それぞれの進化
「はぁ伶も無茶振りするよな」
「あはは、確かに。いきなり「大きめの魔石が欲しいから獲ってきて」ですからね」
「そう、しかもミドルジャイアント級の魔石か、それ以上って」
今日は伶の依頼でロダの魔境に来ている。王都から帰ってきてから伶は作業場に籠って色々創っているのだが今回は魔石が欲しい様だ。スキル『鑑定』を得た事で作業の幅が広がったらしいのだが何に使うかまでは教えてくれなかった
でも天雷弓の威力も試したかったし俺も並みの魔獣じゃ物足りなくなっているので丁度良かったのもあって、今日は森の奥にまで足を伸ばしている。森の奥には強力な個体も多いのだがテリトリーも広めなので早々には遭遇しない。気配察知を最大にしているので少し陽気に話しながら足を進めていると
「ハルカさん、前方に気配」
さっきまでの会話を中断して口に人差し指を当てながら警告すると、ハルカさんも黙って頷く。幸いこちらが風下なので気配を絶ってゆっくり近づくと四メートル超の熊の魔獣だった。ポンタさんが獣化した時と同じくらいの大きさだろう
ハルカさんが天雷弓を構えて魔力を込めながらその弦をひき、俺はいつでも飛び出せるように身構えた。
放たれた蒼く光る軌跡を描いて飛んでいく矢。
音もなく飛んでいく光の矢が熊の魔獣の頭に突き刺さると、その頭は爆発したように矢の進行方向に向かって吹き飛んだ。
「ハルカさん、魔力込め過ぎ・・・」
「はわわ、褒め過ぎです~」
「いや、褒めてないからね」
ハルカさんに軽く突っ込みを入れる。
「これ、魔力の込め方で色んな使い方が出来るみたいなので試しながら使ってみます」
「そうして。偶には俺の出番も下さい」
苦笑いしつつ熊の魔石を採取する。求められている魔石には程遠い大きさの物だったので魔法の鞄に入れておく。後でスラちゃんのおやつにしよう
その後も魔獣を求めて森を進んでいくが得られた魔石はやはり小ぶりの物が多い。これは中々難しいと思っていたら、如何にもな洞窟が見つかった。
「何か居そうだよね」
「はい、奥から魔素が溢れ出しています。大きな魔力溜まりが有ると思います」
「流石に二人じゃ危ないか・・・」
「大丈夫ですよ。危なかったら引き返しましょう」
う~ん言いているのがハルカさんなだけに不安だ。これがローラさんなら安心なんだけど・・・
結果的には望み通りの魔石を手に入れることが出来た。でも殺されるかと思った、魔獣にではなく主にハルカさんにだけど・・・
「な、少年。その姿はどうした?何が有ったのじゃ?」
「天雷弓半端ないっす!マジヤバいっす!!」
黒焦げになりつつ、魔石を持って帰ってきた俺の姿を見たローラさんが吃驚して聞いてきたのだがそう答えるのが精一杯だった。
取敢えずトラウマに成りつつも手に入れた魔石を伶に渡すとまた作業場に籠り何やら作り始める。頼むからもう一度とか言わないことを切に願う。少なくても次はローラさんと行く事にしたい・・・ハルカさんマジ勘弁
三日ほど経って作業場から出てきた伶の手には俺用の新しい刀、そして後ろからはゴーレム達が出てきた。目の下には隈が出来ており、いつもはきちんと括ってある髪の毛も所々解れている。マッドサイエンス度が若干上がりつつも満足な雰囲気を漂わしている。・・・伶、キャラが違わないか!?
「先ずは智大の刀、少し重くなってるけど使いこなしてね。」
「お、おう」
「それから、ゴーレム達も改造したわ。あと新型のゴーレムも出来たから後でお披露目するわ」
そう言い残すとフラフラしつつ部屋に移動する。ゆっくりと睡眠を取ってください。というか早く元に戻ってください
翌日復活した伶が色々説明をしてくれる事になった。
「先ずは智大の刀ね。素材から見直して丈夫さと切れ味は今までとは別物ね。後、刀身の中にちょっと工夫しておいたから気操法で威力が増すはずよ」
「おう、ありがとう。少し刀身と身幅が太くなったか?」
「そうね、重さも増したけど使いこなせるでしょ」
うん、いつもの伶だ。ここでごめんなさいとか言わないで、さも当たり前の様に言うところがカッコいい
「そしてゴーレム達ね。先ずは今までのルビーゴーレム達に武器を持たせてみたわ」
左手に大楯を持ち右手には長柄の武器を構える姿は中世の重装歩兵の様に見える。これをあの素早さで使えるならば十分壁役になるだろう。
「ふむ、しかし操作は複雑になるじゃろう。操れるのか?」
「元々、この子たちは独立して思考してましたからそんなに大変ではありません。ただ今回は少し工夫してみました」
俺とハルカさんが取ってきた魔石がここに使われていた。ある程度の戦闘パターンを魔石に記憶させそれを埋め込む事で自立思考を得ているらしい
「そして最終形態がこの子です」
伶が誇らしげに宣言すると前に進んでくる一体のゴーレム。俺たちの前で恭しく一礼するとそのまま伶の斜め後ろに待機する。蒼いサファイヤの輝くその体に黒い金属鎧を纏い手にはハルバードを握っている
「この子は智大に頼んだ魔石を三個埋め込んだ完全独立思考型のゴーレムよ」
うん、伶やり過ぎだ。ローラさんとハルカさんが付いていけてない。
鼻息を「フンスー」と吐出しそうな勢いで説明する伶によると、戦闘用の思考システム、通常用の思考システム、更に学習型の思考システムを組み合わせ相互に干渉、書き換えを行う事によって独自のアルゴリズムを構築するうんたらかんたら・・・
・・・言ってる事は良く判らないがともかく凄い自信だ
「流石に私の魔力じゃ足りないから三日に一回はローラさんに補充してもらわないと駄目だけどね」
「聞いた事が無いゴーレムじゃの」
「智大、この子に学習させたいから暫くはこの子と訓練してね」
しかも、学習した情報はスキル『複製』を使って他のゴーレムに移植可能だそうだ・・・こんなので軍隊でも作ったら世界征服でも出来るんじゃないのか?
「はわわ、伶さん。魔王さんみたいです」
ハルカさんのセリフもあながち間違いでもない
「ん!?、魔王か。そうか、あやつがおったの」
「えっ魔王っているんですか?」
「おるぞ。当たり前じゃろ」
当たり前なんだ・・・だって魔王ですよ魔王!、簡単に言うけどまた厄介ごとが増えそうだ
「なに、気のいい奴じゃからの頼めば協力してくれるじゃろ。」
「そんな簡単に・・・まさか協力するのに力を示せとか言わないですよね」
「ん?魔王は平和主義だぞ!?」
平和主義の魔王ってどんな奴だよ・・・
読んでいただいて有難う御座います




