哀愁のリビングアーマ・・・
昨日は失礼しました。そのかわりという訳でも無いですが増量しときました
纏める力が無いと言うだけかも・・・
「さあ、ここからが本番さ!あんたの魔法を見せて貰おうじゃないかい」
ローブを脱ぎ捨て燃えるような赤毛と赤い瞳をギラ付かせた幹部が杖を構える
「にゃはは、小娘が。囀るのはちと早い」
ローラさんも相手の挑発に乗る様に言葉を返すと、呼応するように魔力の高まりが目に見える位のオーラを身体から発する
「ふふふ。私を忘れて貰っては困りますね」
「それは此方も同じです」
使徒の女が赤毛の魔法使いの横で邪悪な笑みを浮かべるとブルーベルを伴った伶も魔法の鞄から取り出した短剣を構える
奇しくも魔法使いVS魔法使いと神々の使徒VS邪教徒の使徒という組み合わせの戦いになったようだ。今迄伶が直接戦う場面など無かったが、ブルーベルが付いているなら安心できる
「召喚!」
しかし俺の考えを余所に使徒がそう叫ぶと魔方陣が浮かび上がり光が収まるとそこにはブルーベルと変わらない大きさの鎧が現れた。
「ガチャコン」
妙な金属音を響かせ一歩前に出る鎧・・・リビングアーマ?それともゴーレムだろうか。召喚したという事は魔物と言う可能性が高いのでリビングアーマか?
どちらにせよ防御重視、素早い動きで攻撃するよりも守りを固めつつ戦うブルーベルと同じタイプとみて間違いないだろう。そこは問題ない、時間は掛かるが戦いの相性と言う意味では重装同士の力比べといった具合で特に心配する事は無い
問題は伶のほうだ。守りを固める筈のブルーベルがリビングアーマとの戦いで塞がってしまうと直接相手の使徒と戦わねばならなくなる。あの転移での短距離移動は厄介だ、実際に戦ってみたが移動に防御にと使い方を熟知している。しかも格闘戦も熟せるとあっては戦闘職では無い伶では戦いになどなる訳が無い
中央でブルーベルとリビングアーマの間合いが縮まり、お互いの武器を相手に叩きつけると部屋の中に響き渡る金属音。重厚な鎧の騎士とゴーレムの戦いが始まる。
互いに身を隠せるほどの大盾を持つ者の戦い。リビングアーマはその大盾の影からランスを突いてくる中距離の戦いを挑み、受けるブルーベルは大盾を巧みに使いランスを受け流すと間合いを詰めようと前に出るのだがリビングアーマはそれをさせじと位置を入れ替え距離を保つ
「ふふふ、聞いているわよ。貴方は生産職ですってね。私もね始めは役立たずだったのよ」
中央で巨漢の二体が争う一方で互いに使徒である女性同士の戦いは静かな幕開けになる。使徒が昔を思い出すように語り始め、戦闘職では無い伶も守りを固めたまま静観の構えだ
「でもね。そう我らが主様にお会いして変わったのよ。私の才能を褒めて下さり転移や召喚魔法を授けて下さったわ。他の誰にも出来ない事だって褒めて下さるのよ」
話しながらその場面を思い出しているのだろうか?狂気を孕んだ笑みが段々と恍惚としたものへと変わっていく
「あなたのゴーレム、確かに見事だわ。でもあなた自身は役立たずよ。主様に力を授かった私には敵わない。主様のお力で私は生まれ変わったのよ。どう?素敵な色でしょう?ほら何物にも染まらない主様と同じオーラを身に纏えるのよ、ふふふ。これでね毎晩可愛がって下さる。ああ、主様。愛しの、いいえそんな事は下らない事だわ、偉大なるあの方に私の想いなんて関係無いもの。ふふふ。あぁ主様。偉大なる主様!」
掌打の時に纏っていた闇色のオーラを全身に纏いながら彼女は続ける。左手は自らの胸を抱き左手は股間へと伸びている。最早誰に聞かせている訳でも無く情事の様子でも思い浮かべているのか身を捩りながら淫靡な表情で自分の世界に入り込んでいる
「お主の御仲間・・・随分と濃いのぅ」
「・・・悪い子じゃないんだけどねぇ~」
リビングアーマとブルーベルも戦いの手を止め、赤毛の魔法使いも何とも言えない表情になっている。
「はっ!な、何を言わせるのよ。・・・流石に使徒なだけは有るわね」
「いや、私は別に・・・」
無意味に褒められた伶もたまったものではない。目の前で同性の淫靡な表情など見たくも無いのにそれが自分のせいだと言われても反応に困る
「ま、まぁいいわ。偉大な主様の事を判って貰えただろう」
「・・・」
主の事が判ったと言われても後半のインパクトが強すぎてイマイチ凄さが伝わってないのだが、満足そうな使徒に伝える必要も無いだろう
「お喋りは此処までよ。主様から授かったこの力を味わえる事に感謝しなさい」
そう言って全身に纏っていたオーラを両手に集め一挙に間合いを詰めてくる。その動きは一流の戦闘職と比べても遜色のない動き。そこから推測される実力は伶が持つ短剣で受ける事は難しいと言える
