邪教徒の目的
「いらっしゃ・・・」
「・・・」
うん、気持ちは判るよドライアド。精霊として長きを生きた御茶目な彼女にだって、それを初めて見た時の衝撃は言葉に詰まってしまうのに十分だった
「あら~ん。また私の魅力にノックアウトされちゃたみたいね。フフフ」
いや、ノックアウトじゃなくて捕食者に睨まれた小動物です
「と、取り乱しました。では、いってらっしゃいまふぇ」
「噛んでるぞ」
御茶目なドライアドと俺の突っ込みにいつもの切れが無い。そう、それの前ではすべての物が畏怖の感情に飲み込まれるしかないのだ
「はわわ、お姉さま、素晴らしい破壊力です」
「フフ~ン。これが大人の魅力よ。ハルカちゃんももう少ししたら身に着ける事が出来るわよ」
何故かハルカさんだけは何ともない様だ
どうか無垢な彼女のままでいて欲しい・・・
馬車に乗るのはいつもの四人に加えてキュベレー様の息子?アッティスさんが乗りこんでいる。今回の計画の要でもある彼?は優雅に紅茶を飲みながらすっかり寛いでいる。ピンと立てた小指が様式美とでも言える一つの芸術作品の様にその姿形に似合っている。しかし、確かに似合ってはいるのだが、感動を呼ぶかは、また別の問題であろう
「お母さまの調査では村に生きてる物の気配はないわ~。でも・・・」
「誰もそれに気付いてない?」
「フフ~ン。察しがいいわね。流石に帝都の傍の村が全滅しているのに誰も騒がないなんて不自然よね~」
村に住んでいた住人が既にいない事はキュベレー様の態度からも判っていた事だ。しかし、いきなり村が無人になれば騒ぎになっている筈だが、それが起こっていないという事はどういう事なのだろう。
「邪教徒達が成り代わってるとか?」
「ふむ、それでも馴染みの行商や冒険者たちもいるであろう。田舎の村ではないのだ、人の出入りは多い筈じゃ」
「ん~じゃぁ出入りする人、全員が入れ替わったとか?」
「少年、真面目に考えろ。行商人や冒険者が村から戻らなければ十分騒ぎになるし、逆に戻ったら家族には判ってしまうだろう。そうしたらその家族、家族の知り合い、その又知り合いと成り代わるにしても際限が無くなるじゃろ」
いや、真面目に考えてます。真面目に考えてコレナンデスヨ
・・・情けなくて片言になってしまう
「いいのよ~ん。若いうちは失敗して賢くなるものよ」
「智大、人には向き不向きってものが在るのよ」
うぅ、伶よりもアッティスさんの方が優しいのが悲しい。これがニュータイプ・・・じゃない!ニュージェンダーの力か・・・
「おそらく住人はアンデッドに入れ替わってる筈じゃ。その上で村自体に何かの細工がされておるのじゃろうな」
「まずは、村の調査と術者本人が何処に居るかを調べるのが先ですね」
キュベレー様が言う様に村に生きている者の気配が無いのであれば術者本人は村にいないという事になるだろう。その所在を確かめなければ問題の解決にはならない
「う~ん、私って調査向きじゃないのよ。溢れ出るオーラで直ぐ見つかっちゃう、美しいって罪ね」
うん、美しいかどうかは別にして目立つのは確かだろうな。
「私達も調べられてると思った方がいいでしょうね」
「ふむ、身元が割れて無くて調査に向いているのならば・・・ナティ聞いておるか?」
ローラさんがこの場にいないナティさんを呼ぶ。
「お呼びでしょうか、ローラ様」
「聞いていたな。どうじゃ頼めるかの?」
「お任せください、我が使い魔ならば造作もない事でしょう。おそらく術者は帝都に潜伏していると考えております」
いきなり現れたナティさん。ローラさんの問い掛けにも問題なく答えてるって事は俺達にも使い魔が着いてるって事かな?異世界にはプライバシーって無いの!?
