ユースティティアの試練
天秤と剣を下して身軽になったユースティティア様はもう一度説明を始めてくれた
俺達が果たす使命とは神々の試練という形で出される難題をクリアする事によって間接的に神々への信仰を深めて貰うとの事だ
難題をクリア→民衆喜ぶ→使徒様カッコいい→使徒を呼んだ神さまスゲー
に持って行きたいという訳だ
因みにレシェフのおっさんは試練の意味を理解してなくて完璧に自分の趣味に走ってたようだが、獣人族の守護者になる事で信仰を集める事になったので結果オーライって事になったみたいだ
「なんか他人任せな作戦だな」
「な、何て事を言うのですか!昔から採られている由緒ある方法です!!」
「つまり、昔からサボっていたと…」
「ウガー」
たぶん根は真面目なんだろうユースティティア様は俺の突っ込みに神さまらしからぬ叫びで悶えた
「智大、話が進まなくなるから。それで二号様の試練の内容はなんですか?」
「だから、二号はやめて!」
伶、お前も大概だよ…あぁ我がパーティの癒し役であるスラちゃんが二号様を慰めているよ
「うぅ、ありがとね。私が妖魔に慰められるなんて…でもなんか可愛いわね♪」
スラちゃんに癒されて機嫌を直した二号様がやっと話してくれた試練は二つ
一つ目はこの街の近くにある海の異変の調査と問題があれば解決してほしいとの事だった
「最近、近海にまで海棲の魔物達が現れるようになって漁が出来なくて困ってるのよ」
「今までに同じような事はあったのか?」
「無いわね。私の御膝元でそんな事が起きるなんて有り得ないわ」
ローラさんの質問に胸を反らして答える二号様
「はわわ。でも今起きてるんですよね」
「ウグッ!痛い所を突いてくるわねこの子」
「ハルカさんも話が進まなくなるから…。それで二つ目の試練はなんですか?」
今度は伶も自粛したので二号様も先程の様にはならない筈なのだが何故か人差し指をツンツン合わせながらボソボソと話すのでよく聞き取れない
「よく聞こえないぞ。はっきり話してくれないか」
「実はね、最近この街に来てくれる人が少なくなってきたの。私の事を慕ってくれて此処に住んでくれてるのに観光客が減ると収入も減っちゃうから何とかしてあげたくて…」
うん、それは神さまの仕事じゃなくて観光促進課とかお役所の仕事じゃないのか?
「使徒に観光客を増やす手伝いをしろと?」
「出来ればですけど…」
「それで神さまへの信仰が増えると?」
「いや、その~たぶん!?」
「良いでしょう。その代り成功の暁には判ってらっしゃいますよね」
伶が片手で眼鏡をクイッと上げるとレンズがキラッと光り口元には微かな笑みが浮かぶ。一見出来る秘書さんにも見えるが絶対に何か悪い事を考えてる表情だ。絶対に借りを作ってはいけない人がする表情だよ…
「はわわ、お姉さま素敵です…」
ハルカさんが見当違いの感想を述べていたが、取敢えず試練を受諾した俺達は二号様の空間を出て神殿へと戻る。
海の事なら漁師さんに聞くのが早いだろうと海岸の漁師小屋に向かい話を聞く事にした。しかし聞いていた場所に来てみた俺達は予想外の状態の漁師小屋を見て驚いてしまった
そこで目にした光景は打ち壊されて崩れた上に燃やされた小屋と真ん中から折れた船。漁網なども引き裂かれすっかり荒れ果てていたのであった。二号様の話では近海に魔物が出るとの話だったが海岸にも出没したのであろうか…
その惨状を見て固まる俺達だったが、何かに気が付いたスラちゃんがピョンピョン跳ねながら身体を伸ばしある方向を指し示す。スラちゃんを撫でてあげながらその方向を見ると真っ黒に日焼けしたおじさんが海を見ながら黄昏ていた
「すいません。この状態は何が有ったのでしょう」
「どうしたもこうしたもあるかい。魔物の奴らにやられたんだよ」
詳しい話を聞いてみると漁が出来なくなって困った漁師さんたちが協力して魔物を退治しようとしたらしい。囮の船で魔物達を誘い出し依頼した冒険者たちと協力して囲い込み全て討ち果たすことに成功したというのだ
「こんな浅瀬に出てくる魔物なんてたかが知れてる。そう皆で話し合って金も出し合って、網で囲ったところを滅多打ちよ。それでうまくいったと喜んでその夜は大宴会で遅くまで騒いで昼頃起きてきたらこの有様よ」
「仕返しされたって事か…」
途中まで威勢よく身振り手振りも交えて戦いの様子を話していた漁師さんは最後には俯きながら吐き出すように語ってくれた。慰めの言葉を掛けると崩れる様に男泣きを始めたおじさんを置いて海岸から離れる
「ふむ、海の魔物が群れた上に仕返しをするなど考えにくいの」
そもそも海は陸上と違って魔力が溜まる場所が少ない。湧き出す場所が有っても海流により広大な海に拡散されてしまう。だから海に棲む生物が魔獣化する事は少ないし、仮に魔獣化してもこの広い海で態々餌の取り合いになるのに群れる事は少ないとローラさんが教えてくれた
海棲の邪人達も弱体化する陸に上がって仕返しをすることは無いだろう。そもそも仲間意識が有るかどうかすら怪しい。ただ気になる事が有る…
「似ていますね」
「ふむ、タンドの依頼の時と同じかもしれんな」
タンドさんからの初めての依頼。盗賊の拠点の殲滅の時にいた魔法使い達は確かに邪人を召喚し巨人の眷属まで支配しかけていたのだ。結局魔法使い達からは何も聞けないまま全員が死んでしまったが口封じに動いた何者かが居たのは確かだ
そいつらが同じ事を今度は海で行っているとしたら…
「この海岸の近くに人が隠れられそうな場所を調べてみる必要が有るわね」
「いや、たぶん調べなくても大丈夫だ」
そう言いながら魔法の鞄から取り出したのは初代駄女神さまの地図。チート過ぎるこの地図は今までも俺達が必要だと思うだけでその場所が載っていた。そして今回も沖にある島に邪教徒の拠点と書いてあった。
いや、確かに便利だし手間も掛からないけどゲームのアイテムではなく実際に異世界に飛ばされた身にすればちょっと罪悪感も感じなくもない。たぶん伶もそう思ったのだろうお互いに顔を見合わせて微妙な表情になる
「はわわ、お二人ともラブラブです」
ハルカさん、違うからね。あともう少し空気を読んでください。
俺と伶は顔を赤くして照れながらも切に願うのであった
次回バトルです。ちょっとシリアスにシフトします




