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ロダの魔境~迷宮探索編6

 シトールさんの空気を読まない発言に足が止まりそうになったが、気を取り直してナティさんの様子を窺う。気負うでもなく油断するでもなく身体からにじみ出る闘気(オーラ)は澱みなく流れている。


『神眼』に写るナティさんには打ち込むべき黒い線が数本ある。しかし、そこに打ち込んでも絶対に当たらないという確信がある。自分のスキルを信じないわけではない。今までだってそこに打ち込んで勝利してきたのだから


 確信にも近い予感が漠然と広がる。かといって睨み合っていてもしょうがないし、格下なのは確実に俺だ。最初に此方から動かなければ始まらないだろう。足捌きに意識を向けながら隙を示す黒い線に、必殺の攻撃を仕掛ける


「チェストオオオ!」


 八双の構えよりも刀を高く上げて一気に間合いを詰める。そのまま高く構えた刀で間合いを詰める勢いも足して相手の肩口に目掛けて振り下ろす。示現流で有名な蜻蛉(とんぼ)の構えからの一撃だ。家の実家の武術は他の流派の特徴は大体取り込んでいる。パクリだと言われればそれまでだが、各流派の良いトコ取りとも言えるかも知れない。その分修行は厳しめだけど・・・


 ナティさんは表情も変えずに、打ち下される刀の横にそっと手を当てる。それだけで、たったそれだけの事で一撃に全てを掛けるとも言われた示現流の一撃は軌道を逸らされ、ナティさんの横を通り過ぎる。体勢の泳いだ俺に追撃を加えるでもなく、変わらぬ表情でこちらを見つめている


 振り返り際に振るった横薙ぎの一閃をスキル『縮地』を使いながら放つ。そのまま同じ軌道を刀を返してもう一度『縮地』を使いながら一閃。刀が同じ軌道を往復する燕返しはあっさりと躱された。


 一見するとギリギリで躱しているように見えるが、此方の切っ先を完璧に見切って必要最小限の動きで躱されているだけだ。打ち込んだ時には見えていた黒い線がナティさんに届く前に消えてしまう


「智大様、本気になられた方が宜しいですよ。人族と魔族の差は貴方が思われているよりも大きいのですから」


 涼しい顔で残酷な事を告げてくるナティさん。その言葉は磨いた技術だけでは乗り越えれない壁を告げている。隙が有っても俺が打ち込んでいる間に対処できるという自信がナティさんには有るのだろう。スキル『身体操作』でギリギリまで上げた能力でも追い付けない種族の差がそこに有った


「チッ!」


 舌打ちと共に作戦を変える。『身体操作』で上げた能力と『縮地』。更には足捌きの緩急で高速で動いている最中に(わざ)と速度を落とした一瞬に残像を生み出して再び高速移動に入る。これによって複数の残像を見せながら間合いを詰める。更に『気配操作』で残像に気配を付与する事で残像に実体感を生み出し攻撃の始動を掴ませない


「複数のスキルを使いこなす事で相手に実体を掴ませない技ですか・・・見事ですが動きが遅すぎます」


 迫る俺の目の前でナティさんの姿が複数に分かれる。俺が生み出した残像よりも多い数・・・しかもナティさんの存在感はどの残像からも感じられる。瞬時に俺が繰り出した技を更に高い完成度で再現されてしまった


「リッチを倒した時の動き、あれで最低限の戦いになる程度です。出し惜しみしてる場合ではないですよ」

「そこまで言われちゃったら出さない訳に行かないですね」


 属性の解放・・・それは起死回生の切っ掛けになるかも知れないが弱点もある。発動できる時間が短い為、一度発動すれば倒しきらなければならない両刃の剣なのだ。しかしナティさんは『迅雷』を発動した状態が最低限の状態という。つまりはあの動きに付いて来れる自信があるのだろう


 迷っていてもどうにもならないな。発動しなければ戦いにもならない状態なのだから、奥の手なんて言ってられない。


「迅雷」


 いつもの様に小さく囁く様に発動する。何故か大声で叫ぶように発動するのが恰好悪い気がするのだ。瞬間紫電を纏う様に身体と知覚が軽くなる。身体能力を超えた情報を処理するために『高速思考』が発動する。

