ロダの魔境~迷宮探索編5
翌朝、・・・だと思う時間に目が覚める。迷宮の中にいるので太陽の高さなどから時間は読めない。なんとなくの感覚と腹時計からたぶん朝だと判断している。四隅の篝火はまだ燃えているので部屋の中の明るさは確保されている
「ファ~ア、兄さんおはよ。身体は大丈夫でっか?」
「ええ、少し怠いですが支障は無いようです」
昨日の礼を言って身体を毛布から起こす。シトールさんはそのまま昨日の鍋を火に掛けているので残り物で朝食にするつもりだろう
「グッスリ眠っとったから、なんや起こすのも可哀想やなと思うてな。いい具合に軟らかくなってるから丁度エエやろ」
そう言って干し肉を煮込んだシチューを出してくれる。何処から出したのか野菜までしっかり入っている念の入れようだ。流石にハートに飾り切りはしてない。それをやっていたら漢女の仲間入りだ
怠さが残る身体にシチューの温かさが沁みこんでいく。正直あまり食欲は無かったのだが不思議と口に入れれば、すんなり入っていくものだ。おかわりまでして、すっかり満腹になってしまった
「さて腹が膨れたトコで、お楽しみの宝箱や」
手をスリスリ合わせながら宝箱の所まで移動したシトールさんが、早く来いと言う様に手招きしてくる。まぁ、中身が何であろうと宝箱を開ける前のワクワク感は魔族も人族も共通らしい
お互いの顔を見合わせてから頷き、せーの、って感じで蓋を開けると中から出てきたのはレガースと何かの液体が入った小瓶だ。レガースはトーラスを倒した時に出てきた小手と同じく銀色の輝きを放っている
「これは小手とセットのアイテムやな、たぶん何かしらのエンチャットが掛けられてると思うで」
「セット?そんな事が有るんですか?」
「そや、迷宮を全部攻略すると全身一式の防具と武器が揃うとか言うんが、偶にあるんや。」
「へ~不思議ですね。誰が意図的に置かないとそんな事有り得ないと思うんですけど」
「そやろ。そういうんも含めて迷宮の不思議と言われとるんや。しかも、そういうセットになった武器はえらい強力なのが、お約束なんや。それこそ世界をぶっ壊せるくらいや」
「へー、それで魔王様がそう言う物を危惧しているという事ですか。ならこんなの出てきたらナティさんに怒られるんじゃなですか?」
「うっ!兄さん折角忘れとったのに、嫌な事思い出させんといて」
ちょっと違う意味でのお約束の会話をしながら、アイテムの話を聞いていく。どっちにしろ伶に鑑定で見て貰ってから装備した方がいいと思う。魔力を使って防御力を上げるとかの効果が有ったら、俺の少ない魔力では洒落にならない事態になりそうだ。
「こっちの小瓶は判ります?」
「なんやろな?ポーションの類とはちゃいそうやけど・・・」
ふむ、こっちも正体不明っと。これも伶に見て貰わなければいけないな。魔法の鞄に一先ず入れておこう
そして、魔石はスラちゃんの御飯に決まってる。掌からはみ出しそうな位の大きな魔石なのだが、若干青白い炎の様な物が内部で揺らめいている。
「こりゃ珍しいで!闇属性の魔石なんて滅多に御目に掛かれんで。売ったら天井知らずや」
「・・・魔族なのにお金、欲しいんですか?」
「別にお金はどうだってエエんや。ただ高く売れるモンを食べてまうのが勿体無いちゅうだけや」
うん、その理屈が良く判らない。お金に興味が無いと言いつつ、勿体無いとも言うシトールさん
「そんな事よりもスラちゃんの進化の方がロマンが有るじゃなですか」
「そやかて、ロマンじゃ腹は膨れんしなぁ」
うん、要はケチなだけだと思う。
「ま、その辺は兄さんに任せるで。ワイは迷宮の不思議が体験出来たら満足やねん」
「それじゃ、遠慮なく貰っときます。最後の探検かも知れませんしね」
「だ~!それを言うなちゅうてるねん」
軽口を叩きつつも荷物を纏め、装備を点検すると下への階段を降り次の階層へと向かう。階段を降りて目についたのが通路の変化だ。今までの通路の様に岩壁の間を通るのではなく、きちんと装飾もされ床も石畳がきれいに並べられている
しかも、今までの様に渦巻き状では無く真っ直ぐな道。その先に今までよりも豪華な扉が見えている
「なんか如何にもって感じですね」
「そやな、ラスボス登場って感じや」
ラスボスって。やっぱり変な知識が流れてないか、この世界!
