戦い終わって
ちょっとグロ入ってますので苦手な方はご注意ください
血走った目をしたその巨人は、何かの怒りに支配されているような狂気を振りまきながら視界に入るものにその怒りをぶつけていく
辺りには潰された邪人たちの肉塊が転がり、その惨状を生み出した棍棒には赤黒い血がこびりついていた
伶のルビーゴーレム達がミドルジャイアントの足元に攻撃を仕掛けていく
大したダメージは与えてないがその存在自体が邪魔なのかミドルジャイアントは怒りの一撃を振り下ろす
しかし、スピードに勝るゴーレム達は振り下ろされる前にその場を離れており、ミドルジャイアントの一撃は虚しく空を切る
体勢の崩れたミドルジャイアントに後ろからノドアさんの矢が突き刺さり、膝の裏のやわらかい部分を俺の刀が切り裂く。痛みに後ろを振り向けば、無防備な背中に魔法が突き刺さる
また、怒りに任せた一撃を振るい『ブゥン』という空を裂く音を残した一撃は、しかし何物も捉える事無くまた空を切った
何かしらの方法で召喚された邪人たち、そしてミドルジャイアントへの支配が完璧であれば脅威だったかもしれないが、不十分な支配での召喚は味方であったはずの邪人たちをすり潰し残るはミドルジャイアントのみ
こうなってしまっては連携を取る俺達に対してその巨体が却って不利な状態になってしまっていた
血まみれになった足を引きずりつつ、咆哮を上げるその胴体はエルフたちの魔法で切り裂かれ、ローラさんの放った炎がその顔面を焼き尽くす
その熱さに思わず仰け反り両手で顔を覆ったミドルジャイアントに俺の渾身の技が突き刺さる
刀を地面と平行に寝かした状態で柄を肩口に引く
引き絞られた矢が弓から飛び出す直前の様に力を溜めた刀を踏み込みの勢いのままで高速で突き出す
紅い光を残しながら放たれた刀はそれぞれ軌道をずらしながら三度、ミドルジャイアントの膝に突き刺さる
刀を用いた戦いでその殺傷力の高さを誇る突き技の最高峰たる三段突き
元の世界では一度も成功しなかった、それを繰り出せた喜びと実際には隙だらけの構えから繰り出した事に爺ちゃんに見られたら怒られるだろう事に俺は自然と複雑な表情を浮かべる
しかし、俺が何と思っていようと繰り出された威力はミドルジャイアントの膝を破壊するには十分な威力だった
右足が膝から下で千切れた事で巨体は二度と立つ事は叶わず、一度地に着いてしまえばもう動きようもなかった
後はただその身体に魔法を受け痛みに身体を捩りながら、両手で届かない攻撃を振るうだけであった
そして、力尽きた巨人は最後に悲しそうに一声啼くとその巨体は地に伏せ動かなくなった
「巨人の眷属たちは決して邪悪な存在ではない。その彼らをどのようにして操ろうとしたのか…」
「巨人の眷属?」
横たわる巨人の傍で、タンドさんの呟きを聞いた俺は問いかける
巨人の眷属とは、原初の巨人から生まれ時を経て様々な種族に分かれた物達。トロールやジャイアントなどの巨人たちを指すという
森の奥や山奥などに住み、集落を作り一族で暮らすという
自分たちの縄張りに侵入した者達には容赦はしないが、決して人里を襲うような事はしない大人しい種族だというのだ
伝説ではその力を認めた勇者に力を貸し魔王と戦ったとの言い伝えが有る存在だった
ミドルジャイアントは他の巨人たちと比べると知能も弱く魔獣に近い扱いではあるが、むやみに人を襲う事は無いという
何が原因だったのかは不明だが誰一人傷付くことなく盗賊たちを討伐できたことに安堵して、後始末は任せて町に戻る事にした
町に戻った俺達はタンドさんから報酬の支払いと調査結果を知らせるのに三日待ってくれと言われ、貸してもらった家でのんびり過ごしていた
「なあ伶…」
「何?智大」
「結局、今回の事って俺達の使命と何か関係あるのかな?」