 一歩目からトップスピードに乗ってナティさんに肉薄する


 踏み込みの勢いも乗せた脇構えからの地面にするような一撃。


「全然だめですね。スピードに任せて基礎が(おろそ)かになっています」


 ナティさんの声が後ろから聞こえる。紫電を纏いスピードの上がった一撃は、更に早い動きのナティさんにあっさりと躱される。


 振り向いてその姿を確認しようとしても、もうそこにはナティさんの姿は無い


「いいですか。属性解放した状態で先程の動きを再現しなさい」


 まるで教師の様にアドバイスしてくれる。トップスピードでは制御が効かないのが見抜かれているのだろう

 意識してスピードを押えて、視界を広く取るようにすると今まで見えなかったナティさんの動きが見える。


「そうです。貴方の足捌きは緩急が基本の筈です。近付くまではゆっくり、必殺の斬撃の時にトップスピードを出すようにするのです」


 言われた通りに緩急を意識する。足運びを意識して動く事で踏込や減速時の身体の負担も減る事に気が付く


「周りに出ている紫電を内に留めなさい。それはかなり無駄です。もっと身体の中で循環させるのです」


 お互い高速で動きながら、師匠が弟子に稽古をつける様に間違っている処を指摘される。しかし嫌な感じはしない、言われた事を実行すると格段に動きやすくなるのだ。刀を振るう事も忘れて、ただナティさんの動きに付いて行くのに必死になっている


 周りで見ている筈のシトールさんやブルーベルには、もう姿すら見えなくなっているのではないだろうか?そう思える程、身体が軽くて頭の中で思い描く動きが出来る様になっていくのだ


「さあ、ここからが本番ですよ。基礎の動きを意識しながら攻撃も混ぜてみて下さい」

「行きます」


 一旦間合いを取ってナティさんが言葉を掛けてくれる。先ほどの様に大きく動くのでは無く、俺に攻撃させる為に足を止めて待ち構えてくれる。力任せでは無くコンパクトに刀を振るう


 全身のばねを使い下半身の動きと腕の振りを同調させる。矛盾するような事だ、全身の力を刀に集めながらも動きとしては小さく素早くを意識して行く。伶が創った刀の切れ味を信じて、ただ刃筋を通す事を意識しながら攻撃をしていく・・・が、かすりもしない


 袈裟懸けに放った一撃。そこから無理のない様に切り替えして横薙ぎの一閃に繋げる。勢いそのままに回転しながらの一撃も綺麗に躱されるのだが、予想の範囲内だ。今度は軽く引いた刀を突き出す。そのまま狙う場所を変えての連続突き。上体を捻って躱すナティさんの動かない腹部を狙って同じように突きを入れる


「いいですね。だいぶ動きが見える様になったようですね。しかしまだまだこれからです」


 嬉しそうに微笑むと一瞬で間合いを詰めたナティさんが掌底を放ってくる。今までは躱すだけだったが攻撃も混ぜる事にしたらしい。しかし考えようによっては、こちらの攻撃を入れる隙が生まれる事だって有る筈だ。『神眼』を使い攻撃を予想しながら最小限の動きで身を躱す


 お互い高速戦闘に入ってしまえば無駄な動きは次の攻撃へのロスになってしまう。攻撃予測からの回避、その回避する前にどう動けば次の攻撃に繋げれるかを意識する。傍目には俺達はその場所から動いてないように見える。しかし、足捌きで下半身だけがぶれている。常にお互いの攻撃がカウンターになる様な、紙一重の攻防なのだ。しかし、小さい傷が増える俺に対して、その服にすら触れさせないナティさん。どちらが優勢なのかは自分でも判る


 斬り付けた刀を腕で払いながらの掌底が迫る。頭だけ捻ってそれを躱すと同時に刀を返す、ナティさんの死角になる様に、右手一本で刀を跳ね上げる。躱されるのは百も承知だ、次の掌打が来る前に刀を引き戻すと小さく突きを入れて体勢を崩すのを狙う。手の甲でその突きを弾くとそのまま竜爪の形にした手で薙いでくる。上半身を後ろに下げつつ躱し刀を下から斬り上げる


「いやいや、楽しくなってしまいますね。でも、もうそろそろ時間でしょう。この辺で決めないといけませんよ」


 大きく下がって躱したナティさんが薄く笑う。そうか、『迅雷』を発動してからだいぶ時間が経ってしまったようだ。色々試してみたが攻撃が通る見込みは無いがやれる事は残っている。最後に気力を振り絞って今出来る事をぶつけてみよう。


 結果、力が示せればめっけもの。駄目なら駄目で失う物は無い


 決心の付いた俺は正眼に構えを戻しゆっくりと呼吸を整え、躍動の時に備えるのだった





次でバトル終わりです。久々のシリアス先生の活躍でした

シトールさんが居なかったら面白くない話になっていたかもしれません


あまりキャラ増やしたくないのですが、上手に動いてくれるキャラになってくれました


読んでいただいて有難う御座います


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