ロダの魔境~初級編
ロダの魔境には俺とローラさん、そして十人の獣人たちが付いてきていた
いつものゴーレム馬車は町に置いてきたので三台の馬車に分乗して魔境に着いた。早速拠点となる野営地の設営を始める、この先ポンタさん達が来ても使うので少し大きめにシッカリとした物を作っていく。
周りに堀や柵を巡らせた野営地は普通に作れば二~三日掛かったであろうが、ローラさんの魔法と獣人たちの体力で一日で出来てしまった。今後は小屋や炊事場を作るのも考えながら取敢えず安全だけは確保したのでそれは追々という事にした
一晩、野営をしてみて問題点を炙り出した翌朝、魔境に踏み込むのは俺たちと半数の獣人達。残りは野営地の警備と整備に充て半数ずつ訓練して行く事にした
「おー魔獣化すると随分でかくなるんだな」
「少年、でかいだけではないからの。油断して怪我などすると伶に怒られるぞ」
魔境の外周部は一面の草原で言われなければ此処が魔境だとは判らない。奥へ行けば森林や山など地形も変わり出てくる魔獣も手ごわくなるが、この辺りならば見通しも良く出てくる魔獣も弱いまさしく初級編といった所だろう
目の前にいるのは魔獣化した兎だろう。しかし、その大きさは人の腰くらいまであり頭には角まで生えている。こちらを見て逃げるのではなく威嚇しつつ飛び掛るチャンスを待っているかのようだ
「先ずは武器の使い方と標準的な人間が行う戦い方だから、見てみて自分たちに合った戦い方を考えてほしい」
俺は獣人の皆にそういうと、刀を抜いて魔獣化した兎に近づいていく
一足の間合いに到達した俺はそこで足を止め正眼に構えたまま相手の動きを待つ。威嚇の唸り声を上げていた魔兎は俺が動かないのに焦れたのか、後ろ脚に最大限に溜め込んだ力を開放すると勢いよく俺に向かって飛び込んでくる。
そのタックルを足さばきで躱した俺はすれ違う時に刀を振り下ろす。致命傷にはならなかったが浅くはない傷を付けられた魔兎は振り返るとすぐに頭の角で俺を狙ってくるが先程振り下ろした刀をそのまま下段から切り上げ先程切りつけた側とは反対側にまた傷を付ける。
怒りに我を忘れている魔兎は両方の後ろ足につけられれた傷で動きが鈍くなっているのを気づいてないのか、三回目の突撃時にそれを躱した俺は大上段に振りかぶった一撃でその首を落とした
「このように相手の動きをよく見て攻撃する事が大事です。小さな攻撃でいいので相手の動きを鈍くしてからとどめを刺してください」
「「「はい、教官殿」」」
「さて、弓隊の皆さんは先制攻撃と前衛の皆さんの邪魔にならないよう相手の牽制をするくらいの気持ちで攻撃してみてください」
「「了解しました」」
次の獲物は獣人の皆さんに任せてその動きを少し離れたところで見ていると隣にローラさんがやってきた
「随分過保護なのだな教官殿」
「茶化さないで下さいよ。初日ですし怪我をしないで慣れてもらうにはこれくらいがいいんですよ」
実際、獣人達の身体能力ならここまで慎重にならなくても十分戦えるだろう。しかし獣人たちには回復魔法を使える者がいない以上、戦士団として長く戦っていくためには怪我をしないに越したことはないのだ。その為の訓練だと俺は思っている
その後も獲物を見つけては集団で危なげない戦いをする獣人たちをローラさんに任せ、今までに倒した魔獣の解体を始めることにした。討伐証明になる部位は袋に入れ、魔石と素材に使えそうな物も別の袋に入れていく。肉は新鮮なうちならば食べられるので一纏めにして帰りに野営地に持っていくつもりだ。
そんな解体をいくら外周部とはいえ魔境のど真ん中で行っていれば、当然血の匂いに引かれた魔獣たちが寄ってくる。狙ってやっている事なので慌てることもなく刀を抜いて周りの様子を伺う
集団戦での立ち回りの仕方、これが今回俺がやりたかった修行だ
どうしても伶やローラさんが近くにいると俺が出来ることは少なくなる。しかしこの世界で役に立つためには素早く相手を倒さなければ後ろから飛んでくる魔法にやられて終わりだ。いつまでたっても足手まといのままになってしまうのだ
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…六匹か。丁度いいかな」
俺が一人なのをみても油断せずゆっくりと近づいてくる魔狼たち。俺は独り言を洩らしつつ緊張感を高めていくと俺の殺気を読んだのか足を止めた魔狼達
「それじゃぁ行くぜぇ」
俺は気合の声とともに駆け出す。魔狼達も同時に走り出している
先頭の魔狼は真っすぐに走ってくる俺に飛び掛るとその牙を首筋に立てようとして突然消えた俺に困惑する。そして、また現れた時には他の魔狼の首を刀で斬り下ろしていた。そちらに意識を向け飛び掛ろうとすると後ろから強烈な殺気を感じるが振り向けば誰もいない
ノドアさんに教わった気配の操作だ。自分の気配を消し大回りに横へ向かった俺は気配を操り実体のない自分を作り出しそれを魔狼の目の前まで動かしたのだ。その後も気配を囮に敵を欺いたり逆に自分に注意を向けたりと魔狼達を翻弄していく
野生の本能で生きる魔獣ならば目に頼る情報よりも気配や匂いに敏感なのはノドアさんに教わった通りだ。
これに殺気を乗せて複数出してやれば、魔獣たちが混乱するのではないかという俺の思惑通りに魔狼達は、一人しかいない筈の俺に攻撃を集中させることが出来ずにその数を減らしていく。
最後の一匹は恐怖と混乱で動けずにいた処を気配を消したまま首を撥ねて始末した。
「う~んこれ以上時間が掛かると匂いとかで察知されそうだな。要研究だね」
「にゃはは、面白い事をやっておったの」
俺の独り言に答えながらいつものポーズで近づいてくるローラさん
「色々考えることは良い事じゃが、基本を疎かにして奇策にばかり走るなよ」
「はい、教官殿」
敬礼をしつつ答える俺の笑顔にローラさんも笑顔で答えてくれたのであった
いつも読んでいただいて有難う御座います




