ルクテの収穫祭とデスマーチ
思っていたよりも順調に出来上がった二本の剣を腰に差して馬車にてルクテに向かう事になった。ゴブニュ様とヘスティア様は本当にギフトは要らないのかと最後まで心配していたのだが丁寧に断っておいた
実際、それ程必要としていなかった事と、炉を使わせて貰うために必要だったと思えばそんなに惜しくも無かった。代わりに転送してもらうという手も有ったのだが、そうなると馬車を取りに来なければならなくなるので却って面倒になる
「なにか困ったことがあれば頼ってくるのだぞ」
「そうよ。遠慮はいらないからね」
まるで一人暮らしの子供が帰る時の様な見送りに苦笑が漏れる
「はい。大丈夫ですその時はお願いします」
伶がお礼を述べて二人の神域の家を後にすると、いつもの通り白い光が晴れたら神殿の礼拝堂だった。
「おお、使徒様お戻りになりましたか。」
「ああ。ご心配かけましたか、すいません」
そういえば、奉納祭の後の宴会の最中に神域に飛んでから戻ってきていなかった。何だかんだで一週間も籠っていた様に神官さん達は思ってるんだろうな。まさか神域でゆっくりしてましたなんて言えないので適当に誤魔化して馬車へと乗り込む
「ふ~焦った。神殿の礼拝室を貸し切り状態にしちゃっていたのか・・・」
「ふふ、そうね。まぁ感謝しておきましょう」
ブルーベルは御者台にローラさんは馬車の上でお昼寝中という事で久しぶりの二人の時間だ。まぁ膝の上にはスラちゃんがいるのだけど、賢いから態々邪魔してくることは無い
とは言っても特段イチャコラする展開でも無い。他愛のない話をしながら景色が変わっていくのを見ている。ルクテ近くの獣人さんの集落に居た時はこんな時間もあったのだが、大森林に向かってからは周りに人が多かった事もあってゆっくり話す時間も無かったとぼんやり思う
伶も同じ気持ちだったのか、楽しそうな表情を見せてくれる。二人だけだと表情が幼くなるのが少し嬉しい。まぁ怒らせなければの話なんだが・・・
「いらっしゃ~い。お久しぶりですね」
「おう。ドライアドも元気だったか」
「はい、元気です。タンドさん達も先程通って行かれましたよ」
タンドさんもルクテに向かっているようだな・・・いや、あの人の事だから獣人の集落にある俺達の家で寛いでそうだ。リビングでお茶を飲みながら「やぁ、遅かったね」とか言い出しかねない
「ポンタも集落には寄るじゃろうから丁度いいじゃろな」
どうやらローラさんも同じことを考えたらしい。ポンタさんの移動は気になっていたのだがローラさんは特に心配もしていない様子だ。
ドライアドが繋いでくれた道を通って集落の近くの森に出る。そこから半日ほどで集落について家に向かうと、案の定先に付いていたタンドさんがリビングで寛いでいた
「やぁ、お邪魔しているよ」
「惜しい。そっちだったか!」
俺の反応にキョトンとしているタンドさん。考えてみれば今回はハルカさんもタンドさんに同行しているのだから、タンドさんがリビングに居てもおかしくない訳だ。
馬車の中での会話を説明すると、タンドさんも俺の発言の意味が分かったのか笑っていた。勝手知ったる様子で俺達の分のお茶を入れてくれるタンドさん。それがみんなに配られた頃に旅装を解いたハルカさんがリビングに戻ってくる
「あ、みなさんお帰りなさいです。タンドさん私もお茶が欲しいです」
「う~ん僕、一応ゲストなんだけどね」
文句を言いつつも準備をする辺りがタンドさんらしい。そうこうしている内にポンタさんも合流してアスタルテ様に会いに行く前の事前会議といった感じになってきた
「エルフの長老たちは大丈夫。ハイエルフは二人で説得すれば問題なかったよ」
ハイエルフ二人といっても元々古老に近いタンドさんと若手ながら屈指の実力者のハルカさんの二人が掛かりの説得って、それは殆ど恫喝に近いのではないだろうか・・・まぁあまり深くは突っ込まないでおこう
「獣人も大丈夫だ、元々戦士団の方は任されているからな。教団側もイストが教皇に直接話してくれたから協力してくれるそうだ」
「ふ~ん。順調そうですね・・・」
「うん?大丈夫だぞ!?」
イストさんの事を呼び捨てにしていたのを気付いていない様だ。大森林から帰ってきてからの間に随分と頑張った様だ・・・案外手が早い方なのか?
