レシェフの試練
獣人族へのレシェフの加護の話は後回しにすることになった。
このおっさん、神託の出し方知らないみたいで獣人族に加護知らせる事が出来ないのだ
「難しい事はアスタルテに任せておけばいいから、儂は神託など出したことは無い」
おっさんが出す筈の神託を駄女神さまに出してもらってたら、駄女神さまが戦いの女神とか勘違いもする奴もいるだろうな。んな事ばっかりしてるから八柱の中でもマイナーな神様になってんじゃないのか!?
ただ、なんだろうこの不愉快さ、近親憎悪というか何かこんな考えの奴が身近にいる気が…
「そんな事よりもだ!、儂がそなた等に与える試練じゃ」
おっさんが勢いよく宣言する
伶も突っ込まないみたいだ。突っ込んだところで話が進まなくなるだけと判断したんだろう
「この神殿から半日ほどの森の中に洞窟がある。そこにいる邪人たちを倒してくるのだ」
「え、いや。それって…」
「フッフフ、勿論ただの邪人ではないぞ。この儂が厳選した個体を…」
「いや、おっさん…」
「さらに、有望な個体にはスキルを授けて訓練も…」
「おっさん、話を…」
「まさに戦神の名に恥じない試練になって…」
「ゴンッ」
「ヌォ!」
鞘ごとおっさんの頭に刀を叩る。おっさんは頭を押えながらやっとこちらへ意識を向ける
「ぬう、貴様痛いではないか!」
「いいから話を聞け!!」
「そのゴブリン達は始末してきたぞ」
「な、何だと。儂がせっかく育てたのに…」
「しかも、洞窟で収まらなくて溢れてた上に、溜めこんでた物見ると旅人とかも襲ってたみたいだぞ」
「ゲッ。いやそんな筈は…」
サーと顔から血の気が失せていくおっさん。そりゃぁ神さまが関係のない人まで巻き込んだら色々問題あるだろう。しかも邪人を育ててましたなんて言ったら神さまをクビになるんじゃないのか?
「キングが発生した場合の群れの繁殖スピードを考えてなかったのでは?」
「さすがに獣人族もこんなバカの加護はいらないと思うのだ」
女性陣はフォローするつもりも無い様だ
いや、悪いおっさんじゃないのは判る。ただ、神さまってのが問題なだけで…
実際、一番初めにこの神殿に来たから良かったものの、後回しになってたらどんだけ被害が広がっていたか
「あのゴブリン達を倒してきたのならば合格だ。この中から欲しい物を選ぶが良い」
おっさんが合図すると、小さな光がこちらに向かった来る
光は俺達の手元で一冊の本になる
そこには、スキルや魔道具等が載っており詳しい内容や写真までついていた
「カタログギフト…」
「ありがたみがないの…」
伶とローラさんがブツブツ言いながらカタログをみているが、俺はカタログから目を離しおっさんに話しかける
「おっさん、いやレシェフさん。戦神と見込んで頼みがある」
「ほう、少年。言ってみろ」
出会ってから初めての神さま扱いに気を良くしたのか、ちょっと胸を張りレシェフが答える
「俺に戦い方を、いや強くなる方法を教えてくれ」
真っ直ぐレシェフの目を見つめながら答える俺を何かを見抜こうとするように目を開き見つめ返してくるレシェフはニヤリと笑うと盾を取り出し身構える
「十の言葉より、一度の実戦の方が役に立つ。かかってこい」
その言葉で俺も刀を抜き正眼に構える
伶がチラッとこちらを見るが危険はないと思ったのか、カタログを見ながらのローラさんとの相談に戻った
俺は刀にオーラを流し身体操作でパラを上げ、踏込みながらレシェフの盾に向かって斬りつける
盾を壊すのが目的ではなく体勢を崩すのを狙った一撃は、同じく盾にオーラを纏わせたレシェフに軽く流される
「武器にオーラを流すのではない、身体にオーラを纏わせるのじゃ。そして武器と己を一体のものにせよ」
道場で教わった「刀身一如」の極意か…
口でいうのは簡単だが、実際に理解するのは難しいんだよな。爺ちゃんも極意であり基本とか訳わからんこと言ってたっけ!?
昔の達人が強さとはと聞かれた時、「ただそのまま」と言ってたらしいが…
教えられた基本に戻る
足は軽く広げ少し左足を引く。柄を握る手は力を抜き自分の中心に沿って上から下す
力を込めず止まった高さで構える。視線は刀身を透かし相手の正中線を見つめる…だったかな!?
その状態で身体にオーラを纏う。オーラを循環させるイメージで頭から足先へ。右から左へ。身体を巡るようなイメージを持つ
「そうだ。それが気操法の基本だ」
ん!?、できたのか?。道場では全然できなくて爺ちゃんに竹刀で殴られたんだけど…
レシェフが打ち込んできた一撃を、刀を斜めに持ち受け流す。
戦斧の重たい一撃にもかかわらず刀には負荷が掛からないくらい滑らかにその力を受け流せた
「そのまま神眼を常時発動させて相手をよく見ろ」
普段、一つのスキルに意識を向けると他のスキルは制御が甘くなる。
今までは刀にオーラを流そうとする意識が強く、神眼を同時に使うという発想が無かった
オーラの制御が無くなった分、神眼に意識を向けるといつもと違う光景が見える
相手の攻撃は白い光を帯びた筋で見える。強い一撃は強い光で速い攻撃は帯が太く見える
いま、俺の視界に映るレシェフには黒い筋が見えている。
「そのまま、黒い筋に沿って打ち込んで見ろ」
言われた通り打ち込んでみる。
「ガキンッ」
レシェフが盾でその一撃を受ける。今度は受け流されずにしっかり盾に攻撃できた
「今のが相手の隙を示すものだ。それでは、こちらからも行くぞ」
レシェフが打ち込んでくる。
今まで見た事の無い強い光を、身体を前に踏み込ませながら躱す
そして見えた黒い線に沿って刀を打ち込む
横からまた光の帯がこちらに迫る。同時に見える黒い線へ打ち込むために最適な位置へ身体を滑り込ませ斬り上げるとレシェフがその一撃を盾で弾いてくる
徐々にレシェフの一撃は強く太い光の帯になり、打ち込むための黒い線は細くなっていく
「身体能力の上昇は打ち込む時と躱す時だけだ。単調にならない様に相手に動きを読ませるな」
レシェフの言うように動きに強弱やメリハリを付けると光は弱く細くなってくる。逆に黒い線は太くなっていく
レシェフが打ち出す一撃を、時に躱し時に刀で弾く。出来たレシェフの隙にこちらも刀を打ち込む
その速さに対応するために足捌きは洗練され、上半身のブレがなくなっていく
身体をどう動かせば良いかイメージできる。ここに打ち込みたいと思えば身体が自然に動かせるようになっていく
「そうだ、イメージだ!。スキルは使用者が思い描いたようにしか力を貸してくれぬ。」
「通常はこういう事が出来ると理解してからスキルが付く。だが先にスキルを得たお前たちはイメージが出来なければスキルを使う事は出来ん」
レシェフは攻撃の手を休める事無く、しかし要所要所で説明をしてくれる
説明を聞き、成長する自分が楽しくてもっと出来る。もっとだと打ち込む力が強くなっていった
いつも読んでいただきありがとうございます