ロダの魔境~上級編2
魔境の中心部に近い森の傍で出会った魔族、シトールさん。話してみると気のいいお兄さんて感じだが、魔族なので実際はかなりの年上だろう
「それでシトールさんはこんな所で何してたんですか?」
「はぁそれは兄さんも同じやないかい。まぁ、ワイは魔境にある迷宮を探しとるんや」
魔境・・・中心部にある魔力溜まりの影響で周りの環境が変わってしまった場所を指す。ルクテの近くに在るロダの魔境は比較的おとなしい方だと言われているが、元々の環境が大型の獣や危険な生物が少なかった為、危険な魔獣が少ない事と、街から近い為定期的に魔獣の駆除が為されている為にそう言われているだけである
実際、中心部に近づけば複数の高位冒険者のパーティーでは無ければ倒せない魔獣も多い。それでも立ち入り禁止に指定されているA級と言われる魔境よりはおとなしい様だ
「迷宮ですか・・・ロダの魔境にそんな物が在るなんて初めて聞きましたよ」
「いやいや、魔境に迷宮は付き物なんやで。それが無いっちゅう事は、未発見の迷宮が在るに違いないんや」
他の魔境の事はよく知らないのでシトールさんが言うのならばそうなのかもしれない
「ほんで、兄さんはこんな所でなにしとるん?」
「えっ、俺は修行してるだけですよ。」
「一人で?一応この辺りは上級者向けだと思うで。やっぱりけったいな兄さんやな」
「いや、相棒と、もう一人こいつも居ますから」
俺は肩の上に乗るスラちゃんと後ろに立つブルーベルを紹介する。
「スライムをテイムしとるん?それに、また変わったゴーレムやな」
確かに、スラちゃんが戦闘で役に立つかと言われると無理なのだが、相棒として修行中なのは間違いの無い事実なのだ
「ほな、兄さんも一緒に迷宮探しせんか?。流石にワイも一人は寂しゅうなってきたわ」
「いいですよ。俺も流石にあんな魔獣に一人で挑みたくないです」
先程出てきた土竜みたいな奴と戦いたいとは思えない。シトールさんも魔族ならばそれなりに戦える筈だろうし、同行を求められて断る理由は無かった
馬車の近くで軽く食事をした後、森の中心部へ向かってカイとクイに分乗して歩き出す。土竜が道を作ってくれたのでそれに沿って進んでいけば奥へ進むのも、かなり楽が出来る。但しそのまま進めばその先に土竜が居るので途中からは森を進まなければならないのだが、「楽できる内は楽させて貰いましょ」というシトールさんの言葉で後に付いていく
「ほな、兄さんは獣人さん達に世話になってるん?」
「ええ、ちょっとした縁で町に世話になっています」
しかし、このシトールさん、兎も角喋るのを辞めない人だ。普通、魔境の森を歩くならば気配を探りながら周りに注意してなるべく音をたてない様にするものだが、先程から途切れる事無く話し続けてる。一人の時はどうしてたんだろう?
