだせなかった可能性はある
「確かにね。そこで出てきたのがギルドに保管されている過去の依頼の記録なんだ」
邪教徒達の動向を探るために各地の記録を精査していた時に出てきた依頼に中に奇妙な物が混ざっていたのだというのだ。基本は護衛依頼で大森林周辺の調査時に冒険者を付けて安全を図るという名目だったらしい
「大森林の調査ってのは珍しくないんだ。南部の都市が合同で魔物の状態とかの調査をする事もあるし、物好きな学者とか魔術師なんかが珍しい植物とかの採取目的とか色々有るんだ」
「それとは毛色の違う物が有ったという訳か?」
ローラさんの言葉に頷くタンドさん。
「実はね、ギルドの依頼ってのは達成された時に冒険者のランク分けに影響するんだけど、今回南部の依頼を地調べてたらね、その中で一つだけ依頼された内容と実際の難度が違うと冒険者からのクレームが入った依頼が有ったんだ」
偶々ランク昇格の近い冒険者が依頼を受けたのが切っ掛けだったらしいのだが、依頼内容は単純に調査の護衛だったらしいのだが、奇妙な事に護衛は片道で構わないとの内容だったらしい。しかし初めに聞いてたよりも運ぶ荷物の量や調査団の規模が大きかったらしく単純な護衛よりも難しかったので、ランク昇格の近い冒険者としてはキッチリと評価の上乗せを申請して来たようなのだ。
結局、処理としてはギルド側から依頼主に苦情を入れた所、自分達で用意した護衛も居たのだから依頼内容の難度は正当だとゴネた様なのだが、ギルド側が調査の申し出をしたら素直に非を認め達成金額を大幅に増やす事を申し出て来た為、結局は詳しい調査はされずに終わり特に大きな問題にも成らなかった様だが、しっかりと記録に残っていた訳である
「その冒険者ってのが、今じゃあ結構有名でね。実力も有るし言動も誠実で評価の高いパーティなんだ。過去の事って言ってもそのパーティがクレーム付けたんだからよっぽどだったんだろうと目に留まったんだ」
「ふむ、真っ当な調査団ならば依頼内容も正直に話すじゃろうし、ギルド側が調査を口にしたら問題を金で解決した所を考えると探られては困る何かが有ったという訳か」
「調べてみたら依頼者も偽名で存在しないみたいだし、それだけの荷物を持っての大規模な調査なのに、依頼は片道の護衛って怪し過ぎるんだよね」
確かに総合的に考えれば、只の調査である訳がない。荷物の中身は拠点を作る為の資材や荷物。人員はそのまま拠点に配置する為って考えれば辻褄は合って来るな。そして拠点に目を向けさせない為に南部では問題を起こさない様にしていると・・・
「ふ~む。調べる価値は有りそうじゃの」
「それでしたら、皆さまはそのまま魔境での探索を行ってください。邪教徒に限らず大森林の周りの調査は私が請け負いましょう」
「そうですね。それが一番良いでしょう」
正直、スラちゃんの進化の為にはナティさんが付いて来てくれる方が有り難いのだが、目立たずに広大な大森林に目を光らすのならばナティさんとその使い魔が一番向いているだろう
邪教徒達にしても俺達が大森林に近付けば、かなり警戒を強め息を潜めて隠れる可能性が高い。しかし俺達が単純に魔境の探索に来ただけだと判れば、そこに油断が発生するはずだ。そこを知られていないナティさんが目を光らせているとなれば必ず尻尾が掴めるはずだ
「へへ~これでスラちゃん無双にまた近付いたね」
「きゅ~♪」
「智大君。A級魔境の調査ってスラちゃんの進化が目的なの!?」
やばい、理由が不順だったか?タンドさんが驚いた顔で聞いてくる
「すいません。進化するなら魔力や魔素の濃い場所が良いと聞いたので・・・」
「・・・ほんと君って面白い考え方するよね。A級の魔境だよ?」
「そうじゃろ!?。少年、やっぱりお主は大物じゃよ」
微妙に褒められてない気がする・・・ナティさんも頷いてるし、そんなに不思議な事なんだろうか?
「智大よ、普通はな強さよりも身の安全の方が大事なのじゃ。ましてや使い魔のスライムの為に命は掛けないぞ」
「でも。スラちゃんの身の安全の為にも強い方がいいじゃないですか」
「そこじゃよ、普通は自分の事を考えるのが、お主は他者の事を考える。それが普通の事であると言う様にな」
「そうですね。智大様はご自身の事よりも他者の心を重んじてくれます。普通、七大魔族の私が普通の執事ですと言っても、恐れの方が大きく中々認めて貰えないのですが貴方はあっさりと認めてしまわれた。それがどんなに嬉しかったか・・・」
あれ?ナティさんが俺の事を気に入ってくれるのってそんな事なの?本人が普通の執事だって言うんだからそれで良いんじゃねえの?
「ナティさん。考えすぎです。この馬鹿は何も考えて無いだけですよ」
「ふむ、それも有るのは確かじゃな」
「でも、そこが魅力なのです~」
伶の酷い評価に皆が笑い始める。今まで発言しなかったハルカさんがフォローしてくれるが、馬鹿の部分は否定してくれない。やや憮然としている俺の肩をスラちゃんでなくポンタさんが叩きながら笑う
「良いのじゃ。お主はそのまま真っ直ぐに育って行けば良いのじゃよ」
いやいや、ポンタさん。馬鹿のままでいいって言われても納得は出来ないですよ
あと地味に痛いです。もう少し力を抜いてくださいよ
「きゅ~」
慰め役を取られたスラちゃんが寂しそうに鳴くのを聞いて、更に皆の笑いが大きくなり報告会議は明るい雰囲気のまま終了を迎えるのだった
読んでいただいて有難う御座います




