戦いの行方
ブルーベルが振るった大剣で複数の邪人が吹き飛ぶ。その横ではリビングアーマが同じようにランスを横薙ぎにして邪人達を吹き飛ばしている。
さっきまでオロオロと様子を窺っていたのだが結局味方に付いてくれた様だ。
使徒の使う召喚魔法はある程度の力を持つ魔物を強制的に支配下に治めるという事は出来ないようだ。魔物の意思と言う様な物が残っている処を見ると契約を結ぶのではなく強制的な転移に似ている部分がある。そういった意味ではまだ未完成の魔法なのかも知れない
先頭に立つブルーベルとリビングアーマを避ける様に廻りこむ邪人達には赤毛の魔法使いの火、水、風、土の四大属性が宿った球状の魔法が放つ色取り取りな光が炸裂し押し寄せる邪人を押し返す。
しかし押し寄せる邪人の数はそれでも減る様子を見せない。ルビーゴーレム達が築く長槍と大盾の防衛線は辛うじてその波を防いでいるのが現状だ
ローラさんはその後方、魔方陣の辺り目掛けて範囲魔法による竜巻で湧き出てくる邪人達を纏めて吹き飛ばしていくのだが、此方押し寄せる数は一向に減る様子を見せない。数を重視しているお蔭で強力な個体では無く雑魚が多いのは救いだが、魔法を使い続ければ魔力も減り続ける事になる。それが枯渇すれば魔法を使う事が出来なくなるのだから、安心していられる状態では無い
しかも、後方の巨大な魔方陣からはまだ邪人が湧き出ていない。召喚に時間が掛かる位の大物が出てくる事が予想できる。そうなれば雑魚どもで減った魔力で相手をする訳にはいかない、かといって魔法主体のメンバーでは魔法以外の選択肢が無い以上、現状の魔法を節約という訳にはいかない
「こりゃあキツイっすね。ジリ貧になっちまう」
「魔力はまだもつか?」
「こう見えても魔力には自信が有るさね。」
そう話す赤毛の魔法使い。とは言え終わりの見えない邪人の猛攻に絶対の自信が有る訳でもなさそうだ。先程から魔力を絞って威力を押えた使い方をしているのがその表れだろう。ローラさんはまだ余裕が有りそうだが放つ魔法の威力が高い為、消費も激しい筈だ
「魔方陣をどうにかしないと・・・」
伶の言う通り、元凶である魔方陣をどうにかした方が速いだろう。相当な魔力が注ぎ込まれているのか湧き出る邪人達の数が減る様子は無い。
「はん!世界中の邪人を召喚するつもりかい?」
「まぁその方が平和になって良いかもしれんな」
軽口を吐きつつ魔法を繰り出す二人。まだ余裕が有るのか虚勢を張っているだけなのか・・・
炸裂した魔法の残滓で部屋に充満する魔素がブルーベルやリビングアーマに力を与える。彼等は空気中の魔力を吸収してその活動を支えている。魔力の元である魔素が部屋に充満するのは好都合で疲れ知らずの身体もあって普段よりも動きにキレが出ている
それでも使徒が言っていた様に、戦いにおいて数という物は脅威であることには変わらない。どれだけ動きが良くなろうとも全ての邪人を防げるわけでは無い。必然、後衛の魔法使い達の元へ敵が押し寄せる。その魔法が尽きた時、部屋の中の魔素も使い尽くされ、最終的にブルーベルとリビングアーマも動きを止める事になる・・・
突然途切れる魔法、赤毛の魔法使いが魔力欠乏で瞬間的に気を失ったせいだ。咄嗟に伶がその身体を受け止め魔力補充のポーションを飲ませる
「うっ!す、すまねぇ。」
伶が創った特製の魔力ポーションで復活する魔法使い。普通のポーションではこうはいかないが、そこは錬金術を極めた彼女が創ったポーション、即効性にも優れている。因みにお味はピーチ、オレンジ、ブドウと三種類ある
特製ポーションのお蔭で復活は早かったが、廻りこんでくる邪人達を防いでいた魔法が途切れる事でルビーゴーレムの防衛線に押し寄せる邪人の数が一挙に増える。そこらへんに転がっている仲間の死体を踏み台に一挙に防衛線を飛び越え、まだ蹲っている赤毛の魔法使いと伶へと襲い掛かってくる
そのまま振り上げた棍棒が二人を襲う・・・
「フン!」
横から繰り出される正拳で先頭の邪人を吹き飛ばすと、回し蹴りでもう一匹を蹴り飛ばす。流れる様な体術で飛び越えてきた邪人達を斃していくローラさん
「馬鹿者!魔力が尽きる前に回復せんからそうなるのじゃ。残りの魔力の把握は魔法使いの常識じゃろ!」