両手に集まった闇色のオーラが渦を巻き掠っただけでもその身を抉る事が出来る程の威力が想像できる。他の二組は観戦モードに入っている為、部屋の中で動く者は使徒だけ。そして間近で対応する伶には使徒の動きは見えてない様にみえる
「貰ったわ!」
「転移!」
使徒の掌打が伶の身体に当たると思われた瞬間、発動した転移魔法。伶の姿がその場から消えた為空を切る掌打、そして体勢を崩した使徒。驚愕の表情で背後を振り返ると短剣を逆手に握った伶がコンパクトに切り掛かってくる
「な!馬鹿な」
転がる様に前に身を投げ出しその一撃を躱し距離を取る使徒の表情は驚きと言うレベルでは無く信じられないという表情だ
「転移魔法は主様が授けてく出さった物、他に使える者がいる訳が無いわ。貴方どうやってそれを盗んだの!」
「目の前で何回も使われれば魔法の構成は判るわ、そう難しい物でも無いわよこの魔法。この場合は貴方から盗んだと言えば良いのかしら?」
見て覚えると言ったレベルでは無い。使徒の使う転移や召喚魔法も無詠唱で行われているので詠唱や魔力の流れをじっくりと観れる訳では無い。しかし魔法使いでは無く魔術師としてのスキルを極めた伶にとって目の前で何度も繰り返される魔法の構成を読み解く事など造作も無い
後はそれを術式として成立させ発動すれば良いだけなのだ。実際には転移魔法というのはそんなに簡単では無い。遠距離に多数を転移させるとすれば距離と座標をイメージ、又は数値化せねばならず魔力を制御して時空間を繋がなければならない
ドライアドが使う森を繋ぐ魔法は空間のみの制御で一瞬で移動出来る訳では無い。それでも力のある精霊がやっと行えるレベルの物であって通常の人族が制御仕切れるものでは無い
転移はその上の魔法。時間さえも飛び越して移動する物なのだ。そういった意味ではドヤ顔で見下している伶の表情は作戦上の事だ。近距離でのショートジャンプの様な転移では距離が短い分、制御する条項が少ない。だからこそ伶も覚える事が出来たのだ
遠距離での転移や召喚魔法を使いこなす時空魔法の使い手である使徒であればその事は判っている筈だ。しかし彼女は主に対する思いが強すぎる為に、奪われたという想いが頭を占めてしまいそこに気付かない
「あ、あ、主様が私の為に授けて下さった物を・・・奪われた。奪われてしまったわ。私と主様の繋がり。そうこれが有るから私は傍に入れた・・・無くなってしまっては・・・・ああああああああああ!」
髪を掻きむしりながらブツブツと言った感じの呟きは最後には絶叫へと変わっていく。
「そうよ!奪われたならば取り戻せばいいのよ!奪われた事を知る者がいなければ魔法は私だけの物・・・そうよ。そうなのよ!」
「お主もあんなのが仲間では苦労するの・・・」
「ヤンデレなのが玉に傷なのよね~」
すっかり打ち解けあって寛ぐ魔法使い二人。一応敵同士なのだが今は争うつもりは無いらしい・・・
「召喚!やっておしまいなさい!!」
「な!ちょっと!私もいるって事忘れてない!?」
使徒が叫ぶと同時展開される複数の魔方陣。先程のリビングアーマを呼び出したのと同じ魔法陣が使徒の周りに浮かび上がる。それを見た赤毛の魔法使いは使徒が何をしたのか判っているのか驚きの声を上げる
「ほほほ、物量の前に飲み込まれるが良いわ。戦いは数なのよ!!」
どこぞの中将の様なセリフで独り悦に浸る使徒、その目には現実は写っていないのだ。自分の汚点を消し去る事、主との繋がりを守るという狂気が目を曇らせる
この映像を教祖が見ている事や赤毛の魔法使いもいる事など頭には残っていないのだ
「それではさようなら。邪人達に骨までしゃぶり尽くされればいいわ。転移!」
そう言い残し自分は転移で安全な場所へと移動してしまう
「はぁ~私ってホント上司に恵まれない・・・」
「それは残念ね。でも嘆く前に目の前の現実よ」
「そうね、あたいもここで死にたいとは思わないわ。力を貸すよ」
燃え盛るようだった赤毛と瞳の勢いに陰りを残しつつ魔法使いはあっさりと教祖を裏切ってしまう。その言動から自分と同じ世界から来たことは容易に想像がつく。忠誠心では無く生きる為に教祖に力を貸していたのだろう
ブル―ベルを先頭に一応の防御を固める。とはいっても前衛一人に対して後衛が三人、敵の数は膨大とあっては陣形など意味が無いだろう。
「伶!防御を固めろ。魔法使い近づく者から倒していけば良い、威力よりも速度重視じゃ」
「あいよ。その方が得意さね」
即席の仲間と場当たり的な作戦を組む。魔方陣からは大量の邪人達が湧きあがってくる
壁を背に陣形を作り魔力を高める。衝突の時は迫っている・・・
その様子を見ながらどっちに付けばいいのかと思案を重ねている様子のリビングアーマがオロオロとしていた・・・
読んで頂いて有難う御座います