キュベレーとの出会い
一抹の不安を抱えつつもキュベレーの神殿に向かう旅が始まった。『様』は付けない方が精神的に安全な気がするので今回は呼び捨てだ。
いつもの様に森でドライアドに道を開いて貰う。
「いらっしゃいませー、四名様ですか?只今満席の為こちらにお名前を書いてお待ちください」
「あっはい。えーと黒川っと・・・って違うわ!」
段々、恒例になってきたドライアドのボケに乗り突っ込みをかます。テヘペロって感じのドライアドが可愛く見えてくるから不思議だ
木々のトンネルを抜けるとそこは雪国・・・ではなく帝国領の西側自治区へと続く街道の傍だった。国境を通らずショートカットした訳だが、別に入国審査がある訳じゃない、身分証があれば特に不自由もないので問題は無い
王国よりも若干悪路な街道をゴトゴトいいながら馬車は進んでいく。地図を開き見てみると暗くなる前には宿場町に着けそうなので、急ぐ訳でもなく休憩を挟みつつ馬車に揺られる
「ふ~ん風景だけ見ると王国とそんなに変わらないかな?」
「ええ、でもこちらの方が乾燥してますから、お肌の手入れには注意してくださいね」
ハルカさんが少しずれた注意を提供してくれるのを聞き流しながら、よく見てみると街道沿いに生える草や木々の背丈は少し低い。こんな感じだと砂漠とかも在るのかな?この世界に来てからは肥沃な土地しか見ていないので想像がつかない
そんな事を考えていても自動運転で馬車は進み何事も無く町に着いてしまった。盗賊や魔物も出ない旅路に少し拍子抜けしつつ門番に身分証を見せて町に入る。お勧めの宿を聞いてみたが、それ程大きな街では無いので、そもそも宿は一軒しか無い様なのでそのまま馬車を進めて宿に向かう
「すいません、一泊したいのですが」
「はい、四名様ですね。馬車は裏手に泊めて下さいね」
受付の女の子の対応から、一軒しかない宿だからといってサービスが悪いとかでは無さそうだ。
「お部屋はどうしましょう?」
「一人部屋を四つでお願いします」
「判りました。少々割高になりますが宜しいでしょうか?」
「少年、二人部屋を二つでもいいのだぞ」
「な、何を言ってるんですか。伶と二人って訳にはいかないですよ!」
「おや、儂は宿代の節約の為と思って言ったのだが、伶と二人の方が良かったか?」
またローラさんにやられた・・・
伶、そこで顔を赤くして俯くんじゃない!こっちまで恥ずかしくなるだろ!!
ハルカさんも!何を羨ましそうな目で見てるんですか!!
そんな事もありつつ、概ね順調に旅は進んでいった。あっスラちゃんもちゃんといますよ。主に御者席にいる俺の話し相手になってくれています
今回の旅の目的地キュベレーの神殿はかつてペッシヌースと呼ばれた国の首都が在った場所に立つ。他の神さま達がその神殿が建つのに由来があるのに対して、キュベレーの神殿は遥か昔からその場所に在ったという。
キュベレーを信仰する信徒さん達が私財を擲って建てたのだそうだ。そう、信徒さん達が建てたのだ。
今は、八柱教団の管理となり昔の様な儀式は禁止されているらしく、お祭りの時にのみ代用の牛の睾丸を供物に捧げるそうだ。う~んなんか神殿自体にも行きたくなくなる話だ
帝国に吸収された亡国の首都、かつての国名と同じペッシヌースは街を囲む城壁と街の中を流れる川が特徴の城塞都市であった。街のあちこちにライオンを従えたキュベレーの像が建てられ特に有名なのが中央にある噴水に設置された銅像の様でその噴水の周りには虹色の旗がはためいている
その銅像が見える中央広場に面した宿に部屋を取り神殿には明日伺う事になっている
何故そんな事になったかというと、この町に住む住人の殆どがキュベレーを信仰する信徒であり、かつての帝国との争いの時も降伏の条件として、キュベレー神殿に手を出さない事とキュベレー信仰を認めさせるまで徹底抗戦するくらい大切にされているのであった。
今でも大切にされている神殿にいくら使徒とはいえ、アポ無しでの訪問は許して貰えなかったのである
宿の前のオープンテラスでお茶を飲みながら、噴水の銅像と虹色の旗を見つつ伶に話しかける
「なあ、伶」
「なに?智大」
「あの旗って・・・」
「そ、そうね、綺麗な虹色ね。この世界の染物も結構進化してるのね。きっとそうだわ」
何かに気付きつつも必死に誤魔化そうとする伶。
「ああ、あの旗ですか。あれはこの街の特産です。なんでも神殿に白い布を捧げると、あのような虹色の旗になるそうですよ」
伶の必死の誤魔化しに宿の従業員が親切に教えてくれる。・・・余計な事を
「あの色って・・・」
「駄目よ智大。そこから先は言っては駄目。きっと偶然よ」
戦慄にも似た物を感じながら固まる俺達にローラさんが禁断の質問を投げかける
「二人とも様子がおかしいぞ。気になる事があるのならば話してみよ」
「「・・・」」
躊躇しつつもフラグにならない様に、かつ判り易く説明する。元の世界の性別の話やその恋愛模様、だがそれ自体は問題ではない。元の世界だって地域や法律など追い付いていない部分はあるが概ね受入れれていた。本当の問題はチラチラ垣間見える漢女の存在だ・・・
「そ、それは何とも言えんな・・・」
「はわわ、耽美な世界です」
その様な知識は無いであろうローラさんは絶句し、ハルカさんはある意味正解を掘り当てる
翌日、神殿の入り口の前に立つ俺達。誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。物語で魔王の住む城に突入する時の勇者達の気持ちときっと同じだろう。
「ようこそ使徒様。どうです?我が神殿の造形は。見る者を圧倒する素晴らしさでしょう」
誇らしげに出迎えてくれた神官は俺達の様子を見て勘違いしつつ自慢する。確かにその入り口は荘厳且つ芸術的な見る者を圧倒するに十分な迫力が在った・・・だが俺達を畏怖させているのは別の物だとは思いもしないだろう
「行くぞ」
覚悟を決めた俺達はキュベレーの祀られている祭壇のある部屋に入っていく。
いつもの白い光が収まるとそこに立っていたキュベレーが出迎えてくれる
「ようこそ。我が愛しき使徒たちよ」
そう言ってにこやかに笑うキュベレーは麗しく慈愛に満ちた表情にあふれた女神さまだった
そう、間違いなく女神さまだ。
仮に見た目だけであっても女神さまだ。
少なくても漢女神さまでは無かった
「き、キュベレー様。ありがとうございます」
意味も無く礼を言われたキュベレー様はキョトンとしていたが、それが俺達の総意であった
一応作者はノーマルですが、LGBTの方々には偏見も差別感情も持っておりません
友人(M to F)にも読んで貰って不快感の無い事を確認してますが、もし感じた方はご容赦下さい
流石に現実に漢女を見たら吃驚しますが・・・
読んでいただいて有難う御座います