魔法使いらしからぬ体術を披露しながら魔法使いのイロハを解く姿は違和感Maxだ。しかも魔方陣の辺りで荒れ狂う竜巻の数はそのままだ
「あ、あんた。何故・・・魔法使いじゃ・・・?」
「儂は獣人じゃぞ?戦えるに決まっておろう。伶、暫く変わってやれ」
「はい。少し休んでいてください」
そう言って魔法の鞄に短剣を仕舞うと杖を取り出す伶。
「キキュン!」
そのまま無詠唱で発動された魔法は赤毛の魔法使いが放つ魔法と比べると地味な魔法。何の変哲もない小さい鉄球が伶の前に浮かび上がると邪人達の群れに飛んでいく。しかしそのスピードが尋常では無い、空気を切り裂く甲高い音を残して目の前から消え去ると邪人達の死角から反対側へと貫通、そのまま他の邪人達に襲い掛かる
「あ、あんた達・・・魔法使いに生産職じゃなかったのか?何故戦える?そんな話聞いてないぞ」
「別に必要無かったですからね。別にこれ位は問題ないですよ?」
驚きのあまり腰を下ろしたまま指先だけを二人に向けて震える魔法使い。ってか、モニター越しに見ている俺も吃驚だ。ローラさんは魔法しか使っていなかったし伶が直接敵に攻撃するところなんて見た事無い。
「赤毛の!回復したら此処を任せるぞ。儂は魔方陣を潰してくる」
「あ、ああ。判った!」
「一応、予備に渡しておきます。まだ沢山ありますから遠慮しないで下さいね」
そう言って鞄から十本ほど魔力ポージョンを取り出し並べる伶。魔法使いの魔力はほぼ満タンまで回復している。それだけのポーションがまだこんなにあるのだ。
この時、赤毛の魔法使いは使徒に感謝していた。彼女が暴走しなければこの二人と正面から戦っていたのだ。正直勝てる見込みなどないと後に語っていた
鉄球の数を増やした伶がルビーゴーレムに襲い掛かる邪人達を片づけるとルビーゴーレム達は圧力を高め防衛線を前に出す。ブルーベルとリビングアーマも邪人達を押し返すように前に出て前線へと駆け抜けるローラさんの援護を始める
その前線を駆けるローラさんの動き・・・流れる様な体術で邪人達を吹き飛ばす。襲い掛かる武器を最低限の動きで躱すと懐へ潜り込み致命の一撃を喰らわせる。死角から迫る相手には魔法を叩き込み吹き飛ばすと前へ前へと突き進んでいく
「ふむ、頃合いじゃな。吹き飛べ!」
ローラさんの魔力が弾け飛ぶと魔方陣が描かれた床ごと爆発が起きる。その余波で邪人達は天井まで打ち上げられ周りの邪人達の上へと降り注ぐ。床にはクレータが出来上がりそこに在った筈の魔方陣を消し去っている
「次じゃ!付いて来い!!」
モニター越しでも判る。もう時間の問題だ、邪人達にこの展開をひっくり返すだけの力は無い。抑々湧き上がる数に任せての力押しだ。魔方陣さえ何とかしてしまえば邪人達の力などたかが知れている。
本来、いつものメンバーであれば何てこと無い戦いに過ぎないのだ。何時もならばポンタさんとブルーベルで守りを固めている間に俺が魔方陣を潰して御終いだったであろう
しかし前で戦えるメンバーと引き離されたせいで苦戦が予想できた。モニター越しでしか見れない俺は、初めは心配して、そこからの予想外の伶の善戦。更に邪人達の召喚、またまた予想外の味方とハラハラしっ放し状態だった
「ふ~何とかなりそうだ。一時はどうなるかと・・・」
「きゅ~」
まさかあの二人があんな隠し玉を持っているとは思わなかった。
ローラさんは獣人で進化するまで殆ど魔法を使わなかったのだから近接戦闘が出来ても不思議では無い。きっと面倒だから使わなかったとか言い出しそうだ。
伶のあれは錬金術で生み出した鉄球だろう、それを魔力制御で飛ばしているのだろう。そういえば初めにそんな訓練させられたと懐かしく思う。
「取敢えずは安心だな。ローラさんはともかく、伶があんなに戦えるとは思わなかった」
何気なく漏れた独り言・・・
その自分で言った言葉にある結果に思い至る。前衛職が敵を防ぐ間に魔法の詠唱をして魔法で倒す。この世界の戦い方だ。ローラさんやハルカさんが優秀な為に魔法を詠唱する時間を稼ぐ必要はないが基本俺達も前衛と後衛に別れて戦うし、切り札はローラさんやハルカさんの遠距離攻撃だ
しかし、目の前の戦いで後衛職の二人が戦いながら魔法を駆使して闘っている・・・
あれ?俺いらなくね??
二人の無事に安心しつつ、自分のアイデンティティーに不安を覚えるのであった・・・
読んで頂いて有難うございます