ローラさんの思惑
町を出た俺達は再び馬車の旅に戻った
田舎道と違ってきちんと整備された街道は凹凸もなく伶の創ったゴーレム馬車の性能も相まって快適な旅にな
のだが、一つ欠点があった
チートなこの馬車は自動運転で進むことが出来るのだが、流石に人通りの多い街道では人目に付きすぎるという事で御者席には俺が座っている。そして馬車の中ではローラさんと伶の女子会が開かれていた
「ところで伶、少年とはどこまで進んでおるのじゃ?」
「ど、どこまでってほぼ三人でいるじゃないですか。そ、それに智大とはまだそういう関係じゃ…」
「なんじゃ、せっかく二人にしてやったのに進んでおらんのか。すこし少年にはっぱを掛けねばならないな」
御者席にいる俺には会話の中身は聞こえないが、あの伶がアタフタしているのが御者窓から見える
ローラさんが御者台にいて俺と二人の時は本を読んでいることが多いのに随分楽しそうだなと馬車の中を覗いていたら伶がキッって感じで睨んでくるので慌てて目線を逸らす
そんな事をしていたら馬車は予め設定しておいた休憩所に自動で入っていく
慌てて、如何にも俺が操作している風を装い空いている駐車スペースに馬車を止める
街道沿いにはこのような休憩場所が幾つかある
元の世界の道の駅の様にトイレや食事処が併設されており、旅費を節約する目的でここで夜を明かす人達も居るそうだ
「このまま進むと昼過ぎには次の宿場町に着くと思うけど通り過ぎて次の休憩所まで進もうか?」
「ふむ、いや早めに宿に入ってゆっく~りとした方が…のう伶」
「な、ローラさん!い、いや行けるところまで行きましょう!お金ももったいないし」
う~ん今日の伶はなんか様子が違うな…顔も赤いし熱でもあるのか!?
「さてと、次は伶が御者台だな。調子悪いなら俺が変わるぞ」
「ほう、そうか次は伶の番だったな。少年、ちと話がある」
「わー!智大そう私調子が悪いのだから御者は任せるわ」
うん、まぁ良いけどね…
そんな旅をしながらついにルクテが見えてくる
ラクト村やポンタさんの集落が有った東の辺境と王都、そして南北の街道をつなぐ中継地点
規模は王都に及ばないものの地理的には国の中心にあたり物流や商業の中心地として栄えている
「ふ~やっと着いたぜ。まずは宿を探すか」
「それならばギルドへ寄って情報を集めましょうか」
街へ入る時に貰った簡易版地図を見ながらギルドへ向かう
ルクテのギルドは街の大きさに負けない立派な物でこの辺の町のギルドの取り纏めもしているらしい
冒険者の殆どが女性という事もあって受付はやっぱりイケメンさんが多い
ただ、規模が大きいだけに獣人の冒険者も多く他の町のギルドとは少し違っていた
「姐さん!、ローラの姐さんじゃないッスか」
「お~コンタか、久しぶりじゃの」
ギルドに入ってすぐに声を掛けてきた獣人さんが居た
どうやらローラさんの顔馴染みらしく親しそうに話し込んでいる
「この二人が今一緒に旅している仲間じゃ」
「どうも、自分コンタッス。よろしくお願いします」
コンタさんの挨拶に俺達も自己紹介していく
てか、あの人の関係者ですよね…
「こいつはポンタの弟でな、昔からよく懐いてきたのじゃ」
やっぱりか…でも細い体型でつり上がった細い目。名前がコンタなら狐か?
でもポンタさんみたいにフェイント掛けられるかもしれないので決めつけるのは止しておこう
その後、コンタさんが紹介してくれた宿に泊まる事にした俺達は、コンタさんの是非にとのお誘いで一緒に夕食を取る事にした
「そうですか、ポンタ兄は相変わらずッスね」
「うむ、相変わらずの堅物じゃ」
「ところで姐さん、何でも獣人族がレシェフ様の加護を頂けることになったとかで長老たちが騒いでいたッスが、もしかして…」
ローラさんはレシェフの事との経緯をコンタさんに説明した
すると、コンタさんは一度自分の父親に会ってくれないかと持ちかけてきた
「今、長老たちはこの問題をどうすればいいか悩んでいるッス。親爺も今後どうしたらいいか悩んでいたんで今の話を是非してやって欲しいッス」
「伶はどう思うかの?」
「ポンタさんとは使徒として獣人達を守る約束もしてますし異論はないですよ」
「えっ!この人たちが使徒様ッスすか。流石はローラの姐御!」
コンタさんの父親はこの近くの集落の長で、獣人達の長老会のメンバーらしい
後日、挨拶もかねてレシェフの話をしに行く約束をしてその日は別れた
その日の夜、公衆浴場へ行って長風呂を堪能した後部屋で寛いでいると扉がノックされる
「少年、入っていいかの」
俺が返事をする前に扉を開けてローラさんが入ってきた
「寛いでいるところ悪いの」
「いや、構いませんよ。何か有りましたか?」
俺はさっきまで座っていた椅子をローラさんへ勧め自分はベットに腰かけた
そういえば旅の間でもローラさんと二人だけで話す機会はそう多くなかったなと思いながらローラさんの言葉を待つ
「少年、この世界には慣れたか」
「う~んどうでしょう。正直、異世界に来たってのは理解してるんですけど、余り深く考えたことは無いのでこんな物かなとしか思ってないですね」
「だがの、ただ旅をしているだけで人が死ぬ世界じゃ。当然、戦いにでもなればその危険性は跳ね上がる」「はい、それは判っています」
「その上、自分の身を守るためには相手の命を断たねばならない。それを経験して元の世界に戻った時に不安はないのか」
ローラさんは普段のどこかふざけた様な感じではなく真面目な表情で問いかけてくる
何か試しているような表情に俺も真面目に答える
「難しい事は伶が考えてくれますよ。例え元の世界に戻った時に何かが狂ってもあいつが直してくれます
それに、正直この世界も元の世界も関係ないんですよね」
「関係ないとは?」
「昔、伶と約束したことが有るんです。取敢えずあいつが傍にいれば約束を守る事が出来ますんで何処でもいいんですよ」
「ふむ、思ったより芯がしっかりしとる様じゃの。その気持ち大事にするが良い。」
ローラさんは俺の答えに満足したように部屋を出て行こうと扉を開ける
そして振り返ると、いつもの表情で
「しかしの、女は言葉にしてほしい時もあるものじゃ。時には言葉と態度で報いてやらねばならないぞ」
いつもの様に「にゃはは」と笑いながら部屋を出て行くローラさんを感謝半分とからかわれたのかという不安半分で見送った
そのまま、ベットに横になった俺は、しかしどうすれば良いのか判らず考え込む
流石にこれは伶には聞けないだろうなと思いつつ眠りに落ちて行った
ちょっと展開を変える為の話です
色々考えながらフラグを立てるのは難しいです
少し慌てる伶が可愛く表現できていればいいのですが…
その辺も含めて、ご意見ご感想あればよろしくお願いします