ローラさんもニヤニヤしているし他のメンバーも生温かい目で見ている。呼び捨てに気が付いていないポンタさんだけが疑問顔でみんなをキョロキョロと見渡している
「よし。邪教徒達を包囲する準備は整いそうじゃな」
「ええ。魔王様も許可を出すでしょうから問題は無いでしょう」
「後は神さま次第か・・・」
俺達を呼び出した神さまが邪教徒達への包囲網を縮める事に反対する事は無いだろう。主神代行中のアスタルテ様に話を通せば問題ないと思う。今日はこの家でゆっくりして明日にでもルクテに向かうという事で会議は解散。各自準備と休息と相成った
翌日馬車でルクテに向かう。少し早めに向かえば昼食前に着けるので、ルクテで食事をとってから神殿に向かう事にした
「あれ?少し雰囲気が違うな」
「収穫祭だからの。商業都市だから収穫とは関係ないのだが、まぁ所謂客寄せじゃな」
ローラさんの言葉の通り、店先には大収穫祭の旗が掲げられ安売りの声が通りに響いている。物流の中心地として様々な物が入ってくる街らしく商機は多い。それを逃さない様にセール品といった感じでお祭りを盛り上げているのだろう
一応、三日間の予定で収穫祭が催される予定で、今日はその初日。夜には神殿までの参道に屋台が立ち並ぶらしい。各地の収穫祭と比べても規模の大きい事で有名らしく観光客とそれ目当てのお店側の攻防が繰り広げられるようだ
「お肉・・・」
「はいはい。アスタルテさまの所へ行った後でね」
ハルカさんが準備中の屋台を眺めながらボソっと呟くのをタンドさんが嗜める。一応これから昼食なのだが、スキル『大食い』を発動されると昼食代が幾らになるか判らないので自重しておいてもらおう・・・
お祭り前の何とも言えない期待感に満ちた街の雰囲気を楽しみながら、以前にコンタさんから教えて貰った宿に向かう。此処は宿泊だけでなく食事だけでも利用できる、馬車を止めれるので非常に便利なのだ
そこで軽食をとり神殿へと向かう・・・ハルカさんの涎が止まらなくなっている。さっき食べたでしょうに
受付で話をして礼拝堂に向かう。いつもの様に白い光に包まれ神域へと移動すると、そこには・・・
「智大君に伶さん。お久しぶりです」
「お、おう。大丈夫か?」
小さいストローをさした小瓶を持ったアスタルテ様が出迎えてくれる、机の上には同じような小瓶が散乱していて表情にも疲れが見て取れる。目の下の隈も酷く女神さまのイメージからはかけ離れた姿だ
「みっともない姿ですいません、此処が最後の収穫祭です。これが終われば・・・此処さえ終われば・・・」
後半は自分に言い聞かせるように答えるアスタルテ様。ムフフと気持ち悪い笑みを浮かべながら若干トリップしている。道場に通う官僚の兄弟子が予算編成の時期に見せる表情と同じだ。人も神さまも修羅場では同じようになるらしい。異世界の神さまでもデスマーチを聞く事が有るのだな・・・
何かすいません。てっきり飲み食い目的だと思って待した
散々、駄女神さまと呼んでましたが謝ります・・・
謝りますからその不気味な笑いを辞めて帰ってきてください
「ムヒョォォ~」
女神らしからぬ叫びが神域に響き渡るのであった
読んで頂いて有難う御座います