ギフト~キュベレー
軽く食事をした後、更に仮眠までとって村を後にする。ナティさんが会談の話を持って行く時に村の事も話してくれるそうなので、後始末もナティさんにお任せする事にした
「ナティさん何から何まですいません」
「智大様、私も好きでやっていますのでお気になさらぬように」
いつもの様に恭しく礼を返してくれるナティさん
「にゃはは、少年に掛かれば七大魔族も便利な、おじさんじゃの」
「お、おじさんですか」
魔族でも『おじさん』呼ばわりは抵抗が有るらしく珍しく狼狽える姿が少し可愛い
「さあ、お母さまの所へ帰りましょう。ハルカちゃん、帰り道でも教える事は沢山あるからね~ン」
「はい、お姉さま」
何か妙に仲良くなっている二人を見て、エルフの先行きに不安を感じつつもドライアドに頼んで道を開いて貰う
「いら・・・ヒィッまた出た!」
「あら~ン。何か失礼な事言われた気がするわね~」
「な、何でもないです。どうぞお通り下さい」
ドライアドが思わず漏らした本音に蟀谷に青筋を浮かべながら指を鳴らすアッティスさん。その迫力にドライアドだけでなく森にいた小鳥たちも驚いて一斉に飛び立ってしまった
どうにか言い訳が間に合ったので問題なくドライアドが創った森の道を馬車は進んでいく。機嫌を直したアッティスさんが紅茶を飲みながらハルカさんと話している。勿論カップを持つ手の小指はピンと立っている。
時たま聞こえる『おとめの心得』が『乙女』なのか『漢女』なのかは判断のしようが無いが、フンフン鼻息荒くハルカさんがメモを取っていく。素知らぬ顔で本を読むふりをしながら何故か伶も聞き耳を立てているのは気のせいだろう・・・
森を抜けて虹色の旗で飾られたペッシヌースに戻ってきた俺達は、アッティスさんのお蔭で直ぐに神殿に入る事が出来た。そのまま祭壇のある部屋に入るといつもの様に白い光が包み込み、目の前にはキュベレー様が立っていた
「よくぞもどりました。無事使命を果たしてくれて誇らしく思います」
「いえ、今回は私達は何も・・・アッティスさんが殆ど片づけてしまいましたので」
申し訳なさそうに答える伶に、事態の想像がついたのか微妙な表情に変わるキュベレー様。正直俺達がした事といえば、呆気にとられていた邪教徒達を拘束しただけだ。しかも尋問もナティさんに任せてしまったので、実質何もしていない状態だった
「私が試練を定め、貴方達が解決してきた。それで良いのですよ」
「そうよ~ン。私はお母さまの命令で付いて行っただけですもの」
うん、本当に優しい神さまだ。今まで出会った神さまの中で一番神さまらしい方だ。逸話がちょっとファンキーだけど。そして息子がかなりファンキーだけど・・・
「それではご相談が有るのですが、村の後始末はどのように致せば良いでしょう」
「そうですね、あのままならば誰も近付く事無く廃れてしまいますね。判りました、それについては他に神々とも相談して何とか致しましょう」
伶の言葉に全てを察してくれたキュベレー様は村のその後に付いて請け負ってくれた。突然の理不尽に巻き込まれた住民たちが少しでも安らかにいられる様、彼らが住んでいた場所位は守ってあげたかった
「さてギフトですが、貴方達は何を望みますか?」
実は今回はそれが困っている。いつもなら試練の過程で足りなかった力や欲しい力が出てくるのだが、今回は本当に何もしていないのでそれが無いのだ。貰える物は貰っとけって考えも有るのだが、流石に今回は後ろめたさの方が強くなってしまう
「キュベレー様。今回の試練で私達は何も成長していませんし、前回ユースティティア様から頂いたギフトも使いこなしてはいないのです」
「正直なのですね。今回は呪法の問題もあり万全を期したのですが、貴方達の成長という意味では失敗したかもしれませんね」
多少苦笑いに近くなっているのかもしれないが、それでも柔らかな微笑のままで語るキュベレー様。視線を少しずらすと、アッティスさんも笑ってくれている
「では、次に出会う神に私の分のギフトも託しておきましょう。万が一、次の試練を果たす前に必要な物があればもう一度ここを訪れなさい。貴方達が望めばいつでも私は応えましょう」
キュベレー様のご厚意に思わず頭を下げてしまう。他の神さまの時の様に伶がギフトをもぎ取るのでは無く、素直にギフトを受けたくなる。そんな優しい雰囲気に満ちているのだ
「何もないのも寂しいから、私からこれをあげるわ~ン」
アッティスさんがクネクネしながら近づいて来て、渡してくれたのは虹色に輝く宝石だ・・・とことん虹色かい!
「それに語り掛ければいつでも私に繋がるわ、遠慮しないで呼び出してね。あ、でもダーリンとラブラブな時間の間は無理だからね」
ウインク+投げキッスをしながら説明してくれるアッティスさん。最後の方は冗談なのか本気なのか・・・
「お姉さま!教えて頂いた事を胸に必ずいい女になって見せます」
涙を零しながら何かを誓っているハルカさん。その薄い胸に収まる事なのかは疑問だが随分と懐いたようではある。アッティスさんも妹分が可愛いのか頭を撫でながら別れを惜しんでいる
「それでは、愛しき御子らよ。此方の都合で巻き込んでしまった事だ、何かあればいつでも門を叩くが良い。そなた等の前にいつでも門は開かれるであろう」
キュベレー様がそう言うと、眩い光に包まれ、その光が消えるとライオンを従えたキュベレー様の石像の前に戻ってきていた
部屋を出て受付の神官さんに挨拶をした後、神殿を出る。
「さて、少しでも強くならなくちゃな」
「にゃはは、少年。張り切っておるの」
「私も頑張って修行するです。そして、いつか騎士様のお嫁さんに・・・キャッ恥ずかしい」
今回は不完全燃焼に終わったので少し鍛え直さなきゃならないと思った。微妙にずれてるハルカさんは放っておいて魔境の奥にでも行ってこようかな
「智大、わ、私の事も忘れないでね・・・」
真っ赤になりつつ俺の袖を掴み呟く伶
「ムムム。『おとめの心得その三』を使うとは伶さんも侮れません」
表情を変えて何か悔しそうなハルカさんと、二人を見てニヤニヤしているローラさん
どうやら、アッティスさんの影響はまだ続くようだ・・・
これでキュベレー編は終わりです
書いてみると思った以上にアッティスさんが気に入ってしまたのでまた登場するかもしれません
登場すると話が進まなくなる欠点があるんですが・・・
いつも読んでいただいて有難う御座います




