教祖登場
属性持ちのファイヤーウルフとスノーウルフを斃した俺は(スラちゃんは俺の従魔だから俺が倒したって事で)狼たちの中で最強のシルバーウルフと戦っているポンタさんの元へ向かおうと急ぐ
「チュド~ン」
「キャイ~ン」
まるで漫画の様な音と光の奔流が生まれたと思うと響き渡る狼の悲鳴・・・
「少年。こっちは終わったぞ」
スッキリした顔で微笑むローラさん。えっと、ローラさん?。あなた防御を固めてたんじゃ・・・
「まぁ、なんだ。無事で良かったな智大・・・」
ポンタさんも苦笑いを浮かべながらハルバードを納める。タンドさんもお茶の用意なんか始めているし・・・
「あ~こっちはグリーンウルフ達だったからね。ハルカちゃんも手助けしてくれたし楽なもんだったよ」
「はい、私も頑張りました。後はほら、フェニちゃんも頑張ってますよ」
見ると周りを囲んだ狼たちをフェニちゃんが空から蹂躙している。高速で狼たちの上を飛ぶことでソニックブームが襲い掛かる。炎の軌跡を描く衝撃波に狼たちは逃げ惑う事しか出来ない
ブルーベルもフォレストウルフをルビーゴーレム達とたこ殴りにしている・・・
「いやぁ~スラちゃんとフェニちゃんだけで十分だったんでないの?」
タンドさん・・・俺、結構真剣に戦ってましたよ!?
どうやら俺が飛び出した後に、フェニちゃんとスラちゃんが周りの狼たちを蹂躙。防御の手が必要無くなった事でα狼たちを連携して倒したらしい。んで、独り苦戦していた俺にスラちゃんが手を貸してくれたという訳だ・・・
「俺も苦戦って程じゃ・・・大体戦い始めてからそんなに時間だって経ってないでしょ!?」
「いや~瞬殺だったね。もうあの二匹で十分な戦力!オーバーキルだよ」
「智大・・・周りを見ていない貴方が悪いのよ。後でスラちゃんにお礼を言っときなさい!」
何だこの流れ・・・味方の被害を減らすために移動したのに、俺のせいで面倒事が増えた様な言われ方してないか?
「きゅ!」
「ああ、スラちゃん有難うね・・・」
慰めると言うよりも「気にすんな!ブラザー!!hahaha」って感じでスラちゃんに肩を叩かれる。取敢えずは狼たちの撃退に成功、みんな怪我も無しという事で波風を立てる必要も無いので素直に御礼を言っておこう・・・
周囲の空はもう白くなり始めている。朝日が出るまでにそんなに時間はかからないだろう。これからもう一眠りは出来そうもないので、早めの朝食をとって出発する事になった。
狼達の死体は朝食の間にルビーゴーレム達が始末しておいてくれる。薄暗いので平気だが死体に囲まれての食事はちょっと辛い。本格的に明るくなる前に出発の判断はそういった意味でも正しかったと思う・・・
「って、なんでこんな状態でガッツリ肉料理なの?嫌がらせですか伶さん!?」
「これから戦いだから体力付けないと・・・」
いや、そうだけど。それでもちょっと、こう・・・なんていうか配慮ってものが有るでしょ?
