教祖
呆気ないと言うか、情けないと言うか・・・まぁタンドさんが無事勝利したようなので良しとしよう。流石に今回の結末を教祖がどんな顔で語ってくれるのか楽しみにしていると、これまでと同じように画面が暗転する
そのまま教祖が映し出されるかと思っていると・・・モニターがウィーンと音を立てて天井へとせり上がっていく・・・ってウィーンってなんだよ!そこは魔法じゃないのか?思いっきりモーター音じゃないか!
そしてゴゴゴと音を立てて壁が開くと奥へと続く通路が現れる。スラちゃんと一緒に天井や床、それに壁を調べたが、モニターの後ろは盲点だった・・・案外単純な事なだけに地味にショックだ
スラちゃんを肩に乗せ通路を進む。おそらくこの先は教祖がいるであろう部屋に繋がっている筈だ。ここで更に罠が有るようだと興醒めの展開になるし、あの教祖がそんな展開を望んでいるとは思わない
そのまま暫く進むと通路の先に光が見えてくる。中に入れば豪華な椅子に腰かける教祖の姿が有った
「やあ、やっと来てくれたね。警戒して部屋から出てくれなかったらどうしようと思っていたよ」
「ふん。その時はその時で何か仕掛けが有ったんだろ?」
「あはは、やだなぁ。なんで判ったんだい?」
相変わらずヘラヘラした態度を崩さない教祖。その後ろには第一戦目でヤンデレ振りを見せた使徒が立っている。首に鎖の突いた首輪が付いているのが、叱っておかないとと言っていた結果なのだろう。
でも肝心の使徒の顔を見る限りご褒美になってないか?なんかハァハァ言いながらモジモジしてるぞ
「いやぁ~それにしてもさっきの戦い、あれはないわ。折角のトリを任せたのにね~」
「イケメン対決でタンドさんに勝てる訳ないだろ?何年イケメンやってると思ってるんだ」
ハイエルフとして長年生きているタンドさんにイケメンさんをぶつける方がおかしい。寧ろハルカさんと戦ったアミルとかいう女性の方が危なかった気がする。もっともそれはそれでハルカさんとの戦いが呆気なく終わる事になっていただろうけど・・・
「それで、お前の目的は何なんだ?約束通り教えて貰うぞ」
「目的ね~。別にこれと言ってある訳じゃ無いよ。主に退屈しのぎ?若干嫌がらせってトコかな?」
「あのなぁ」
退屈しのぎで召喚された俺達の立場や被害に遭った民衆達には溜まった物では無い返答・・・
「ああ、言っておくけど僕が指示したことでは民衆に被害出てないからね。確かにアンデッドにされた村とか盗賊の被害にあった人たちとかいるけど部下の暴走だよ」
「そんな言い訳が通じるとでも思ってるのか?お前が邪教徒達を唆さなければ起こらなかった事だろ」
「そこは見解の違いだね。僕が教祖にならなくても起きていた事だよ」
それから教祖は今迄の事を語り始めた。アンデッドの件にしても盗賊の件にしても幹部たちの能力に起因している事。そして幹部たちはみんな異世界から、つまり俺達と同じ世界から来た者達だという事を・・・
「僕は彼等を保護して纏めただけだよ。保護される前に迫害なんてするからこの世界を恨む事になるんじゃないかな?」
幹部たちはいきなりの転移に戸惑ったという。そして助けを求めたが言葉も通じず身を守るためにスキルを使った様だ。転移したてでスキルを意図して使える訳が無い、結果能力の暴走、被害の拡大、そして待っていたのは更なる迫害だ
「皆がみんな君達みたいに恵まれていた訳じゃないんだよ?」
「詭弁じゃな」
「って、ローラさん、みんな!」
「あれあれ?部屋の扉を開いた覚えは無いんだけどな?」
「ふん、小賢しい真似ばかりしよって。儂らの事を忘れているお主が間抜けなだけじゃ!」
みんなと共に魔王様も登場する。当然その傍に控えるのはナティさんだ。彼の力でみんなを此処に連れてきたのだろう
「えぇ~神の子が勢ぞろいなんてずるいよ。折角もう少しで丸め込めると思ったのにさ」
「って丸め込むって嘘だったのか!?」
「てへ?」
うわ~マジむかつくぞ此奴。テヘペロが許されるのは美少女だけだ!
