新たな火種
ス、ストックが~
調査を終え町に戻ってきた頃にはすっかり日も落ちてしまっていた
報告の為ギルドへ向かうと、受付のイケメンさんが待っていてくれた。問題が無ければこの時間に帰ってくるとあたりを着けていたようだ。イケメンで優秀なのね…爆発しろ!
「ゴレームに複数の魔法使いですか…。済みませんが明日ギルド長にも詳細を報告してもらえませんでしょうか?」
どうやら、イケメンさんの権限では処理しきれない様だ。取敢えず伶と合流して相談してみよう
宿で合流した俺達は事の経緯を伶に伝える
満足な買い物ができて上機嫌だった伶の表情が思案気な難しい物へ変わっていった
「ゴーレムの数と集団の規模、魔法使いの数が合わないのが問題ね」
「どういう事だ?」
伶の考えでは幾つかの可能性があるという
まずこの集団が普通の盗賊の様に待ち伏せ型の場合
街道沿いで動きの遅いゴーレムを使うならば、待ち伏せした上で隊商を囲む形で襲わなければすぐに逃げられてしまう、なので十体以上のゴーレムを使うのが通常みたいだ
四体のゴーレムなら四方を囲むのが精一杯になってしまうので、護衛役の冒険者達の一点突破で逃げてしまうだろう
盗賊たちの人数であればそれを防ぐ事が出来るであろうが、それなら初めからゴーレムの数を増やした方がいい
次に主力がどこかで略奪行為を行っている場合
つまり、ゴーレムが出払っている場合だ。しかしこれだと拠点に残っている人数から考えると全体の盗賊の数が多くなりすぎる。実行部隊が留守番より少ないという事はないだろうから、全体では三十人~五十人規模になる。実りの多いこの世界で辺境に近いこの場所でそんな規模の盗賊団というのは考えにくい
しかも、魔法使いを数人も留守番させるというのもおかしいだろう
最後に考えられる可能性…
未知の方法での襲撃だ。不自然に多い魔法使い、少ないゴーレムであれば普通の盗賊だとは考えない方が危険は少ないだろうと伶は言う
「実際に出たという盗賊の話や、詳細が判らないから情報不足ね。きっとギルド長との話もその辺りになるんじゃないかしら」
明日の面会には伶も参加して話を聞いてみようという話で纏まった。何やら面倒事の匂いがしてきた…
「私がギルド長をしているタンドと申します」
翌朝、ギルドへ向かった俺達は昨日のイケメンさんの案内でギルド長さんと面会した
白い皮膚に淡い薄緑の髪色。細身の姿に人よりも長い耳
タンドさんはエルフの男性だった
「こんなところでエルフに出会うとは思わなんだ。獣人のローラという」
「いやいや、私も進化個体にお会いするのは初めてですよ」
にこやかに握手する二人、エルフは長命で有名な種族で森の奥に住み他の種族との交流はあまりない
ましてや人間族の町で公的機関の長をやっているのはかなり珍しいだろう
長く生きたローラさんでさえ驚くのは無理もないだろう
そんな複雑な事より、この部屋の平均年齢はいくつになるんだろうと思いながら、俺も握手を交わしていく
「さて、早速だが昨日の盗賊の調査の詳しい報告をしてほしい」
タンドさんは俺達に席を進めると、早速本題に移る
昨日、イケメンさんにした報告をタンドさんに説明していくとその顔は少しづつ苦いものになっていく
「なかなかに厄介な話ですな。あなた達はこれをどう見ますか」
「ギルドに登録したばかりの私達には判断の付けようもない話だと思いますが?」
「ふむ、では言い方を変えましょう。この話、使徒様御一行はどのようにお考えですか」
「…情報不足ですね。何かを判断するにはまだ早いでしょう」
すげぇーインテリ同士の会話だ。なんか駆け引きテンコ盛りって感じだ
それに昨日町に着いたばかりでもう使徒だってばれてるし、ギルドの情報力もあなどれないな
「それでは、幾つか情報を開示しましょうか」
タンドさんが言うには、この盗賊たちの犯行だと思われる襲撃には幾つか特徴があるという
まず、生存者及び目撃者がいない
これは人目のない所で犯行を行い生存者を虐殺する事で自分たちの捕縛のリスクを減らす盗賊は少なくはないので残念ながら珍しい事ではないそうだ
次に遺留品が極端に少ない。
商品が無いのはもちろん、冒険者たちの装備品が無い事は間々あるらしいが遺体までが無いのだ
馬車や荷車まで無い事があったようだ
そして、襲撃場所の特定すら困難だという
実際、盗賊が頻発している事も行方不明者の捜索依頼が出されて事でやっと判った状態らしい
たまたま、大店の店主が同行した隊商が行方不明になりそれの捜索依頼が出され、その調査の中で初めて盗賊の襲撃の可能性に気付いたとの事だった
店や拠点を持たずに行商に出る者たちは近しい身内がいない事も多いし予定外の事で旅の期間が長くなることは多いので行方不明になっても発覚しづらい。大規模な隊商ですら想定外の事故や魔獣の襲撃で隊商が壊滅する事もあるのだ
行方不明の場合そういう事だと諦める事の方が多いのが普通なのだが、調べてみると行方不明者がかなりいる事が判った
盗賊がいつから活動していたのか、どれ位の被害が有るのか正確な事は判っていない。まさしくお手上げですとタンドさんは両手を軽く上げながら説明してくれた
「ここまで隠蔽するからには自分達の事ではなくその背後にいる者の正体を隠しているか、何か特別な事を試している?」
「あるいはその両方じゃろうな…」
伶が呟くように発した言葉にローラさんが被せていく
タンドさんも同じ考えに至っていたのか無言で頷き、そこからどういう答えを出すのか黙って伶を見つめている
「消極的な解決策と積極的な解決策が考えられます」
「お聞かせ願えますか」
「どちらも一長一短だという事を先に言っておきます」
消極的解決策は、討伐困難な正体不明の盗賊の存在を公にした上で行商や隊商、旅人などを一定数以上に纏めてさらに大規模な護衛をつけて移動させる事
この場合、ギルドや領主の面子は丸潰れになる。流通への障害やコストなど金銭的な負担がどの位になるかは不明だ
積極的解決策は、大規模な討伐隊による示威的な拠点への襲撃
狩人が小屋の異変を見つけた事や侵入者感知の魔道具を使ってない事から襲撃の際の証拠隠滅の割に拠点の隠蔽には労力を割いていない。そのうえ拠点が町から近い事を考えると盗賊たちは自分たちの実力に自信を持っていると考えられる
討伐隊の被害がどの位になるのかは不明な上、森の中に逃亡される可能性は高い。被害の割に成果を残せない確率は高い
しかし伶はどちらの方法を取っても盗賊たちの活動は収まるだろうと予測していた
盗賊たちは自分たちの情報が漏れる事を一番心配していると推測される。それなりの期間を活動して何かしらの成果も得ているだろう。ならば此方が本腰を入れた事をアピールすれば撤収するだろうという訳だ
「ふむ、確かに金銭や商品目当ての盗賊とは思えませんし案外有効かもしれません。ただ、どちらの案もデメリットが大きすぎますね~」
腕を組んで頭を悩ますタンドさん
暫くうんうん悩んでいたが、如何にもひらめいたって感じで
「いいこと思いつきました」
横に広げた手のひらに軽く握った手をトンって感じで打ちつけながらタンドさんが軽く言う
ってなんか始めとキャラが変わってないか…
いつも読んでいただいて有難う御座います




