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ロダの魔境~上級編

 キュベレー様の神殿から帰って来た俺達は、ゆっくりする事も無く次の試練に備える事にした。今回はアティスさんに助けられたが、もし彼?が居なかったらどうなっていただろうか・・・


「個人の実力の底上げも必要じゃが、集団での戦いも想定しなければいかんかもしれん」


 ローラさんが帰りの馬車で呟いた一言だ。確かに、俺達だけでは解決できない事が増えるかもしれない。奴らは自分たちの弱点、少数という事を補う術を考えているのだ、更に少ない俺達も色々考えておかないといけないのかもしれない


 まあ、何時もの如く難しい事は俺の担当ではないので、訓練の為にブルーベルとスラちゃんを連れてロダの魔境へ来ている


「スラちゃんの進化も進めたいし、ブルーベルの学習も進めないないとね」

「きゅ!」


 久しぶりのお出かけで嬉しそうなスラちゃんと無言で頷くブルーベル


 今回は魔境の最深部へ向かうつもりでやってきている。ドライアドに道を開いて貰いゴーレム馬車も持ち出して本格的に探索するつもりだ。魔境の中心部側の森に出口を開いて貰い、馬車を探索の拠点にして辺りを捜索していく


「流石に人の気配はしないな」


 時折現れる魔獣たちを三人で協力しながら倒していく。大型の熊の様な魔獣を倒した後、思わず呟いてしまう。四本の腕に頭が二つある異形の獣。ツインヘッドベア、魔獣にしては珍しい魔法を使う奴だ。


 本来ならばパーティーを組んだ高位な冒険者で囲んで倒すのだが、下手な冒険者よりも強いブルーベルのお蔭で二人でも何とか倒す事が出来る。魔力の補充の問題があったがスラちゃんが『収納』に溜めた魔力で補充できるようになったので、ローラさんの補充が無くても長期に(わた)って活躍できるようになった


 中心部に近いこの辺りは強力な個体が出現する代わりに個々の縄張りも広い為、群れで出現する事が無いので少数でも戦う事が出来るので修行にはピッタリだった。


 ツインヘッドベアを解体しながらスラちゃんにもおやつをあげる。お肉だけではなく今はお金にも困っていないので魔石もスラちゃんにあげる事が出来る


「きゅう♪」


 ご機嫌なスラちゃんを眺めていると戦いで荒んだ心が緩んでいく。快晴の空と吹き抜ける気持ちのいい風に、戦いの後だというのに何かピクニックにでも来た様な感じがする


『ドォーン』


 突然、突き上げる土煙と轟音が聞こえる。土煙と轟音が聞こえるタイミングのズレから、まだかなりの距離がある事が判る。しかし距離は離れていても目を凝らさなくても判る土煙の大きさだ


『ドォーン』


『ドォーン』


 連続で上がる土煙、その間隔を見るとかなりの速度で移動している事が判る。


「なんかこっちに近づいてないか!?」

「き、きゅう・・・」


 スラちゃんも(おび)えるように鳴いている。何が近づいて来ているのかは判らないが、あんな土煙をあげる事が出来る魔物が近づいて来ているのなら洒落にならない。馬車のゴーレムを起動していつでも逃げられるように準備しておく。


 幸いこの辺りは少し高台になっており、目の前に広がる草原は見通しが良く姿を確認してからでも逃げられるだろう。最悪でも森の入り口まで行けばドライアドに道を開いて貰って逃げ込めばいいのだ


 そう思いながら土煙が上がっている先、こちら側の森とは色の違う濃い森を見つめていると何かが飛び出した来た。馬の様にも見えるが、それにしては少し小さい動物の様な物に乗った人物が、後ろを気にしながら此方に走ってくる。


 その人物が森を抜け少し経ったとき、突然森が()ぜた。そこから飛び出してきたのは岩で出来たモグラの様な生き物。距離が離れているので正確な事は判らないが逃げている人物の二倍位の高さが有る。馬に乗った標準的な高さが2~3mだとすれば高さで4~6m位あることになる。全長はどんだけあるんだよ・・・


「おいおい、そんなのをトレインしてこっちに来るなよ・・・」


 思わず漏れた愚痴を飲み込みつつも俺も逃げる準備を開始しようとした。


 しかし、森の出口を破壊して頭を出した状態で岩のモグラの様な生物はそのまま行動を停止する。そしてゆっくりと後ろに下がると森の奥に、スゴスゴといった感じで帰って行くではないか


 取敢えずこちらまで来ることは無さそうなので様子を見ていると、俺に気付いた逃げていた人物が手を振りながら向かって来た


「いや~参ったで。まさか土竜の住処だったとは。兄さんも驚かせてすまんかったな」


 どうやら、あのでかい生物は竜だったようだ。緑色の身体に沢山の目が有る蟲ではないようだ。若干、関西弁チックな訛りのある口調で説明してくれる謎の人物は見た事も無い二足歩行のダチョウの様な生き物からおりながら謝罪の言葉を口にする。後ろには荷物持ちだろうもう一頭がいる


「改めてワイはシトール、こっちはカイとクイや。」


 ちょっと待て、偶然か?二匹の名前が微妙に(まず)いぞ


「いやぁ、魔獣に襲われておったのが人の子に見えての、思わず飛び出してしもたわ」


 ・・・アウトだ!その理由は完全にアウトだ!!関西弁の剣の達人なんて見たくない!!!


「ははは、こんな処に人の子がいる訳ないだろう。」

「そやな、こんな処に、って兄さんがおるや無いかい!」


 色々大人の事情を誤魔化すために言った言葉に、見事な乗り突っ込みを繰り出すエセ関西人のシトールさん。幸いにも狐と栗鼠が混ざったみたいな動物は連れていなかった・・・「ほら怖くない」とか言わなくて済む


「んで、魔族がこんな所で何してるんだい?」

「ほぉ~兄さん、判るんかい。ただもんじゃないね」


 シトールさんの声に剣呑な雰囲気が混ざる。しかし、どうしてもエセ関西弁が緊張感を削いでしまう


「あぁ、最近魔族の知り合いが出来てね。雰囲気が似てるからそうかなって」

「けったいな兄さんやな~。まぁ折角命拾いしたとこやし、喧嘩してもしゃぁないな。あ、飴ちゃん食べるか?」


 ・・・この世界にも飴って有ったんだ


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