人外の戦い
休載のつもりでしたが何とか間に合いそうだったので投稿します
使徒の左右に浮かび上がる魔方陣。今迄に無い大きさのそれは教祖から溢れだす闇色のオーラと無関係で無いだろう。教祖の力が増す事で目の前の使徒の力が増した事からもそれは判る
「ローラさん。さっきみたいに魔方陣を壊す事って出来ますか?」
「無理じゃな、魔方陣に注がれる魔力が桁違いじゃ。あれを消せるのなら使徒位簡単に倒せるぞ」
明らかに使徒の実力以上の魔力の流れ。魔方陣を生み出したのは使徒だが、流れ込んでいる魔力は教祖の物だろう。神の子三人を相手取りながら随分と余裕が有るらしい
「さぁおいで!私の可愛い子達!」
為す術も無く魔方陣から魔物が現れるのを見ている俺達の目の前に現れたのは馬に乗った重装の騎士と獅子の顔を持つ魔獣だった。
重装の騎士と言ってもその愛馬は明らかにアンデッドで騎士の兜の中身は闇に包まれ青白い双眸が不気味に光る死霊騎士。
獅子の顔を持つ魔獣の背中には猛禽の翼が生えており尻尾は蠍と同じ毒牙・・・伝説級の魔獣マンティコアであった。
どちらか一体であろうとA級魔境の迷宮の門番と言われても不思議は無いほどの強力な魔物達、それが二体魔方陣から現れ使徒に並ぶように此方を睥睨している
「主様が勝利するまでの間は私達がお相手するわ」
召喚に成功して満足そうな使徒が狂気の笑みを浮かべるとそのまま視線を伶に定める
「でもお前だけは別よ。主様から頂いたお力を盗んだお前だけは私の手で始末する!」
言葉が終わると同時に転移で伶の目の前に現れる使徒。魔法の発動から顕現までの速度が先程の比では無い。咄嗟に飛び込んだ俺の双剣に重たい一撃が加えられる。眼前に浮かぶ使徒の顔に額がぶつかりそうな距離で押し合い、共に相手を吹き飛ばそうと力を込める
使徒の転移を合図に飛び込んできたマンティコアをポンタさんが防ぎサポートにタンドさんが土の中位精霊を召喚する。
一方の死霊騎士と向き合ったブルーベルは大盾を前面に出しながら騎馬での突撃を防ぐ。ハルカさんが呼び出した火蜥蜴が吐く火箭が騎馬を焼くが見る間に再生して再びブルーベルへと突進していく
ハイエルフ二人が召喚魔法でサポートしても迷宮の門番クラスと戦うには人員が少なすぎるが明らかに手を抜いている魔物二体のお蔭で何とか戦えている。使徒が言ってた様にあくまでも時間稼ぎのつもりなのだろう・・・
拮抗する力比べ。双剣をクロスさせた状態で押し返すがビクともしない。闇色のオーラだけでなく身体強化のレベルまで上がっているのか、その細腕からは想像できない力だ
その拮抗を破ったのは鋭く風を切る音を響かせながら飛来した鉄球。伶が魔力操作で操るそれは使徒のいる場所目掛けて殺到する
転移では無く後ろに飛び退る事で躱した使徒。その表情は狂気を孕んだ笑顔で口元を歪めている。
「いいわ。二人纏めて相手してあげるわ」
間合いが開いている間に魔法でバフを掛けてくれる伶。属性解放で上がった身体能力に魔法のボーナスが掛かり更に増した速度で使徒に突っ込んでいく。しかし、使徒の方も余裕が有るのか転移では無く体捌きと強化された闇色のオーラで俺の攻撃を無効化していく。教祖にすら傷を付けた攻撃だと言うのにまるで意に介していないかのように捌かれてしまう
合間合間で飛んでくる鉄球すらも手で弾くようにして防いでしまう使徒。伶が手伝ってくれていなければ正直きつかったかも知れない程の圧力だが双剣での手数と伶の鉄球で何とか抑え込む事には成功している
二人掛かりでやっと互角・・・いや実力は使徒の方が上だな。手数と相性の問題で何とか抑え込んでいるに過ぎない。こうなると魔王様達に教祖の方を何とかして貰わないとどうにもならない
その魔王様達と教祖の戦いはまさしく人外の戦いだった。
各々がそのオーラを身に纏い高速で移動しながらの接近戦。ナティさんもアッティスさんも手加減するつもりは無い様で全開戦闘だ。このクラスになると敢て武器を持つ必要もないのだろう。その身体が全て凶器となって教祖へと襲い掛かる。
パワーファイターのアッティスさんが防御を無視した攻撃を繰り出し教祖を圧倒しようと力押しで攻める。当然教祖は受けに回りながらカウンターの一撃を狙うのだが、その隙をナティさんがフォローして教祖に小さなダメージを与えていく。更に魔王様が絶妙なタイミングで放つ魔法が教祖のガードの隙間へと突き刺さる。見事な連携で教祖を追い込むがその表情にはまだ笑みが浮かんでいる
虚勢なのか余裕なのかは判断が付かないが、このままならば確実に教祖を追い込むのは確かだ。
しかし一瞬の間、三人の攻撃が途切れたほんの一瞬の事だ。そのタイミングで闇色のオーラを爆発させた教祖がアッティスさんを正面から力で押し返す。そのままナティさんへと腕を振るうと流れ出していた血液が礫となって襲い掛かる。咄嗟にガードしたナティさんが血に染まり吹き飛ばされる
「ば、馬鹿な!ナティを下がらせるだと・・・」
「流石に三人はキツイね。でもまだまだ主神の力はこんなものじゃないよ?」