「そうね、タンドさんの様子だと今までになかった事なのは確かね。でもそれが世界の危機に直結しているかは判らないわね」
伶は読んでいた本を横に置き、その膝の上に乗せていた俺の頭に手を置きながら答える
ローラさんは日当たりのいい場所を探してお昼寝中だ
久しぶりの二人だけの時間。この世界に来て初めてゆっくりできる時を過ごしている
元の世界にいた時よりも二人の時間という物を大切にするようになったのは、やはり寂しさや不安が有るのかもしれないが同時にお互いの存在をより強く求め合う様になった結果かも知れない
明日になればこの町を出る準備に追われる事になるので、今は二人の時間を楽しむ事にしよう
翌日のお昼、タンドさんからの連絡を受けてギルドへ顔を出す
受付のイケメンさんの案内でタンドさんの部屋に顔を出すと、難しい顔での出迎えに一抹の不安を覚えたのだった
「まず、今回の顛末だが不明な点が多すぎて最終的には詳細は不明としか言えない」
「不明?尋問が上手くいかなかったのですか?」
犯罪者の人権なんて保障されていないこの世界の尋問がどのような物なのかはあまり想像したくはない
しかし今回はある意味、現行犯逮捕の様なもので冤罪なんかとは無縁の物だ
多少荒っぽい真似事をしても捕えた盗賊たちから詳細を聞く事が出来そうな物なのだが…
「実は、本格的な尋問に入る前に盗賊たちは死んだのだ」
「自殺って事ですか?」
「いや、独房に入れ厳重に見張りを立てていたのだが呼び出しに行った時には…」
独房に入れ監視下にあった盗賊たちは、看守の見回りの間に亡くなっていたというのだ
しかも、その死体は干からび苦悶の表情を浮かべたままこと切れていたのだという
明らかに何者かの口封じなのだが、ギルドの厳重な監視下に置かれていたにも関わらず、悲鳴やうめき声すら出さずに干からびるというその異常な事態に戸惑うばかりだというのだ
身元が判る身分証などは持っておらず服装や遺留品などからも身元が判るものは出なかったという
今は拠点に残っている小屋やテントその他から何か判る事は無いか調査中との事だった
「正体や詳細が判らないのは不安だが、使命を帯びた君たちをいつまでも引き止めるわけにもいかないし、報酬の分配に移りたいがいいかな?」
すっきりしない部分があるがタンドさんの言う通りなので報酬の話を聞く事にした
約束通り金貨が十枚、調査の分の報酬が金貨三枚。それに小屋の中に在った略奪したと思われる品を売った売却益とギルドとして危険手当の追加分で金貨を五枚の計十八枚を貰った
命を懸けた戦いの報酬が前金と合わせて金貨二十三枚…安いのか高いのか微妙な金額だ
「あと、個人的な報酬ですがこれをお持ちください」
「鈴?」
タンドさんが手渡してくれたのは薄い緑色をした小さな鈴だった
「これを持つ者にはエルフの隠れ里へと続く迷いの魔法は反応しませんのでエルフの里への道標となるでしょう。きっと貴方達の旅に役立つと思います」
この鈴の持ち主はエルフ集落で協力を得られるというのだ
もし、俺達がエルフの不利益になるような事をするとタンドさんが罰せられるのでくれぐれも気を付けて欲しいと笑っていた
短い間ではあったがタンドさんとの絆が出来た証だと思う
明日、町を出ると伝えると寂しくなりますねと握手を求めてくるタンドさんに金額よりも得難い物を手に入れたとその手を握り返すのだった
因みに握手は伶とだったけど…
今まで展開が遅すぎたので少し早くしていこうかなと思います
あと、もう少し恋愛要素を何とか…
ローラさんは年上キャラが行き過ぎてしまってどうしても恋愛展開に動いてくれないので新キャラを作るかもしれません
色々試行錯誤してますがこれからも宜しくお願いします