「・・・智大。そこじゃないわ」
おっと、また考えが読まれた・・・
「まぁ、お主の言う様にこの世界に迷い込んだ者達の保護という意味では神々の失策であろうな。しかしお主が代わりにそれを行ったからと言って、邪神や邪教徒を巻き込んだ事に関しては言い逃れできまい」
「うん?だって邪教徒たちだって同じく迫害されてたんだからついでだよ、ついで」
おいおい、ついでで邪神に力を与えちゃ駄目だろう・・・
「それに邪神だって本当に邪神なの?神々と戦ったとか、悪さをしたってのも一方からの見方でしょ?」
「随分と乱暴な話じゃ。お主の言いたい事は判るが封印されてもなお漏れ出している瘴気を見ては、ちと苦しい言い訳じゃな」
「あれ?封印されたせいで拗ねたからかも知れないよ?」
「ふん、尚更じゃ。過程はどうあれ拗ねて瘴気を出すような神を解放されてはたまらん」
魔王様の論破が続くが教祖は堪えた様子は無い。相変わらずヘラヘラした笑いを浮かべたままだ。
「それにお主が言っておったのじゃぞ。邪神を復活させる気は無いとな」
「え~そんなこと言ってないよ?」
「神々と交渉する、と言っておっただろう?。つまりは交渉の切り札であって目的では無いという事じゃ」
「あははは、流石は魔王様だ。こっちの考えはお見通しか」
「ふん。小童の分際で百年早いわ!」
魔王様に痛い処を突かれて一瞬キョトンとしたものの、元のヘラヘラした態度に戻ってしまう教祖・・・
「それにお主の前に辿り着けば我らの勝ちとも言っておったの」
「そうだね。でも僕は弱いからって言った筈だよ?だからね・・・」
「なっ!」
セリフの後半でパチンと指を慣らす教祖。それを合図に教祖と俺を中心にして氷の壁が出来上がる
「僕は弱いからね。一人と戦うのが精一杯だよ。ああ、壁を壊す分には大目に見るけど飛び越えようとすると飛ばされちゃうよ?」
教祖が親指で後ろの使徒を指さすと使徒は魔方陣を展開して壁の上に見えない障壁を張っていく。それに触れると転移させるという訳か・・・
「ふん。どうせ初めから二人で戦うつもりだったからな」
「あはは、その気になってくれて嬉しいよ」
「名前は?」
「は?」
「名前だよ。どうせ転移してきたんだろ?」
「僕の名前はスルキーク。これでも良いトコのお坊ちゃんなんだよ!?、残念ながら僕は転移してきた訳じゃない、だけどもう一つの名前がある。僕の本名は大橋望。そう、ぼくは転生者だ」
迷い込んだにしろ召喚されたにしろ異世界を渡る時には不思議な力を授かる。俺達はアスタルテ様から使命を果たす代わりにスキルを貰ったが、迷い込んだ者達でも異能を持つことが知られている。
だが、その他にも転移者では無く極稀に現れる転生者と言われる人々がいる。
この世界の理の中で授かった命、当然そこには魂が存在している。そこに異世界の魂が紛れ込む、言ってみれば一つの身体の中に二つの魂が有る様な物だ。
そしてそれは主導権の争いという形でお互いを飲み込もうとする。異世界を渡る事で力を得た魂といえどもこの世界の理を打ち破りその魂を飲み込む事は難しい。そのため通常は異世界の魂をこの世界の魂が飲み込んでしまう。そうすると異世界の記憶は思い出といった程度しか残らない
二つの魂の力を得た物は英雄や勇者といった存在と同等の力を得る。彼等の伝記には必ずこうある、曰く私にはもう一つの記憶が有ると・・・
では、異世界の魂がこの世界の魂を飲み込んだ時はどうなるのか・・・当然この世界の記憶は無い。生まれていないのだから当然である。初めから一つの記憶しかない・・・それが真の転生者だ
この世界の理を飲み込むほどの力を持った異世界の魂。それがこの世界の魂の力を得た時に授かる力はどれほどの物だろうか・・・
「どう?驚いた?驚いたでしょう!僕はねその顔が見たかったんだよ」
ヘラヘラ笑いながら俺達を見渡す教祖・・・いや大橋望。
今わかった。彼は邪教徒達や幹部たちの力を必要としていない。その気になれば一人で神々にも喧嘩を売れる存在なのだ
「ふふ~ん。満足満足!でもねもう一つ秘密が有るんだよ~」
「ついでだ、さっさと言っちまえ」
「それは後のお楽しみさ。僕に傷を付けれたら教えてあげるよ?」
ヘラヘラした笑いは変える事無く、威圧のみ放ってくる教祖こと大橋望・・・
遂に迎えた最終決戦は完全に意表を突かれた格好から始まる事になった
いよいよ佳境に入ってきました
といった処で宣伝です。きょうから新連載『守護霊様は賢者様』をはじめてみました
宜しければそちらもお願いします