第二回報告会議
「やあ、智大君。久しぶりだね」
「タンドさん。お久しぶりですね」
「智大、久しいの。少し逞しくなったか?」
「ポンタさんもお久しぶりです」
昼下がりに定例の会議の為に、タンドさんとポンタさんが連れだって家にやってきた。久しぶりといっても一か月なのだが、この一か月は特に濃かったので、余計に久しぶりの様な気がする。
「二人が一緒ってのも珍しいですね」
「ふむ、今回はタンド殿に森を経由しての近道を使わせて貰ったからの」
前回の会議の時は、帰ったらタンドさんが一人で寛いでいたんだっけ。俺達が神殿に行ったりしている間に打ち合わせとかで仲良くなったのかな?
「各地に派遣している調査員達とのやり取りにもドライアドの力を借りているんだよ」
少し疑問に思っているとタンドさんが説明し始める。始めはこの広い大陸では連絡を取り合うのも一苦労していた様で思う様に指示が出せなかったらしい。しかし誰も彼もがドライアドを使って森を移動するのはエルフの村としても遠慮願いたいとの事で、ドライアドに手紙を預けてそれをタンドさんが纏める様にしたらしい。今回は会議の為という事で特別にポンタさんも森を移動してきたらしい
「聞いたよ。アンデッド関係で帝都の近くの村が壊滅したって?」
「そうです、邪教徒の新しい呪術によるものでした。詳しい話はナティさんが調べてます」
「呪術の開発ね・・・邪教徒達の組織ってのがいまいち見えてこないね」
表向き、あの村は壊滅では無く祝福を受けた事になっている。村人たちは神々の招きに応じて神事を執り行う為に旅立ったという事にしたらしい。村は神々により祝福され新たに入植する村人達には十分な恵みが与えられると神託を出して誤魔化したらしい
とはいえ、タンドさんやポンタさんには真実が伝わっている様で、あの一件の事もきちんと把握しているらしい。アッティスさんの事までは知らないみたいだけれども・・・
「ところで、他の皆は元気かな?」
「はい、伶とハルカさんは買い物に出てます。ローラさんは・・・まぁ、いつもの事です」
「まったく、歳をとっても変わらん奴だ。会議の日じゃというのに昼寝に出おったか」
「にゃはは、そう言うでない。昼寝のお蔭で進化できたのじゃからしょうがないじゃろ」
突然現れたローラさんに吃驚するポンタさん。・・・絶対このタイミングを狙ってたんだろうな
伶とハルカさんも、もう少しで帰ってくるだろうしナティさんは神出鬼没の人だから、きっと全員が揃ったら出てくるだろう。それまでお茶でも飲みながら近況を話し合う
「そうそう、実はお二人にお願いが有るんです」
「ん、なんだい?智大君には世話になってるからね、大抵の事ならバッチ来いって感じだよ。ハルカちゃんに手を出しても怒らないから安心していいよ」
「うむ、家族の頼みなら出来る限りの事をするのが当然じゃ。同じくローラに手を出しても構わんぞ」
二人とも内容も聞いてないのに快諾の意思を示してくれる。若干不穏な発言が混ざっているのはスルー推奨だな。それよりも問題はA級の魔境を探索するのが大抵の事や出来る限りの事に入るのかどうか若干不安が残る
「実は、南に広がる大森林にあるA級魔境の探索に協力して頂けないかなと・・・」
「おっと、予想外の場所が出てきたね。でもある意味都合がいいかな?」
タンドさんとポンタさんはお互いの顔を見合わせると頷いている。都合がいいと言う以上、調査団の方でも何かしらA級魔境に関する事が出てきたのだろうか?