シトールさんが大声で話してる割に魔獣に出会う事も無く夕方を迎える。大きな樹の根元に野営に十分な広さの場所を見つけ、其処を本日の塒にする事にした
「魔境の奥とはいえそんなに魔獣は居ないんでしょうか?」
「いや、この二匹は警戒心が強いさかいな、任せとったら勝手に魔獣を避けてくれるんよ」
確かに便利だが、それじゃあ探索にならないんじゃないのか?。それに俺の修行にもなら無いんだが・・・
「いやいや、身の安全が第一や。歩いとったらその内見つかるやろ」
何とも呑気な話だ。確かに長命種の魔族にしてみれば時間を気にする事も無いのだろう。迷宮を探すと言っても期限が在る訳でも無し、命を大事にで問題ないのだろう
「それにしても兄さん、杖も持たずその腰にぶら下げとるのは剣じゃろ?変わってるな」
「ええ、実は俺、魔法が使えないんですよ。それで周りに迷惑を掛けない様に少しでも強くなりたいと思って修行中なんですよ」
「は~、やっぱりけったいやな~。まぁ詳しい事はまた明日聞かせて貰うさかい、今日はもう寝よか。なんや明日には迷宮が見つかりそうな気がするわ」
そう言うと、さっさと寝袋に入ってしまったシトールさん。話すだけ話したら満足したのか、もう寝息を立てている。周りの警戒はカイとクイがしてくれるらしいので夜番の警戒も無しで良いらしい。ブルーベルも居るのでその辺は心配ないのだが、兎も角賑やかな人だ。苦笑いを浮かべつつ俺も寝袋に入る。スラちゃんも俺の枕もとで眠るようだ・・・スライムって睡眠が必要なのだろうかとか思っている内に意識を手放していた
翌朝、日の光と小鳥の囀りに目を覚ますとシトールさんはまだ夢の中の様で、寝袋の中で寝息を立てている。
しかし、変わり者の魔族がいたもんだ。奇妙な関西弁チックな話し方もそうだが、一人で魔境を探索する事に何か意味があるんだろうか。魔王様やナティさんと比べると自分の欲望に素直というか、印象としてはだいぶ違うな。そんな事を考えながら朝食を作っているとシトールさんも起きてきた
「兄さんおはよう。随分早起きやな」
「こんな魔境のど真ん中で熟睡できるシトールさんが変わってると思いますよ」
軽口を叩き合いながら朝食をとり、今日の打ち合わせをしていく。と言ってもカイとクイに任せて進むだけなのだが・・・
昨日の様に二匹に分乗した俺達が森の中を進んでいく。相変わらず喋り続けるシトールさんだが、急に真剣な顔になると口元に人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーで知らせてくる
ハンドサインの先、丁度木々の切れ間から覗く先に二体の彫像の様な物が見える
「あれや、あれが迷宮の入り口やで」
随分あっさり見つかった気がする。まぁ、見つかる時はそんな物なのかも知れないが、何と無く作為的な物を感じる
「いいか、あの彫像が門番や。資格が無いと襲ってくるから気ぃ付けや」
「気を付けるってどうすればいいんですか?」
「・・・そやな。如何も出来ん。当たって砕けろや」
「・・・」
如何し様も無いのは事実なんだが、シトールさんこういう事に慣れてるんじゃないのか?もう少し対策とか下調べとかしてないのだろか?
呆れと諦めの半分ずつの気持ちを抱きながら、警戒しつつも門番の前に慎重に進む。すると門番たちの後ろには二つの門が在り、手前に石碑が立っている
試練に挑みし者よ。
正しき門を選び前に進むが良い。
片方はそなた等の味方。
片方はそなた等の敵。
どちらを選ぶか・・・
それもまた試練なり
「うわ!謎掛けでっか。間違ったら門番が攻撃してくるで。兄さんよう考えてや」
シトールさんが頭を抱えて俺に丸投げしてくる。普通迷宮探索とかしてたら謎掛けとか出てくるだろうに、早々と考えるのを辞めているのはどうなんだ?
俺も普段なら謎掛けなんて出されたら、頭脳班の伶やローラさんが居なければ判らないが、これは余りにも定番すぎて俺でも答えを知っている。所謂、天国と地獄の門番の話だ。片方が正直に答えて、片方が嘘しか答えないって奴だな。ゲーム理論の説明なんかに使われる有名な奴だ
「貴方の後ろの門は迷宮への入り口ですかと聞いたら、はいと答えますか?」
「是!」
右の門番が答える
「貴方の後ろの門は迷宮への入り口ですかと聞いたら、はいと答えますか?」
「否!」
左の門番が答える
「迷宮の入り口は右だ!」
ドヤ顔で答えた俺に二人の門番が声を合わせて答える。これで中に入れるのだから簡単なものだ。もっとも元の世界の知識が無ければ無理だったけど・・・
「「賢き者よ。我らを倒し前に進むが良い!」」
・・・って結局戦うのかよ!
エセ関西弁のシトールさん。少しおかしな関西弁にしたつもりなのですが、関西在住経験の無い作者なので友人の関西弁を思い出しながら書いてます
あくまでもエセ関西弁だと思ってください
読んでいただいて有難う御座います




