エルフの隠れ里
ロダの魔境に来て十日程になるだろうか。ポンタさんが合流した後、獣人さん達は彼の指揮で各々訓練してもらっている。俺は一人で自分の技を訓練したりスラちゃんと遊んだりして過ごしてきた
「少年、戻ったぞって、何じゃスライムではないか」
「あ、ローラさんお帰りなさい。可愛いでしょうスラちゃんって言うんですよ」
スラちゃんは器用に身体の一部を伸ばして挨拶をする。最近ではジェスチャーでの意思疎通も出来る様になったのだ。
「はぁちょっと見ないうちに妙な事を始めおって… 伶に叱られても知らんぞ」
「うっ。いや、伶も可愛がってくれるよ、きっと」
「そんな事よりも、ほれ手紙が来ておったぞ」
ローラさんにはポンタさんが合流した後、ギルドに討伐証明を出しに行ってもらいにルクテに行ってきて貰った。魔獣の素材を提出しているとギルドの職員が手紙が届いてると知らせてくれたのでそのまま戻ってきたというのだ。ローラさんから手紙を受け取った俺は開封すると中身を読んでいく。肩でスラちゃんも一緒に読んでいる…読めるのか?スラちゃん
「タンドさんからですね。うわ、また厄介ごとの予感がしますよコレ」
「どれ、見せてみろ」
街道の宿場町のギルド長をしているタンドさんからの手紙の内容はルクテの近くにあるエルフの隠れ里まで来て欲しいという内容で、細かい事は行けば判ると記されていて詳細は判らない。これは伶と相談する必要が有ると思い一度獣人の町まで戻る事にし、訓練から戻ったポンタさんに事情を説明すると快く送り出してくれた。
町に戻った俺達は久しぶりに家のリビングで顔を合わせて座っている。伶は俺の顔を見て開口一番「連絡くらい寄越しなさい」と怒っていた。一時間くらい説教を聞かされたが今は落ち付いてタンドさんからの手紙を読んでいる。因みに俺の肩が定位置だったスラちゃんは伶の膝の上でポヨポヨしている
「わざわざ手紙を送ってくるくらいだから重要な事なんでしょうけど、急ぎって訳でもなさそうね」
「まぁそうじゃろう。緊急ならばギルドに直接依頼という形で連絡してきただろうからの」
「え~と隠れ里はっと…在ったここだな」
駄女神さまから貰った地図に前まで載っていなかった隠れ里の位置が記されていた
ほんと便利な地図だなこれ
「森の中に馬車では行けないから歩きかな?それだと二日位だな」
「ふふ、大丈夫よ。こんな事も有ろうかと馬車を改造しといたわ」
嬉しそうな伶。どんな改造をしたのか聞いてみたがその時になったら判ると悪戯っぽい笑顔で教えてくれない。なんかマッドサイエンティストっぽくなってるのは置いておこう
久しぶりに伶の作った和食を堪能し風呂に入る。やっぱり日本人は風呂だよな、頭の上にタオルを乗せたスラちゃんもプカプカ気持ちよさそうに浮かんでいる。明日からまた旅立つのだからしっかり味わっておかなければと思っていると扉の向こうに気配が近づいてくる
「智大、訓練は順調だった?」
「ああ、試したいことも出来たし手応えもあったよ」
「そう、良かったわね。私もね…」
浴室の外で扉に背を預け話しかけてくる伶とお互いが傍にいなかった間の事を話し込んだ。そういえばこんなに長い間離れていた事は無かった。明日からまた旅に出るのだからゆっくり話す時間もそうないだろう。
二人の会話はそのまま長い間続いた…スラちゃんが少し赤く姿もグテェーってなってたけど
野営を挟んで目的の場所に着いた俺達は獣道すらない森に入るのを躊躇していた
すると俺の肩にいたスラちゃんが伶の肩にひょいっと移動すると肩から下げている鞄を身体を伸ばして叩く。何かに気が付いた伶が鞄から取り出したのはタンドさんから貰った鈴だった。
片手に持った鈴が淡い光を放つと今まで音が鳴る事が無かった鈴が『リーン』と澄んだ音を響かせる
「は~い。あらこの匂いはタンドかしら、貴方達がお客様ね」
目の前の木々が判れるとそこから緑色の髪をした透き通った少女が浮かんでいた
盗賊たちの見張りを眠らせた精霊が目の前に浮かんでいる。あの時と同じ個体なのかは判らないが確か木の精霊だった筈だ
「ドライアド?」
「あら、この前会った男の子ね。聞いてるわよ、案内するから付いてきてね」
そう言ってドライアドが森の木々を広げてると馬車でも通れる道が現れ俺達を手招きする。慌てて馬車に乗り込み先に進ませると「逃げないから安心して進めばいいよ」と御者台にちょこんと腰かけクスクス笑っている。そのまま進めると木で作られた門が見えてきた
「やあ、久しぶりだね。わざわざ出向いて貰って悪かった」
「お久しぶりですね。まさかいらっしゃるとは思ってませんでした」
門の前で出迎えてくれたタンドさんと伶が挨拶している。ローラさんと俺も馬車をおり握手を交わしていく。
「わざわざ呼び出すとはまた難問かの?」
「そうだね。再開の挨拶はこの位にして中に入ってもらって詳しい話をしよう」
ローラさんの軽口にタンドさんも軽く答えて門を開けて俺達を誘う。中に入ると深い森の中にも拘らずそこには光が差し込み明るい村が有った。ログハウスの様な家が並び森と調和した如何にもな感じの空間だ。その広場に何人かのエルフたちが俺達を待っていた。みんな若々しく美しい顔をした男女の中心に少し落ち着いた雰囲気の人が立っている
「ようこそ客人たちよ、この村を治めているベジンと申す。この度は儂らの不躾な願いを聞いてくれて感謝しておる」
「ははは、長老。固い挨拶は抜きにしましょう。ほら使徒様も困ってますよ」
タンドさんの口調にベジンさんの後ろに控えていたエルフたちが表情を強張らせるがタンドさんは気にもしていないようだ。そのまま村の中心にある大きい建物に案内してくれる
「さて、ゆっくりする前に気にしている事を済ませてしまおう。実は君たちに頼みごとが有る」
「それはギルドの長としてですか?」
「ははは、伶君だったかな?相変わらずだね、今回はハイエルフとしての頼み事だ。だから断る事も出来るから安心していいよ」
苦笑いしながら答えるタンドさんに伶の微笑が了解の旨を伝える。他のエルフ達はタンドさんの言葉に様々な表情を浮かべているがその表情は好意的とはいえない方が多い。この事からもこの頼みごとというのが大事な物だろうと想像がついてしまう
「実は…」
「ベジン様!また奴らが村に近づいてきてます!!」
タンドさんの言葉は部屋に飛び込んできたエルフさんの慌てた言葉に遮られ、事態は急に動き出した
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