相棒との出会い
仮眠を取ってスッキリとした様子の伶に連れられて鍛冶場へと案内される。傍らには槌を手に持ったゴヴニュ様も付いてくる。赤々と燃える炉の温度で部屋の中もムッとした熱気に溢れていた
「これでも魔法で押えているのよ。そうしないと作業なんて出来ないからね」
ヘスティア様ご自慢の炉は他の炉では出ない温度を実現する代わりに輻射熱も他の炉とは比較にならない様だ。まぁ当たり前っちゃ当たり前の事だ。一応炉の周りを結界で覆って熱を押えているが一度火を入れてしまえば作業が終わるまでは火力を落とす訳にはいかず、かといって結界内の熱をそのままという訳にもいかずという事でこの部屋の温度という事らしい
話し逸れた・・・
鍛冶場の作業台の上に有る金属のインゴット。鈍い金色に輝くその姿からは鉱物の知識の無い俺には何の金属かは判る訳が無い
しかし、ファンタジーな知識は豊富な俺にはピンとくるものが有る。あまりにも有名、かつファンタジー世界であっても希少なそれの名はオーリーハールーコーン!!っと、ネタが古すぎるか・・・
オリハルコン、言わずと知れた最上位のファンタジー金属である。硬い、丈夫、軽いの三拍子そろった万能金属で、これで作った武器は良く判らないけどなんか凄い物ってのがゲームでもネット小説でも定番だ
「その顔は判ってるみたいね。そうよオリハルコンよ」
「使徒の世界にもオリハルコンは有るのか?」
「いえ。一応伝説では沈んだ大陸で遣われていた金属と言われてますけど、実物は見つかってないですね」
まぁ伝説の島、失われたアトランティスで使われていたという金属だと昔の偉い人が本に書いたみたいだが、抑々それが本当なのかも判らない。一応は銅系の合金?とか真鍮では?と言われているが、それが本当ならばそこまで硬い金属にはならない筈だ
昔の偉い人基準では凄かったのかもしれないが、実際にどうなんだろうと言うのは謎のままっていうのが俺達の世界のオリハルコンだ
「で、このオリハルコンをこれから加工するんだけど・・・智大、持ってみて」
「って、なんだ!軟らかいぞ。なにこれ気持ちワル!!」
「気持ち悪いとはなんじゃ!この世界でも希少な物なんじゃぞ」
それはまるでスライム・・・と言ってもスラちゃん達では無くゲル状の物質の方だが、ブヨブヨした感じで触るとブニって感じで凹んでしまう
「オリハルコンは加工時にその願いを込める事で使用者の意思をくみ取る金属じゃ。生きている金属と呼ぶ者もいる位込める意思を読み取ってくれるぞ」
「逆に言うとそれが明確でなければ何をやっても加工は出来ないって事みたい」
成程ね、使用者たる俺が込めた意思で出来が変わるという訳か・・・それって結構問題じゃね?貴重な金属使っても俺が剣に対する明確な意思を込めれなかったら鈍になるって訳か?責任重大過ぎる・・・
「まぁ心配するな。オリハルコンを使った剣ならば最低限の出来でもそこら辺には無い剣になる。後は何処まで上を目指すかという事だな」
全然慰めになってないぞ、それ。伶の技術で作った刀でさえその辺の剣の出来を超えているのだ。それを上回ってこそのオリハルコンな訳で・・・
「まぁ深く考えなくていいわ。いざとなったらもう一振り刀を打てばいいだけよ」
そう言ってほほ笑む伶・・・その顔は相変わらず美しいと思ってしまうのだが、だからと言って緊張がほぐれる訳では無い。作業台の上に戻したインゴットを睨みつけるように見てしまう
「良し。それじゃあ小僧にはオリハルコンに何故、剣を持つのか伝えて貰おうか。そういったやり方の方がオリハルコンに伝わるみたいだぞ」