「少年。活躍できなかったからと言って伶に八つ当たりは感心せんぞ」
「そうです~お肉に罪はありませんです」
いや、俺がおかしいの?朝から死体に囲まれて、しかも戦いの直後よ!?。それでガッツリ肉料理って・・・
「はい、ごめんなさい。俺がマチガッテマシタ」
結局は皆の冷たい目線に負けた。それに伶の作った朝食は見た目のガッツリさの割に案外サッパリと食べられた。寧ろ香辛料香りと各種の野菜で食欲が増して来ておかわりまでしてしまったのだから言い訳のしようも無いだろう
その後、準備を整えた俺達は地図を確認して教祖の元へ向かう。このペースなら朝一番で付ける筈。まずは壁の正体を確認してから作戦を練れば良いだろう。
「タンドさん。仮に魔法で作った壁だったとして壊せます?」
「多分大丈夫。土魔法で作った物なら、作るトコまでが魔法だから出来上がった壁はあくまでも土の壁だよ」
良くある設定の魔力で強化した破壊不能な壁って事は無さそうだ。
「でも、あの教祖の事だから何かしらの対策は取ってると思うよ。だから壊せない前提の方が良いだろうね」
さらりと嫌な事を言ってくるタンドさん・・・何処まで言っても相手の掌の上で転がされている感じがしてしまう
「智大。考えるだけ無駄だ。どうせ儂らは前で戦うしかないのだからやる事は変わらんよ」
「確かに。難しく考えてもしょうがないか」
社会人組に励まされながら歩いて行く。頭脳労働はインテリ組に任せよう、下手な事を考えると狼達との戦いみたいな事になりかねない。
といった話をしながら進んで行くと前方に巨大な壁が見えてくる。まだ距離が離れた状態であの大きさならば近づけばどれほどの物になるのか・・・
警戒しつつも進んで行くと、意外にあっさりと壁の前まで来る事が出来た。もっと妨害が有ると思っていたのだが・・・
丁度、俺達の正面には巨大な門が有るのが見える。如何にもって感じで無意味に頑丈そうな門扉。そしてその上は楼閣になっており人影の様な物が見える
「やあやあ、待っていたよ神々の使徒様。初めましてだね~高い所からで悪いけどまずはご挨拶しようと思ってね」
楼閣の上空に映し出される一人の男、その姿も話し方も教祖と言うよりも若い兄ちゃんって感じだ。その背後には二人の男女が控え、更に後ろにも複数の人影が見える。
態々魔法で姿を映し出し、拡声の魔法まで使う念の入れようだ。そのおちょくる様な態度に腹が立つ
「教祖殿とお見受けする。大人しく捕まってくれると面倒が無いのじゃがな」
「あははは、ご丁寧にどうも。ローラさんだったかな?でも残念ながらそうはいかないよ」
「ほう。無用な争いは不毛じゃと思うがな。少なくともお主らは此処から出られんぞ」
神さま達が封印の地を結界で覆い転移での移動を禁じている筈だ。ある意味教祖達は捕まっているのと同じ状況になっている
「ん~そこは悪役っぽく抵抗しないとさ。だってここで大人しく捕まったら話しが面白くないじゃないか」
「あくまで抵抗すると?」
「折角君たちの作戦に乗ってあげたんだから楽しませてもらわないとね」
のらりくらりと答える教祖。決して本音なんかで語っている様子は無い
「だからさ、ここからは僕たちの提案に乗って貰うよ!?」
「無理をせずともお主らを置いて立ち去るというのも手なのだがな」
「そしたらしょうがないから邪神サマの復活を餌に踏ん反り返ってる神々と交渉するよ」
両手を軽く広げて肩を竦めるポーズを取る教祖。口にした言葉からは邪神を敬っている様子なんて欠片も無い。あくまでも交渉の材料だと言わんばかりの様子だが、後ろに控える幹部たちに動揺は見えない
「ローラさんも話して解決するとは思ってないんでしょう?」
「まぁの。しかし折角出てきてくれたのじゃから降伏勧告はテンプレじゃろ?」
「あはは、面白いね。もっと早くに会いたかったよ。」
心底面白そうに笑う教祖の醸し出す無邪気な様子からは奴の目的がサッパリ読めない。
「腹の探り合いは終わりにしよう、ルールは簡単さ。僕は一番奥にいるから辿り着ければ君たちの勝ちだよ、僕は弱いからね。」
「ほう!?随分と弱気な事だ」
「その分皆が強いからね。見事僕を捕まえてみてよ」
その声と共に巨大な門扉が「ゴゴゴ」と開き始める。開き始めた門の隙間からは邪人達の姿が見える
「It's Showtime!!」
ネイティブな発音での開始の合図で邪人達の群れが門から溢れだす
俺達も武器を構えて門へと走り出す。奴の言う通り始まりの時間だ
待ってろよ。その薄ら笑いの面に拳を叩きこんでやる!
読んで頂いて有難う御座います