いざ異世界へ
一瞬の浮遊感の後、地に足が付く感覚で目を開けると石造りの部屋の真ん中にいた
部屋には左右に四体ずつ、計八体の石像があり後ろには一回り大きな石像がある
先ほどまで光に満たされた空間にいたので、少し暗い感じがするが女神さまが言っていた神殿なのだろう
「お持ちしておりました使徒様、ようこそ我が神殿へ」
部屋の中でキョロキョロしていた俺達に、扉を開けて入ってきた中年の女性が声を掛けてくる
白い神官服を着ている事やセリフからこの神殿の偉い人みたいだ
後ろからは同じような服装の男性が二人付いてきている
「先日、大陸中の神殿に神託があり使徒様が遣わせられる事が伝えられたのですが、まさか我が神殿にお越しいただけるとは…」
「これは大変名誉なことで不詳ラクトリン、身命を賭して使徒様の補助をさせて頂きます」
「そもそも、先日神託を受けた時から予感があったのです!私の命はこの為であったのだと」
「この神殿は、約800年ほど前に当時の……」
かなり興奮した様子で神官のラクトリンさんのマシンガントークが炸裂する
どうやら、この世界では○○教というような感じではなくすべての神様を一か所の神殿で祭る多神教の様な物が主流みたいだ
神官が神域と繋がる場所を見つけると神殿を造り見つけた神官が司祭となり代々管理していくみたいだ
一部、個々の神様に由来のある場所には個別の神殿があるらしいが、寧ろそういう場所は観光地のような扱いをされていて中央の神官たちの管理になるらしい
俺達に口を挟む隙を与えずにラクトリンさんの話は続く
「中央の神官たちはお金を稼ぐ事ばかりで…」
「最近では……であるのです」
「この間も…」
…
………
「叔母様、そのあたりで…」
良かった後ろに控える神官が止めてくれた
この世界で初めて会った人物の話を止めていいものか困惑していた俺達には渡りに船だ
立ち話しでは失礼だという事で別室にて改めてお話をといことになり、神官達に控室に案内された
「では後程お呼び致しますので、旅装をといてお寛ぎ下さい」
旅装?、そういえば俺達は学校の制服のままであった。旅装というか、まぁこっちじゃ見慣れない服装なんだろう
取敢えず学校指定の鞄を置き椅子に座る
石造りなのは神殿内部だけで住居部分は木造だったが、神殿が出来たのは800年前とか言っていたがそこまで古くはなさそうだ。
四人掛けの机と椅子しかないその部屋は、掃除は行き届いていたが良く言えば質素、悪く言えば何もない部屋だった。
「旅装を解くって言っても着替えなんか無いし…」
「女神さまに貰った鞄の中に装備も入れとくって言ってたじゃない」
「おっ、そういえば言ってたな」
「あれ!?、ヨッっと!?、開かないぞこの鞄」
「やっぱりか…ちょっと貸して」
何かに気付いている伶に鞄を渡すとアッサリ開いた
不満げな俺を余所に、装備品を取りでしていく伶
白っぽいローブに短い杖、指輪に何かのアンクレット、靴とインナーの類が数点出てきた
「これが私の分っと…智大のは」
そういう伶の顔が…
「うん、智大は着替えなくていいかな!?」
「いや着替えるよ!」
「やめた方がいいよ。私、智大の制服姿好きだしさ」
「今更、恥ずい事いって誤魔化すなよ」
普段は言わないセリフを言いながら誤魔化そうとする伶が渋々といった感じで装備を出していく
ちょっと嬉しかったが、喜ぶよりも伶の不審な行動が俺を不安にさせる
まずは、半そでの白いシャツ、何も特徴のないズボンに靴、それから…
「はい、おしまい」
「はぁ!?」
「いやいや、伶さん…ここはボケるトコじゃないですよ~」
しかし、此方を見ている伶の表情が『マジです』と言っている
「俺って所謂、勇者だよね!?もっとこう剣とか鎧とかないの?」
「智大、また話聞いてなかったでしょ」
「いや、キイテマシタヨ…」
「どうせスキル一覧ばっかり見ててこの世界の事とか判ってないでしょう」
「シンジテクダサイ、キイテマシタヨ…」
片言になりつつ言い訳をする俺を見て、呆れたような伶…
まぁ視線が冷たくないから怒ってはなさそうだ
「予想はしてたし、そもそも注意しなかった私も悪かったし…」
「とりあえず後でゆっくり説明してあげるから、今は黙って話を合わせておきなさい」
『ビシっ』と指をさす伶の迫力に負け黙って頷くしかできない
コンコン
「使徒様、準備はできましたでしょうか?」
「はい、今行きますね」
伶の有無を言わせぬ指示が出たタイミングでお迎えが来たようだ
着替える時間はないので、魔法の鞄に今出した装備をしまう伶
此方を見た視線が判っているよねと言っていたので、扉を開け出て行く伶に黙って付いていくのであった