単に意思を込めろと言われるよりは判り易い。ゴヴニュ様の話では過去の記録などからもその方が成功率が高かったようだ。名剣に成れとか切れる剣とか考えてもそれは個人の想像の限界という物が在る、それならばこういった目的で剣を持ちますと願った方が良い出来になるというのだ・・・
「まるでこちらの願いを叶える様な金属。生きている、思考する金属と言った鍛冶師もいる位だ」
俺が剣を持つ理由か・・・正直に言えば邪神だの邪教徒、いや世界の危機すら興味が無い。元の世界に戻りたいとは思うものの伶と一緒ならまぁ良いかと思っている部分もある
だけど、この世界でも色々な縁が出来た。俺達だけが元に世界に戻ってローラさん達が困るのならば可能な限りは力を貸したい
最初、この世界に来た時は伶を守らなくてはと言う思いだけだったが、今は少し変わったような気がする
皆を守りたいと思う。パーティメンバーだけでなく係って来た人達や、神さま達・・・
俺が武器を取って戦う事でみんなを守りたい。盾になる為に剣を取るのだ・・・そして世界を救えたら伶と一緒に帰る事が出来たらと願う・・・いや、出来たらみんなを俺達の世界にも連れて行きたいな。行き来が出来たらいいのに。そんな未来を実現するために俺は戦う。戦わなくてもいいなら戦わないけど、誰かを守る為の力が欲しい・・・
鍛冶場に光が満ちる。オリハルコンが俺の願いを受け取った証らしい。
「小僧、良くやった!。嬢ちゃん作業に掛かるぞ!!」
「はい。任せて下さい」
そのまま作業に入る二人。って、俺はどうすれば良いのよ?もしかして用済み?
「あらあら、うふふふ。こっちに来て座っていなさい。今考えていた事をそのまま願っていれば良いのよ。きっと伝わる筈だからね」
ヘスティア様が少し離れた場所に在る椅子へと誘ってくれる。此処からは徹夜の作業になるようだ。二人を見守りつつオリハルコンへと願いを込めるのを温かい目でヘスティア様が見守ってくれていた
そして、そのまま一昼夜。炉に入れては叩いて伸ばし、再び炉に入れてと繰り返して出来上がったのが二本の剣だった・・・
って、あの工程でどうしてこうなる?
インゴットを熱して叩いてまた炉に入れての繰り返しだよね?
刃を研いでいないし、抑々一本分でなかったの?
「小僧。これがオリハルコンだ。お主を認め、願いを叶えるのに最適な形状を取ったのだろう。使いこなせよ」
といって、俺の肩をバシバシ叩いてくるゴヴニュ様。
「智大、お疲れ様。思っていたよりも良い出来よ。」
キラキラした笑顔で伶も満足そうな表情だ。・・・ていうか職人さんて出来が良ければいいのか?どう考えても工程的におかしいと思うのだが・・・それともこれが錬金術の極みなのか??
と、混乱しつつもその二本の剣から目が離せない。引き付けられるように手に取ると、しっくりくる。そうしっくりくるとしか言えない。まるで何年も使ってきたように手に馴染むのだ
右手に握る剣は身幅の太い直剣のような形状で先だけが細く尖っている。まぁオーソドックスな長剣だろう。左手に握る方は細身で少し長さも短い。利き手では無い為少し軽くする為だろうか
両方の剣に共通するのは切れ味、もう見ただけで斬れます、ってのが判る。
「これから宜しくな相棒」
その言葉に少し光ったような気がしたのは気のせいだろうか・・・
大丈夫だよね!?擬人化したりしないよね?
流石にファンタジー過ぎると思うが不安になってしまう
それを見透かしたように、また少し光る二本の剣
こいつ等・・・絶対からかってやがる・・・
使う前からおちょくられている様な気がしないでもないが、こうして新たな武器を手にしたのだった
読んでいただいてありがとうございます