そう言いつつも扉の前に立てば、お互いに真剣な表情になる。少なくてもトーラスやリッチよりも強い敵が待ち構えてるのは間違いないだろう。そう思いつつ、ゆっくりと扉を開けると予想外の声を掛けられる
「これは智大様。予想よりもお早いお付きですね」
「ナティさん!?」
はいそうです。って感じでにっこり笑うナティさんが優雅な姿で立っていた
「ヒッ!ドゥルジ様。堪忍や。魔王様に逆らう気ぃなんて無いんです」
ナティさんの姿に電光石火の五体投地をかますシトールさん。合わせた両手を、地面に付けた頭の上にあげて拝むように謝っている
「これはこれは、シトール君。智大様の案内、ご苦労様でした」
「ほぇ?」
予想外の事を言うナティさにシトールさんが素っ頓狂な声を上げる
「おや?智大様の案内じゃあないと?まさか未発見の迷宮を探索して危険なアイテムの発見などしてませんよね、ストール君?」
「は、はい。道案内です。ワイは兄さんの道案内の為だけの存在です」
流石に自分の命が掛かっているので頭の回転も速い。ナティさんの意図を素早く汲み取って答えているが、やっぱり慌ててるのか後半でおかしな事を口走ってるシトールさんに苦笑いが込み上げる
「まぁ、この大陸の迷宮は全て私が探索し終わってるので危険なアイテムは回収済みですけどね」
「・・・」
あれ?ナティさんが黒い。この手の冗談を言うタイプだとは思わなかった
「さて、智大様。修行のお役には立ちましたでしょうか?」
「ええ。色々発見もありましたし、自分の力も試せましたよ」
「それでは、最後の修行です。私を倒せとは言いませんが力を示してくださいね」
「汝が力を示せ・・・って事ですか」
ナティさんが姿勢を変えずに威圧だけ放ってくる。構えた訳でも魔法を発動した訳でもない、しかしその身から放たれる圧迫感に後退りしてしまいそうになる
「ウォオオオオ!」
自信を奮い立たせるように叫びを放つ。立っているだけで判る、この人を倒す事などは出来ないという事実。しかし戦う前から怖気づいて何も出来ないのではどうしようもなくなってしまう。使徒としてこの世界を救う為、この世界で出会った皆を守る為、そして・・・伶を守るためにはこんな恐怖にくらい、勝てないようでは駄目なのだ!
圧倒的な威圧に飲み込まれて金縛りの様に動かなかった身体が叫びと気合で動くようになる。伶が創ってくれた自慢の刀を抜き放つ。肩口に引き上げた刀で八双の構を取りながら摺り足で両足を交互に送り出し近づく。
一見するとスピードを犠牲にした足運びに見えるかも知れないのだが、極意はそこに有ると爺ちゃんに仕込まれた。曰く踵を起点に踏み込めとは、かの有名な二刀流の開祖の言葉だ。
サッパリ意味が分からない。踵を起点にして踏み込み、さらに指先でも踏み込むなんて足の構造上出来ないような気がする。大体、踵で踏み込むってどういう事だよ!
この世界に来て身体能力も上がっている。意味不明なスキルという補助もある。出来ないとか判らないと思える事でも出来るかもしれない。
いや、出来るかもしれないじゃない!
やるんだ!やってみせるんだ!!
ゆっくりとした動きで、決意と闘志を燃やしながらギリギリの間合い、即ち一足の間合いまで近付く。噴出している威圧感とは逆に優しい笑みを浮かべるナティさん・・・
「あの~、ワイもう立ってもエエかな?」
・・・シトールさん、空気読んでください
書いていて全然終わる気配が有りません・・・
後、二~三話このままです
うまく纏められないなと実力不足を字数で誤魔化してます
読んでいただいて有難う御座います