「ただいま。あら、ようこそタンドさんにポンタさん。お待たせしたみたいですいません」
そこまで話した辺りで、買い物から伶とハルカさんが帰って来た。なにせ最近はA級魔境に行く準備の為に忙しく、まともな食材も無い生活だったのだ。会議の後に夕食を振舞おうと急ぎ買い出しに出ていたので少し遅れてしまった訳だ
「おや、伶君にハルカちゃん。相変わらず綺麗だね、待つのは男の仕事だから気にしなくてもいいんだよ」
何処かのホストの様なセリフで返すタンドさん。相変わらず読めない人だ・・・
荷物をキッチンに置いて、リビングに全員が揃った処でタイミングを見計らったようにナティさんも現れる。何故かタンドさんだけがビクッと反応する。。普段は軽~いキャラで余裕の表情なのにどうにもナティさんの事が苦手らしい。このメンバーの相関図とか書いたら面白い事にになりそうだ
「さて。それじゃあ二回目の報告会議だね」
気を取り直したタンドさんが開会を宣言する
「まずは儂から。タンド殿がギルド長を務める宿場町で起こった盗賊騒ぎ。これに似たような事が各地で起きておった様だ。しかし既に撤収済みなのか存在を確認できた物は無かった。正体不明の盗賊団の存在があったという噂話が残っていた程度だ」
「その話はギルドでも確認済みだね。一応調査依頼が出されていたけど、被害すら確認できていないのはあの時と一緒、行方不明者が多く出ていたけど暫くしたら、それも無くなったらしいね。」
「私達が倒したことで居なくなったのか、方法を変えたのかが判らないですね」
「そうなんだよ。あくまでも噂話だから、それが起こっていた時期の特定が難しいんだ。」
始めに出会った盗賊の真似をしていた奴らが移動しながら各地で召喚術の実験をしていたのか、それとも複数の実験部隊が居るのかで邪教徒達の規模等が想像できるのだが、少々難しい様だ。
「アンデッドの方は?」
「墓を荒して生み出した通常のアンデッドと新しい呪術を用いたアンデッドが確認できたわ」
「新しい呪術ね・・・具体的に教えて貰ってもいいかな?」
「ふむ、通常のアンデッドは魂が抜けた後の肉体を操る物じゃが、呪術の方はその魂ごとアンデッドに変えてしまうのじゃ。通常のアンデッドと違って受け答えも出来るし簡単には気付かれまいよ」
「つまり後方攪乱にも使えるという事か?」
「そうですね。邪人の襲撃を受けて籠城している街で内部から騒ぎを起こすとか、城門を開ける事などを目的にしてるような気がします」
「それも脅威だけど、そんな呪術を開発出来る事の方が驚きだね」
「そうですね。キュベレー様にお聞きした事ですが、魔法では無く呪術との事でしたので何か今までと違う事が可能になっているのでは無いでしょうか?」
会話がそこまで至った時、それまで口を開かず推移を見守っていたナティさんが口を開く
「帝都の近くの村で捕えた邪教徒達ですが、やはり古の技術で生み出された魔石が埋められており、さらにその魔石に呪術を使う為の術式が追加されていましたね」
「追加・・・そのような事が出来るので?」
タンドさんの疑問は尤もだ。かつて魔王様を激怒させ失われた技術となった魔石の加工。禁忌とされる技術でもあるが豊富な知識と技術が無ければ再現は出来ない。しかも証拠隠滅の為の加工に更に付与させるとなると・・・
「加工自体は可能なのかも知れませんが、かつてそれを開発した小国も二つ以上の効果を付与する事は出来ませんでしたから、それ以上の技術と知識ある者の存在が有るのでしょう」
「術者からは何か聞き出せましたか?」
「いえ、具体的な事は何も。しかし邪教徒達の上層部・・・教祖と言えば良いのでしょうか、その周りの幹部たちに変化が有った事は判りました。新たな幹部連中が最近の行動を仕切っているようです」
新たな幹部達か・・・そいつらが新しい技術を齎したのか、それとも別の理由があるのか・・・
「不確かな事を決め込んで動くのは危険じゃな。新たな幹部は気になるが、引き続き情報収集するしか無いの」
「そこでなんだが、どうも邪教徒達の大きめの拠点が南の大森林に有るという情報が有る」
先程のタンドさんの都合がいいって話がここで繋がるのか。
「流石に南の大森林じゃあ冒険者達もいないし獣人族の調査員じゃ目立つからね。それなら、いっその事使徒様たちに目立ってもらった方が調査がし易いかなと思ってね」
タンドさんがウインクしながら話しかけてくる。その悪巧みしてます感、満載の笑顔で作戦を語っていくのであった
以前は2500~3000文字程度で一話としていましたが最近は3000~3500文字で一話にしてみました
皆さんの好みはどちらでしょうか?
しかし・・・字数が増えても展開が遅くなるのは何故なんでしょう?自分で書いていても思う様に進まないのが不思議です




