第二戦 女たちの戦い
「ありゃりゃ、そんな隠し玉を持ってたのは意外だったね。まぁこっちも使徒ちゃんが暴走しちゃったからしょうがないか。後で叱っておかないとね」
モニターの画面が伶達の戦いの場面から教祖のアップへと切り替わる。相変わらずヘラヘラとした態度で赤毛の魔法使いの裏切りなど気にもしていない様だ
「まぁでも楽しかったし良いよね。君も二人が無事で嬉しいだろ」
「ふざけるなよ。何が目的だ」
「チッチッチ。判ってないな~」
俺の質問には答えず人差し指を立てて左右に振る。
「折角のshowtime。この凄まじくつまらない世界で唯一と言っても良い娯楽だよ、楽しまないと損ってもんだ」
そう言って笑う教祖、会話として成り立たない現状にイライラする。
「まぁいいさ。次はどんな戦いになるのかな?」
「・・・自分の番になった時に同じ事が言えるか覚えとけよ」
肩を竦める教祖の映像がぶれると画面が切り替わる。画面にはハルカさん。そして邪教徒側は一人の女性が距離を取って立っている
天雷弓を構えるハルカさんに向かい合う様に立つ女性は露出の多いドレスを着た妖艶な女性。口元の黒子がセクシーさを更に増しており、夜のお姉さまチックな雰囲気。更に手に持つのは鞭とお約束の装備、ゲームの世界ならばテンプレなお色気担当キャラとしてニッチなファンが付きそうな感じだ
「ふふふ、可愛い子猫ちゃんね。このアミル様のコレクションに加えてあげるわ」
プルル~ンといった擬音が付きそうな感じで胸を張るアミルと名乗る女性幹部。ローラさんに匹敵する武器を全面に押し出してハルカさんを挑発する
「・・・デカけりゃ良いってもんじゃないです。大事なのは形です」
大きさVS形。太古の昔から繰り広げられる論争かも知れないがツルぺタ~ンなハルカさんが言うと残念ながら負け惜しみにしか聞こえない。
「フッ」
それが判っているかの様に鼻で笑うアミル。有る者の余裕といった雰囲気だ
「先手必勝です!」
それに対して天雷弓の速射で返すハルカさん。ヘッドショットでは無く面積の広い胴体を狙って放たれた複数の魔力矢が迸る。難なく避けるアミルはその胸をプルル~ンと揺らしながら鞭を振るい追撃の矢を払い落とす
「ムキィ~!これ見よがしに揺らしやがってです!」
「あら?しょうがないでしょ勝手に揺れるんですもの。揺れない貴女が羨ましいわ」
鞭を振るうたびにユッサユッサと揺れる胸。・・・ハルカさんムキになって胸を狙ってないか?
「だから揺らすなって言ってるのです!」
「ほほほ。弓を使うにはピッタリのお胸ですね」
更に煽るアミル。残念ながら前哨戦はアミルが優勢に進めていると言わざるを得ない。狙いが単調になっているハルカさんに対して余裕のあるアミル。大きさの勝負は置いておいてもハルカさんは手詰まりになっている・・・ってか、狙いを分散しろよって話だ
更に高まる鞭の速度が防戦だけでなく徐々にハルカさんにも届き始める。身軽さを生かして移動しながら矢を放ち続けるハルカさん。・・・揺れない一部が身軽さを演出しているのはスルー対象
「ふぅ埒が明かないわね~。私の可愛い子達の出番かしら?」
弓対鞭といった距離を必要とする武器同士の戦い。鞭の方が近距離でも対応できるがアミルは近距離を得意としていないのか近付こうとはしない為に膠着状態が続いている。その状態を打破しようとアミルが鞭を納めて魔方陣を展開すると湧き上がるのは・・・
「アンデッド!貴女が・・・」
「そうよ。私が死霊術士、死の女王って呼ばれているわ」
ピシッと鞭を鳴らすと魔方陣から湧き出たアンデッド達がハルカさんへと向かう。その姿は女王って言うより女王様の方が正しい様な気が・・・オ~ホッホホとか似合いそうだ
迫るアンデッド達に天雷弓の矢が突き刺さる。狙い違わず眉間に突き刺さる矢、しかしアンデッド達はそう簡単には足を止めない。命無き彼らは肉体を破壊しなければ動きを止めないのだ、命ある物を斃すのと同じ方法では倒す事が出来ない
「なめるなです!火蜥蜴ちゃん力を貸して」
火蜥蜴を召喚して焼き払い、更に魔力で放つ天雷弓の矢に通常よりも魔力を込めて放つ事でアンデッド達に対抗するハルカさん。
「ほほほ、そんな戦い方で魔力が保つのかしら?」
一般的には精霊魔法による召喚は魔力の消費が高い。しかし魔力を使うのは呼び出す時だけで呼び出した精霊が使う魔法は精霊自身の魔力を使うのでコスパ的には悪くない。しかしアミルはアンデッドの足元から巧みに鞭で火蜥蜴達を叩き潰していく。
