自称平和主義の魔王様
伶の作ったサファイアゴーレムとの訓練はなかなか楽しい。基礎の払い、受け、突きは修めていたのでそれの応用編からスタートしてみたのだが、覚えるスピードが速い。まさにスポンジが水を吸う様に吸収していく
俺も身体強化はしていないのでまだ余裕が有るのだが、なにせ相手は疲れ知らずのゴーレム。追い付かれるのも時間の問題かな?
「どう?私の傑作ゴーレムは」
「う~ん十分チートだぞ、これはやり過ぎじゃないか?」
満足そうな伶が持ってきてくれたコップを受け取り中身を飲み干す。汗を掻いた時に飲む青いラベルのあれと同じ味がする。どっちを想像するかは任せるがともかくあれと同じ味だ。
「そう?身を守る為なんだから狡いとか言ってられないでしょ」
「まぁそりゃそうだ。もう少し実戦を積んだら十分戦えるから、ポンタさんにも頼んで色々経験積ませたいな」
サファイアゴーレムはこんな会話すら学習しようとすぐ後ろで俺達を見つめている。若干怖いがまぁそのうち何かしらの結果が出るだろうから、それから考えてもいいのかもしれない
「そうそう、ローラさんが魔王さんの所へ行ってくるって言ってたわよ」
「そんな簡単に・・・」
ちょっとお買い物みたいなノリでいいのか?魔界とか魔王城とかそういうトコには住んでいないのだろうか?
「一応ハルカさんも付いて行ったから大丈夫じゃない?」
確かに天雷弓を持つハルカさんなら大丈夫か!?でもあの組み合わせは危険な様な、まさに混ぜるな危険って感じなのだが・・・
ん~伶が気にしなさすぎてるのか俺が気にしすぎてるのかよく判らない。取敢えず保留かな?
「伶。そろそろこいつに名前付けないのか?」
「ルシフェルとかベルゼブブ?」
「悪魔じゃねぇか!」
「ミカエルとかサリエル?」
「はぁ、もういい。好きにしてくれ」
どうにも調子が狂うのだが、伶がちょっとおかしい理由は判る。ローラさん達がいないって事は今日はこの家に二人っきりだ。今までなら気にならなかったのが、この間の一件でどうにも意識してしまう。こんなことを考えるのすらローラさんの掌の上の様で余計に気に食わないし・・・うん訓練、訓練。疲れるまで動けば忘れるだろう、煩悩退散だ
昼食を挿んで午後からも訓練。一向に去る様子が無い煩悩に手を焼きつつ身体操作で身体を強化しながらサファイアゴーレムと打ち合う。身体操作を使うとちょっと実力差が有り過ぎるのだが手を抜いていては煩悩がジリジリと迫ってきそうなので本気で打ち込んでいるのだが、サファイアゴーレムは案外上手に受け流しいている
夕暮れが近づき、一日が終わろうかという時間。夕日の赤と青空の境目が紫に染まるまさしく逢魔が時にそれはやってきた
ユースティティアの試練で得た『危険察知』が最大級の警報を鳴らす。おそらく上空から迫る脅威に対するその信号はスキルの熟練度など関係なしに迫りくる最大級の危険を頭の中に響かせる
「伶、逃げろ!」
そう叫びせめてもの時間だけでも稼ごうと決めた俺の決意は目に見え始めた脅威に挫けそうになる
「ふはははは、知らぬのか?魔王からは逃げられぬ」
真っ黒な如何にも邪悪そうな竜から飛び降りた人影は、地面に立ち上った砂煙の中からそう告げる。『危険察知』の警報が鳴り響く中、俺の思考は先制攻撃を選択する。まだ砂煙が収まらない間にしか、いやそれでも無理かもしれないがこのチャンスを逃せばもう機会は無いと感じさせる程の存在感がそこには在った。
「こりゃ、そういうおふざけは無しと言ったであろうが」
聞き覚えのある声と共に降り立った人影が拳骨を落とす様子が収まりかけた砂煙の向こうに見える
「ナティも降りて来い。皆が驚いてしまうぞ」
後から降りてきた人影、ローラさんがやっと収まった砂煙の向こうから現れる。ナティと声を掛けられた黒い竜は空中で一瞬光ると人に姿を変え、背に乗せたままだったハルカさんを器用にお姫様だっこして静かに降り立つ
「えっと、ローラさん!?」
「お~すまなんだな少年。こやつが魔王じゃ」
「ふむ、儂が魔王アエーシュマじゃ」
腰に手を当て胸を反らしつつドヤ顔を決める魔王様は・・・幼女だった。
・・・最近、幼女様多くね?
「この方が昨日言っていた平和主義の魔王様ですか?」
「如何にも!儂が平和主義の魔王様じゃ!!」
「ってどこがだよ!さっき十分威嚇していただろうが!!」
「何を言っておる。こちらに力がある事を示すのは戦闘を回避するのに必要じゃろ」
まさか幼女に抑止力の説明を受けるとは思わなかった・・・
「すいません。姫様の悪戯が過ぎた事をお詫びします」
ハルカさんを下したナティさんが優雅な仕草で謝意を表す。黒い執事服をきたその姿は乙女ゲーに出てくるイケメンさんの様な感じで、さっきまで抱きかかえられていたハルカさんは目をハートにしてポワーンとしている。
「ローラから話は聞いたのじゃ。流石に邪神が復活されては平和主義とか言ってられんから協力は惜しまんぞ」
「魔族の数は少ないがその分、魔力も強く肉体も強靭じゃ。陰に隠れて暗躍するのも得意だからの邪教徒たちの捜索には丁度いいじゃろ」
ある意味定番と言える『のじゃロリ』の魔王様とローラさんが話すと口調が一緒で判りづらい。これに長が混じったらややこしい事になりそうなので、さっさと家の中に案内する
「魔王様に聞きたいんだけど、それだけ力が有ったら世界征服とか支配とかは考えないの?」
「エシュムでよいぞ。ふむ支配か、よいか使徒よ。支配するという事はその後に統治しなければ意味がない。そして統治する以上、自らの民を蔑にするのは愚者の行いじゃ。自らの民を幸せにしてこその賢王じゃ。故に徒に力を振るう事はないの」
のじゃロリに支配者の矜持を教わってしまった。言ってる事は正しいと思うが違和感MAXだ
「じゃからの、今回の件も調査までじゃ。実際に邪神が復活すれば話は別じゃが、魔族の力はこの世界には大きすぎる。」
エシュムの言葉に伶やローラさんが頷く
「そして、対価は貰うぞ。古より悪魔は対価を貰う物じゃ」
ニヤーと笑う魔王様の迫力に気押されしてしまう。
「魂とかですか?」
「そんなもの貰ってどうする。酒じゃ、異世界の酒とやらを作ってもらおうかの」
アエーシュマ、確か古代ペルシアの悪神で暴力と酩酊を司る。悪意に染まった神々は彼の元に集い人間の敵になったと言われていた
それと同じ名前の魔王様が司る物は・・・ひょっとして只の呑兵衛?平和主義の呑兵衛さんなのか!?
やっぱり定番は守らないとって事でのじゃロリの登場です
多分レギュラーメンバーにはならないと思いますがサブメンバー程度には出てくるかもしれません
いつも読んでいただいて有難う御座います