俺の疑問はあっさり無視され、調査はナティさんに任せる事になった。それまでは邪教徒や術者に見つからない様に潜伏している事になるので森を出たあたりで野営する事になった
「フフ~ン。久しぶりの料理ね。戦いの前にたっぷりと精力を付けておかないとね♪」
そう言って料理当番をかって出たアッティスさん。因みに具材は両肩に担いだ猪と鹿だ。武器も持たずに森の中に入るとあっという間に獲ってきてしまった
伶と相談しつつ獲って来たばかりの獲物を素手で捌いていくアッティスさんは、胸の部分がハート形になっているフリルの付いたピンクのエプロンをしていた。
見た目以外の服装や動作、女子力という点では伶を圧倒的に上回っているナティさん。ただし、猪や鹿を素手で捕まえたり、捌く女子を俺は知らない
「さて、出来たわよ。温かいうちに召し上がれ」
完成した料理は大きめの肉と何かの根菜が入ったシチュー、焼いた鹿肉を薄くスライスして野菜と一緒にパンに挟んだサンドイッチ。そして温野菜のサラダとバランスのとれた理想の食事だった。シチューの根菜はハートに飾り切りされておりかなり手が込んでいるのだが、あくまでもナイフや包丁などは使わない所がアッティスさん流なのだろう。とてもじゃないが真似は出来そうもない。
「美は毎日の生活から。野菜は多めにとるのよ、お肉の倍位を目安にね」
アッティスさんの言葉をハルカさんが必死にメモを取っている。・・・ハルカさんよ、君は何処へ行きたいんだ?
食後のお茶を飲んでいると、ナティさんが現れる。・・・この人本当に神出鬼没だな
「調査の方は滞りなく終了いたしました」
「ふむ、どうじゃった?」
「予想通りです。村には認識疎外用の結界が張られていますが、それだけで無くアンデッドである筈の村人たちの動作が非常に滑らかです。よほど親しい間柄でなければ気付かないでしょう」
「受け答えも出来るんですか?」
「はい、結界の影響下になければ不自然な点もありますが、影響を受けてしまえば判らないでしょうね」
どうやら、簡単な受け答えというよりは決められた質問には、こう答えるみたいな動作が仕込まれているようだ。元の世界での初期のAIに近いのかもしれない
「ふむ、聞いたことが無いの。それも新しい呪術か・・・」
「その辺りは不明です。それと村の周囲に怪しい人間が潜伏しております。何か不都合な事が在った時には彼らが動くのでしょう」
「なるほど。邪教徒達の目的や、その内容が見えてきましたね」
伶が自分の考えを説明していく。
神々の力の源は信仰による力だろう。しかし流石に邪神に対する信仰は一部の狂信者を除けば極少数になる。ではどうすればいいのか?信仰に変わる力・・・そう畏怖や恐怖を集める事
人は回避できない恐怖に晒された時、まずは神に祈るだろう。どうか助けて下さいと
しかし、それが叶わなかった時、目の前の恐怖の与える対象にだって祈るだろう。どうか辞めて下さい、助けて下さいと・・・
その為に、邪神への恐怖を煽る為に破壊活動を行う。数の少ない邪教徒達が、より多くの人数に恐怖を与える為に都市を攻撃する手段を模索しているのだろう
先兵としての邪人や魔物達、だが彼らでは城壁を抜くのは困難だろう。だが、元々そこに住んでいる住人がアンデッドとして操られ、しかも見破られることが無いとしたら・・・
「精神に干渉する魔法は難しい。相手に魔法を掛けるのは出来ても長い間その状態を維持するのは困難じゃろう」
「そこでアンデッドですか・・・」
一度死んだ魂を束縛してしまう、これならば操る事は容易だろう。街全体に認識疎外の結界を張ってしまえばほぼ準備完了って事だろうな
「あら~ん、随分舐められちゃったわね。お母さまと私達が気付かないとでも思ったのかしら」
怒気と言っても差支えの無いオーラを吹き出しながらボキボキと指を鳴らすアッティスさん
その姿を見た俺は、もう解決したも同然だなと安心した
少し漏らしそうになったけど・・・
シリアス先生!早く登場してください!!
アッティスさんでペースが乱されてしまいます!
読んでいただいて有難う御座います