傷だらけで血を流す教祖、しかし表情からは余裕が漂っている。確かに攻撃は通っているしダメージも受けている筈だ。その結果として血が流れているにも拘らず力が衰えるどころか更に増してさえいるようで底が見えない
「現世で主神の糞爺と戦う羽目になるとはの」
「はい。もう周りに遠慮している余裕は有りません」
ピンチになろうとも主従の関係を崩さずにナティさんが魔王様に決断を促す
「少年よ、少し離れておれよ。ローラ、衝撃に備えろ!!」
「あら~ンお母さまに怒られるかもしれないわね~ン」
三人が更にオーラを増す。それだけで部屋全体がビリビリと振動するような圧力が加えられる。
「そう来なきゃ!心配しなくてもこの部屋は僕が目一杯力を込めて作ってあるから壊れやしないよ」
同じく教祖もオーラを増して三人に対峙する。呼応するように大剣から立ち上る黒炎も勢いを増しその熱量がユラユラと陽炎を作り出す
アッティスさんとナティさんが同時に間合いを詰めアッティスさんの拳と教祖の大剣がぶつかりあいその余波で部屋全体が揺れる。
俺達と教祖たちの間にローラさんが障壁を張り巡らしてこの衝撃だ。とってもじゃないが戦いを続けれる状態では無い。使徒も自分の傍に魔物達を下がらせ俺達も一塊になって対峙する。油断するつもりも無いが自分たちの戦いが続行できない以上は人外の戦いを観戦するしかない。
魔王様も遠慮するつもりが無いのか極大魔法を次々と連発する。どう見てもその範囲に二人も含まれているのだが気にしていない。巻き込まれた筈の二人も気にした様子も無く目の前の教祖と打ち合っている
ナティさんの影から伸びた刃が教祖を下から狙う。それを大剣で切り払う様に横に薙ぐとそのまま身体を廻して勢いを付けてアッティスさんに叩き込む。空手の交差法の様に肘と膝で挟み込んで止めようとした動きを察知したのか大剣の軌道が急に変わる。勢いを付けた大剣を膂力だけで軌道を変える教祖も凄いが、その大剣を平然と防ぐアッティスさんの筋肉の壁。普段よりも隆起した肉の壁は大剣の切っ先をその身に侵入させないで押し返す
すかさず横合いからの爪撃。ナティさんが両手で放ったそれは確かに教祖の脇腹を斬り裂く。動きを止めた教祖に更に魔王様が魔法で放った黒い槍が突き刺さる
勢いで下がらされた教祖。決して浅くない脇腹の傷と肩に刺さった黒い槍・・・しかし魔力で作った槍が霧散すると流れる血をそのままに教祖はニヤッと笑うと両手を広げて無事をアピールする。見る間に治っていく傷・・・煙が上がっているのは活性化した細胞が血液の水分を飛ばしているのだろう
「素晴らしい身体だろ?即死させ無いとドンドン治っちゃうからね」
もう『自己修復』とか『再生』のスキルの範疇では無い。明らかに異常な再生スピード、これが主神の受け皿たる肉体なのだろう・・・
「っがぁ!・・・ば、馬鹿な!!お前は・・・」
余裕の表情だった教祖が突然苦しみだす。何かの存在に反応しているようだが俺達には何も感じられない
「ハァハァ・・・なんか予定外の事が起きそうだ。悪いけど早めに終わらせて貰うよ?」
苦痛を抑え込む事に成功した教祖が荒い息を整えながら宣言する。あれだけの攻撃を受けても余力がまだあるのだろう
身構える神の子達へと獰猛な笑みを浮かべた教祖が大剣を構え直す。
ドンッと音と振動を残して間合いを詰める教祖の大剣をアッティスさんが鉄壁の肉体で抑え込もうと魔王様とナティさんの前に立つ。腕をクロスに構えて大剣を受け止めたアッティスさん、しかし重量級のその身体は呆気なく吹き飛ばされる。
魔王様が連続で放つ無数の炎弾。正面に当たる物だけを大剣で打ち払い他は構わずに魔王様へと間合いを詰める、庇う様に飛び込んできたナティさんを片腕で払うとそれだけであのナティさんが後ろへと下がらせられる
上段から振り下ろされる大剣。それを咄嗟に張った魔法障壁で防ぐ魔王様だが、どう見ても障壁程度で防げる威力では無い。徐々に高まる大剣の圧力に障壁に罅が入る
パリーンと呆気ない音とキラキラと砕け散った障壁。そのまま振り下ろされる大剣が魔王様に直撃する・・・
「おおおおおお!」
刹那、アッティスさんが低い姿勢から身体ごとぶちかます。吹き飛ぶ教祖を想像した俺達が見たのはそのまま片手で勢いを受け止めた教祖だった。
辛うじて大剣の軌道がずれたお蔭で魔王様は無事であったがアッティスさんが不意を突いて全身でぶちかましてその程度ってどんな絡繰りになっているのか。単純な膂力だけの問題では無い筈だ
「ナティ!アッティス!こやつの正体が見えた。死ぬ気で力を貸せ」
今さっき助かったばかりの魔王様の言葉が部屋に響く
呼応するように覚悟を決めた二人が左右から挟み込む様に教祖に対峙する。その瞳には覚悟の色が浮かんでいる。魔王様は何か具体的な事を言った訳では無い
しかしそれだけで覚悟を決めた二人。
そして初めて面白くない顔をした教祖
決着の時が迫っていた・・・
読んで頂いて有難うございます