イーフリート等の高位の精霊ならば一瞬でアンデッド達を焼き尽くす事が出来るが、密閉された室内で呼び出すには力が強すぎる。イーフリート自体はハルカさんを傷つけることは無いがその生み出した熱量は別だ。室内が高温になればハルカさんとて無事では済まない
かといって、下位の精霊である火蜥蜴では鞭による攻撃を耐える事が出来ないので倒された分、新たに召喚しなければアンデッドの流れを押えきる事が出来ない
「クッ!」
天雷弓を放つのに魔力を使い、更に新たに火蜥蜴を召喚するたびに消費されていく魔力・・・辺りに肉の焼け焦げた匂いが充満していく中、ハルカさんの表情が段々と曇っていく。
「や・・く・・・い」
「ふふふ、何かしら?頭を下げてお願いしたら許してあげるわよ」
苦悶のハルカさんの呟きに弑逆心が刺激されるのか、妖艶な表情を浮かべながらアミルが満足そうに返す。得物が自分の思い通りになるのが楽しくてしょうがないらしい
「や・・・焼き肉食べたい!!」
モニター越しに聞こえる叫びに思わずズッコケる。画面に映るアミルも鞭を止めて絶句している。
アンデッドの焼ける匂いから焼き肉を連想する奴はそうはいないだろう・・・苦悶の表情は焼き肉を我慢していた為の物だったらしい。確かによく見ると涎が出ているようにも見える
スキル『大食い』が食欲を刺激するのかオニクスキーの本領発揮なのか。アミルが動きを止めた事で天雷弓から放たれる魔力矢と火蜥蜴が放つ火箭がアンデッドを焼き払う
「や、やるわね。でもまだまだよ!出てらっしゃい!!」
再度呼び出されるアンデッド達。新たに呼び出されたアンデッド達、ゾンビはグールになりスケルトンは死霊騎士へと変化している。更にはレイスやゴーストなど肉体を持たないタイプまで呼び出されている
「むぅ。仕方ないのです。こちらも切り札を切るのです・・・師匠!助けて下さい!!」
懐から取り出した虹色の玉、それを天高く掲げて叫ぶハルカさん。当然呼び出されるのは・・・
「あら~ン。ハルカちゃんを苛めるのは誰かしら?」
広背筋を見せつける様なマッスルポーズを取りながら現れるアッティスさん。そのまま大胸筋を見せるポーズに変化しながらアミルの顔を睨みつける。今日のアッティスさんは丈の短いセーラ服にミニスカートといつもと違う服装だが、それが筋肉でピチピチになっているのはいつも通りだ。因みにセーラー服の裾は逞しいお胸の半ば・・・大事な部分が隠れるかどうかの微妙なラインを維持してる。もういっその事上半身裸でもいいんじゃね?って感じだ
「ヒィ~!き、筋肉お化け!?」
「あら~ン。この肉体美が判らないなんて・・・所詮は色気だけで美しさって物を理解してないみたいね~ン」
「師匠!やっつけちゃってください!!」
師と仰ぐアッティスさんの登場に燥ぐハルカさんとは対照的に後退りするアミル。アンデッドも天敵の出現に歩を止めている
アッティスさんが一歩前に進めば、アンデッド毎後ろに下がるアミル。その表情は恐怖に怯え色を失っている
「ふふふ。行くわよ!ムーライトエクスプレス」
密閉された室内に降り注ぐ淡い光。太陽の光とは違う、優しく儚げな月光がアンデッド達を照らす。その光を受けたアンデッド達は安らかな表情で浄化されていく
「ヒ、ヒィ~。こっちに来るな!」
アンデッド達とは正反対の表情を浮かべて後ずさるアミル。腰が抜けたのか床にへたり込んだままズリズリと後ろに下がる。恐怖なのか足元に水たまりが出来ているのに気付かない程狼狽しているようだ・・・
「ふふ~ン。眠れる者の魂を弄ぶ輩に容赦はしないわよ~ン」
指をポキポキ慣らしながら近付くアッティスさん。画面越しにも伝わってくるオーラに背筋が凍る。それを間近に受けたアミルはパタッと言った感じで気を失ってしまう
危険が去った事を察知したのか、何処かに居たフェニちゃんが飛んできてアッティスさんの肩に止まる
「ふふ~ン、正義は勝つ!って事なのよ」
「流石は師匠です!」
ドヤ顔で決めるアッティスさんは何故か両手を交差させて片方の人差し指を画面に向かって差し出している・・・
そしてバチコ~ンと言った感じでのウィンク。見えない衝撃が画面越しに飛んで来た、それだけでゴブリン位なら倒せてしましそうだ・・・
なにはともあれ、第二戦目も無事勝利した・・・が少し反則チックな感じがするのは何故だろう?
読んで頂いて有難うございます